富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

塩津能の会@宝生能楽堂

癸卯年七月十九日。気温摂氏23.5/31.7度。晴。神田淡路町で散髪(The Gollum)。本日は神保町に家人と宿泊で宿(相鉄フレッサイン)まで歩く。途中、菓子「さゝま」は日曜休。宿に荷物預け隣が天ぷらの「はちまき」で昼前でまだ空いてゐて天丼頬張る。内山書店。台湾の甘耀明の作品で先月邦訳が出たばかりの『真の人間になる』(白水社)があつた。冒頭を少し読みながら「内山書店なら台湾の原書があるか」と思つて店員に尋ねると「確かまだ一冊あったはず」と見てくれて「サイン本ですけどいいですか」。

成為真正的人(minBunun) (Traditional Chinese Edition) 甘耀明『成為真正的人(minBunun)』

甘耀明を『神秘列車』とか『殺鬼』とか読んできた身でサイン本が悪いわけがない。甘耀明さんは先月、東京に来られてゐたのだつた。

甘耀明×温又柔「多民族・多言語が響きあう物語の魅力」『真の人間になる』刊行記念 – 本屋B&B

水道橋。宝生能楽堂。塩津能の会。喜多流なので喜多能楽堂(目黒)で開催されてきたが喜多能楽堂の改修工事中のため水道橋での開催。

〈花筐〉は一年前に渋谷の能(セルリアンタワー)で村上湛君の優れた解説を聞いて初見だつたもので今日はそれがあつたから大分きちんと拝見できたのは幸はひ。古代史の謎である継体天皇に纏はる物語(こちら)で、それが世阿弥によつて能として纏められたのは足利義満による南北朝統一があつてのことで能が当時どれだけ政治に寄り添つたか。

万作師の〈川上〉。この狂言は八月の観世定期能で萬斎さんで拝見してゐるが後者(萬斎)がかなり「演出」のきちんとしたものだつたのに対して前者(本日の万作)はもう演出の彼岸の世界。たゞ何も考へず万作師の動きを追へばよい。

西行櫻〉については5月の日記に村上湛君の言及(4月の大槻能楽堂での万三郎師のそれ)について書き残してゐるが(富柏村日剩20230504)今日の塩津哲生師のこれもわかりやすい表現を超越した世界観であつて、そこにこちらも辿り着いていなければいけないのだけれどシテ方の目の前での所作の一寸したことになどに気が散つてしまふから。湛君からアタシはいつも観世のお家元や大槻先生の、彼の一言でいへば「カラヤンのやうな」のばかり見てゐるから今日のやうな舞台に違和感を感じるのよ、と。確かに。本日の〈西行〉はワキが常三師、囃子方も亀井忠雄先生が予定されてゐたもので小鼓が源次郎師、笛が松田先生で太鼓が林雄一郎さんだつた。まだ亀井先生が大鼓を打つてゐたら、といふ空想をしてしまふ。数年前に日本に戻り慌てゝ能を見始めたがぎり/\間に合つたことになる至福が亀井先生の打つ大鼓だつた。

水道橋から神保町に歩く。天気も良く夕方の都心は酷暑も少し秋の気配。


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家人と待合せ神保町のスペイン料理オーレオーレで早めの夕食。こちらは昨年10月に学士会館に宿泊した晩に偶然ふらりと立ち寄つて今晩が二度目。まるでもう常連のやうに扱はれるが日曜晩の神保町で六時すぎにはもう満席なのは客がこの食肆のこの雰囲気を好んでゐるからなのでせう。宿に戻り読書。ホテルの入り口のチラシ棚に『神保町が好きだ!vol.16』(2022年11月号)があつた。特集は「辞書と辞典と神保町」で実に面白い内容。三省堂が明治時代に「日本百花大辞典」の編纂発行で経費が嵩み一度倒産した「百科倒産」あつたとは。例へば「将棋(しやうぎ)」の項目だけで執筆者の一人、金田一京助は朝鮮から支那にかけ三ヶ月の取材旅行をして将棋について調べたといふ。この三省堂の倒産は大隈重信らの支援で会社として再出発したといふ。

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