富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

歩道橋の魔術師

fookpaktsuen2015-07-14

農暦五月廿九日。昼に中環の某有名高級日本料理屋に飰す。天ぷらコース。最初に和風サラダの小皿供されカウンターで日本人の揚げ方が先ず海老から揚げ始める。で海老を頬張らうとする頃に「ん?」ご飯、味噌汁と漬物、茶碗蒸しが登場。「ご飯お持ちしますか?」と尋ねられもせず。定食でテーブル席で天ぷらが盛り合わせで供されるのならご飯や汁物一緒に出てきても不思議じゃないがカウンターで種々揚げてゆく場合は、これは一寸愉しくない。海老(小)二匹のあと鱚(きす)それに烏賊だつたか白身魚だつたか、で松茸含む一口大の野菜が数種揚げられて最後に小かき揚げで、すっかり冷めたご飯か、と思つてゐたら野菜で「コースは以上になります」ださうな。仕方ないので追加で「小さめで」と、かき揚げ注文。すると薩摩芋やコーンの入つた野菜のかき揚げ(総菜屋か)。場所柄、金融関係などエリートビジネス客と富裕層で満席、客が店をつくる、を期待しても所詮、無理か。早晩に今日もジムのトレッドミルで5km走る。誠品書店で台湾の呉明益の短編集「天橋上的魔術師」贖ひ帰宅して干しホッケ焼いて食した後に、これを読む。2011年に出版されてゐるが日本で最近、白水社から邦訳「歩道橋の魔術師」が出て話題に。白水社といへば私にとつては『チボー家の人々』やサリンジャーの『ライ麦』など「白水社が出す小説はすてき」といふ印象あり。80年代の都市開発で取り壊された台北の中華商場が舞台。そこで謎の魔術師がゐて、中華商場で育つた子どもたちが昔語りで不思議な話がいくつも続く……と、それだけでゾク/\で乱歩的な恐怖感とエロティシズム期待は私だけぢゃあるまい。アタシも80年代初頭に、まだ中華商場が在り鉄道も路面走つてゐた時代の台北訪れてゐるが中華商場ぢたいは当時すでにノスタルジックな感じもしたが西門町ほどワイルドでもなく、とくに琴線に触れるほどでもなかつた。白先勇は新公園なのも当然。アタシなら当時を小説にするとしたら間違ひなく「圓環」を選ぶだらう。中華商場が私らの記憶に残る作品としては何といつても侯孝賢監督「戀戀風塵」で遠と雲の二人が靴を買ひにゆくシーン。で、読み終はつてみると、なるほど中華商場が村上春樹的ワンダーランドに描かれ、どこか猥雑さのある昭和的な雰囲気といふ点、過去回想のスリリングさ(20世紀少年のやうな)を除けば著者の作家としての小説の発想も技法も興味深いところあるが(魔術師の操るチビクロなど)、邦訳が出て日本でそこまで評判になつたといふのがアタシにはピンとこない(といふかアタシの乏しい感性では、いつも小説の面白さがわからないのだが、漱石もさうだし)。ムラカミハルキ好きなら、この作品は受け入れ易いかしら。特記しておくべきことは台湾の作品は「絶対に」といつてもいゝが何らかの形で「日本」が出てくるのだが(白先勇の「孽子」における生活の中にある「日本」のやうに)、この作品で「日本」は皆無。強いていへば「那時我們所在的第五棟,一端是「國際牌National」的巨大霓虹燈」と中華商場の南端に巨大な松下電器のネオンサインがあつたくらゐ(それで邦訳本に、その夜景写真が象徴的に使はれてゐる)。もう一つ、小説のタイトルの「天橋」だが、これが和訳では「歩道橋」になつてしまふのが残念。「天橋」にぴたりと当てはまる日本語がない、名勝で天橋立はあるのだが。歩道橋はだうしても横断歩道の代わりに道路を渡る橋のイメージで、仙台駅前もペデストリアンデッキと無理に英語で呼ばれてゐるが、中華商場を建物から建物に渡る天橋は、が、まさに空中廊下。
▼本日、衆院安保法制公聴会同志社村田晃嗣学長先生登場。相変わらずトラッド超えて奇抜な衣装と配色。このスーツにあのシャツ、あのネクタイ、あのスカーフと超弩級のコーディネート。この方を自民党推薦。先日の憲法学の「違憲三人衆」に勝つのは、これくらゐのキャラが必要なわけか。村田姐さん、自らも含め安全保障専門の学者は法案に肯定的、と。そりゃさうだろ、風が吹けば桶屋が儲かる憲法学者違憲判断に対するアンチテーゼだが憲法学者憲法が肯定されても否定されても職を失はない。築地H君が「安全保障政策において集団的自衛権が必要かどうかという議論と、そうした政策が憲法の範囲内にあるかどうかは別の次元の話なのに、前者が必要だと強く主張すれば後者の議論はしなくてもよくなると思ってる人がいる」といふ指摘が頷ける。
安倍内閣支持率39%、不支持率42%で第二次晋三内閣で昨年衆院選前以来2度目の支持不支持逆転(朝日新聞)。遅すぎる、といふか最初から晋三など支持するのが大間違ひ。安保法制賛成26%で反対56%と過半数。法案が憲法に違反48%で違反してゐないが24%。今国会での成立必要が19%で必要ないが66%、安保法案成立が日本の平和と安全に役立つ31%で役立たない42%。アベノミクスも今になつて経済成長に期待できないが42%で期待する32%上回り景気回復の実感ある19%で実感ないが74%、あんなものに騙されたものが愚か。新国立の計画通りの建設に賛成は18%で反対が71%と晋三のすることなすこと全て国民に否定されてゐる。ざまぁみろ、であるが「遅い」。
自民党石破茂が安全保障関連法案の審議めぐり

国民の理解が進んでいるかどうかは、報道各社の世論調査の通りで、まだ進んでいるとは言えないと思う。あの数字を見て「国民の理解が進んできた」と言い切る自信が私にはあまりない。なぜなのかと考えた時、物事が極めて抽象的でリアルに考えにくいということがある。理解が進まないことに「報道が悪い」と八つ当たり的なことを言っても仕方がない。私たちもきちんと語る努力が十分ではなかったという反省がある。衆院でいつ採決があるか(わからないが)その後にも参院審議がある。法案成立まで総理や担当大臣に任せておけばいいということじゃなく自分の選挙区できちんと説明出来ているか我が党の議員は心しなければならない。

とすでにポスト安倍狙ひか真っ当なコメント……のやうだが、よーするに、これで自民党がコケるとポスト安倍で自分が政権とれず野党総裁で終はるから晋三の無理は困る、といふ程度の発想か。
▼「歴史は繰り返す」といふが安倍首相は祖父の手法をなぞつてゐるだけだ、と鎌田慧東京新聞)。訪米で大統領に約束、国会延長と強行採決。岸首相は世論の批判浴び退陣、右翼に刺されたのは結局、自民党が右翼を使ひこなせず。今の政権は右翼化したと言はれるが更に米国従属を深めた点が不思議。「私がやりたいことと国民が先ずこれをやってくれということが必ずしも一致していなかった、そのことがしっかり見えていなかった、私が一番反省しているのは、その点です」といふ殊勝な反省が第一次安倍内閣崩壊の総括だつたさうで「なんだ、何も学習していないかないか、とため息が出る」と鎌田氏。民主主義を崩壊したと批判された祖父の55年前の強行採決と同じ轍を踏むやうだ、自らの墓穴を掘るだけ、と。晋三が墓穴掘るだけなら勝手に掘って落ちてほしいが、集団的自衛権だの安保法制残されるのが厄介。

歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)

歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)