富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月十九日(日)薄曇。用事もなき日曜なれど朝七時には起床。新聞数紙に目を通し十時にはジムで一時間有酸素運動。昼にかけてFCCにて新聞読み昨日の日剰綴る。お昼はアールグレイ茶と胡瓜のサンドヰツチにしたいのだが胡瓜は北回帰線以南は見た目ヘチマの如し。メニューには野菜サンドないが給仕に頼むと注文通り野菜サンドと紅茶。香港馬Cape Of Good Hope(喜望峰)英国のローヤルアスコット競馬にて見事栄冠に輝く。テレビニュースにてその雄姿見る。先日の安田記念といい今回といい香港馬のレベル向上。それに比べ香港での競馬興業ぢたいの売上げ的には衰退が悲しいかぎり。このニュースも競馬売上げ回復には一切結びつかず。午後もまたジムに戻り筋力運動一時間。復たFCCに戻りドライマティーニ二杯。中環は庸記向かいの黄枝記にてカレー牛南麺食す。黄枝記は澳門の確か十月初五街に本店あり。一九四十年代に広州で当時非常に流行つた竹升打麺(竹を用いての製麺技術、現在でも香港なら灣仔の永華麺家であるとか澳門の祥記など僅かに残る古法なり)を習得せし黄煥枝が1946年に地元・東莞で開業し51年に広州に移り59年から澳門にて経営する広東麺の名店。去年だか蔡瀾氏らの口添えか香港でも支店開業。確かに美味いがHK$24は余が贔屓の陳成記の値段の倍近し。タクシーで香港大学。Z嬢と待ち合わせ大学美術博物館で館長の畏友A君が熱心に保存運動する中区警察署の施設建物の写真展(今日まで)参観。それと同じ場所で昨年A君と一緒に関西を旅同行のE女史ら撮影のトラムの走る都市風景の写真展も観賞。中区警察署の写真はA君の解説にあるがわずか三時間の訪問で呉某といふ写真家が撮影の見事さ。偶然なる必然だが見事な陽光で写真が活きる。ぶらぶらと散歩し粗呆地区から中環。政府による営業権撤収が確定の民園麺家と隣の玉葉甜品は閉業惜しむかかなりの賑わい。三度FCC。ステラアルトワを1パイント。Z嬢に呆れられながらBush Millsの10年物をロックで1杯。ジムで昼にメンバーシップが「もうすぐ」切れると言われ実際には今年末なのだが2年の契約更新で更に無料で2年延長で計4年と言われ而も余の取引銀行のカードでなら1年の分割払いも無利息と言われZ嬢も同じ頃契約更改ありのため早々に契約更新。4年でみれば月額HK$133で十数年前に当時は入会金も数千ドルで月々HK$450だか払つていたこと思い出す。どこかで雑に粤菜が食したいとZ嬢の所望で一瞬、通りがかりの香滑カレー店にも食指動くがZ嬢は昨晩、余も考えてみれば昼がカレーで断念。蓮香楼に参れば午後六時すぎですでに予約と早晩の客ですでに満席近いが辛うじて卓あり。梅菜蒸猪肉、羅漢豆腐、野菜を食す。美味。上環よりバスに乗れば中環に醤油の大店・李錦記大きな看板あり「愛国家、愛香港」と。バカぢゃなかろうか。たかだか醤油屋。反右派闘争か文革の時代なら左派からの攻撃を避けるための愛国ぶりか。醤油屋は頑固に醤油を作って量り売りしておればよろし。愛国など宣伝するべからず。金輪際、李錦記の醤油産品は用いず(李錦記と並ぶ二大メーカーの陶大醤油はキッコーマンに対するヤマサ醤油の如し。英名はアモイ。創業者が福建省廈門(アモイ)の出身。一昨年のSARSの疫禍にて話題となりし集合住宅アモイガーデンはちなみにこの陶大醤油の製造工場跡地に建てられたもので、それゆへ陶大花園(アモイガーデン)と名づけられる)。帰宅して大河ドラマ義経」見る。大河ドラマとはいへ平家の都落ち、義仲の入京、後白河法皇の御所焼討ちなど歴史の大事件をさっささっさとスライドショウの如く描く。驚くばかりの軽薄さ。平幹二朗後白河法皇も当初は興味深かつたが、もはやトリックスター役で夏木マリとのコンビは(正確には草刈正雄と三人だが)アダムスファミリーの如し。後白河法皇といへば79年の大河ドラマ草燃える」での松緑(先代)の法王役を思い出し政治術に長けた法王を紀尾井町が見事に演じる様昨日の如く思い出すばかり。
▼信報の文化欄で映画評論家の王慶鏘氏が多言語翻訳システムのBabelFishを紹介し、これがダグラス=アダムスのSF小説“The Hitchhiker's Guide to the Galaxy”(邦訳は『銀河ヒッチハイクガイド』は新潮文庫のこの表紙絵がステキ)で「小さくて黄色の、蛭みたいな恰好で、これは宇宙で最も奇っ怪な道具だけど、このバベルフィッシュを耳に装ふだけで世界中のどんな言葉も聞き取ることができる」といふ道具。ネット上で多言語翻訳のシステムが使える時代になって、その製作者はこの小説からバベルフィッシュといふ名を借用したらしいが(王氏は日本や韓国の映画関係者とのメールでの交信にこれを用いているらしい)この小説はかつてBBCでドラマ化されて好評だつたと記憶するが映画も製作されたのだろうか。
▼紐育タイムスでトーマス=フリードマン氏が書いた“Save us, O Toyota”が面白い。もうゼネラルモータースも豊田自動車が買収すべきでは?というわけで、それがどういう効用があるかと言えば豊田のここ数年のハイブリッド自動車の生産は地球環境に優しいばかりか豊田の自動車開発の重要性は石油に依存した世界経済をも変えるほど影響があるもので、中東の石油生産の今後の価値に影響があるとすれば豊田のハイブリッド自動車生産は米国経済、政治政策にも影響がある、そのうえ今日の世界にとつて最も大切な地球の自然環境破壊を食い止めるエコ経済重視すべき、とフリードマン氏。
▼練乙錚氏の連載第六回(十八日・信報)。社会政策の後退が階級矛盾を上昇させた、といふ題で述べるは、香港政府の社会政策での無策ぶり。社会といふものは貧富の差だの社会矛盾があり階級の衝突があり、それが自由経済&民主主義の社会であれば、階級の衝突と社会的矛盾が経済市場において作用し富の再分配として機能し調和してゆく「はず」なのだが(産業革命以降の英国や日本を見ればわかる通り)(この観点はマルクス主義にあらずシカゴ学派フリードマン教授の説を練氏は引用)。香港の問題は97年から香港政府は政府の経済政策が一握りの財閥の影響を受けるだけで香港社会の現実から乖離してしまつたこと。この「大資本のために政府が存在する」ような状況が香港以上に深刻なのが中国。確かに、登β小平の特色ある社会主義でも全体が豊かになることが最終的目標でもまず一部のものが先に豊かになること、が具体的にはそこから富の分配が始まり……といふ点では現実的であるが実際の中国の状況は、その中国は開放経済政策で「世界の工場」となり世界上の資本家と中国の労働力が対峙する中で中国共産党で中国史上最大の「買辧」階級となつた事実(「買辧」を日本語にするのは難しいが清末から民国時代に米英列強の資本につき中国での商売に尽力した地元資本階級のこと)。政経社会が未成熟で階級利益の衝突があつた場合、社会の穏定を国家が企図する場合はファシズムに陥る危険性。共産党が無産階級を代表する党であるタテマエのもとで実際には資産階級のために党政府が存在するとしたら最大の矛盾。香港は元来、経済が政治の影響受けぬことが伝統であつたが中国のこの政治経済体制の影響は受けぬはずもなく、とくに香港の企業が中国国内にシフトする中で特に問題は管理層や専門分野での人口が「北上」=大陸内部にシフトが著しく香港社会は中産階級の空洞化が起きると相対的に中下層の人口が増加し香港に残る資産階級と低所得階級といふ社会の分極化が避けられず。このような社会問題について香港政府がまつたく具体的な政策もなきことを指摘。

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