富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月十八日(土)いつもより少し遅く朝七時起床。新聞数紙読み机まわりの雑事済ませ何時下雨になるかわからぬ空模様ながら小一時間のジョギング。途中に西湾河の香港電影資料館に寄る。七月に成瀬三喜男の生誕百年だかで特集あると聞くがパンフレツト見当たらず。同じ月の抗日戦争映画特集の資料得る。帰宅して午後はジムで二時間続けてで有酸素運動と筋力運動。よく運動した褒美に?尖沙咀のHMWでオーマンディ指揮のフィラデルフィアマーラーの1番RCA版(有名なコロンビア版はLPで有するが今回はCDで)、カラヤン指揮の維納フィルのマーラーの5番、ジャコ=パストリアスのビッグバンドでWord of Mouth Revisited、同じくジャコのアンソロジーでパンクジャズとマイケル=ジャクソンさんのオフ・ザ・ウォールの5枚。ジム終わって馴染みの湯屋に寄り垢擦りと按摩。極楽。無印良品にて甚平だの麻のシャツなど購ふ。昏時に尖沙咀のバーWにてフォスター麦酒1パイント。帰宅遅くてかまわぬとわかり銅鑼灣に寄るつもりが地下鉄で今日の蘋果日報の陶傑氏の随筆が余りに可笑しく読み耽り気がつけば地下鉄乗り過ごし天后。銅鑼灣に戻り開いたばかりのバーYを訪ふ。ドライマティーニとバーボンをたつぷり1杯つ。ジャコのWord of Mouth RevisitedのCDかけてもらふ。帰宅して明太子のパスタ。赤葡萄酒は智利のSanta Inesの02年。オーマンディマーラーの1番を聴いて、これと先日のエッシェンバッハ指揮の同曲は何が違ふのか?と尋ねられたら余の耳では何も答えなれぬだろう。同じ?と正直言つて思ふ。だがそれが何も悪いことでないのだが。フィラデルフィアといふオーマンディにより先の大戦以前に完成された希有の楽団が今日エッシェンバッハにより存在することは素晴らしい。義経のドラマをビデオで見て早寝。
▼前述の陶傑氏の随筆は「タクシーでの会話」といふ題。世界中のタクシー運転手が話し好きなのは倫敦のオースティン型のタクシーとて例外に非ず。ちょっと上品そうな東洋人で車内で痰を吐かなければ間違いなく「日本人か?」とコックニーの英語で尋ねてくる。「香港からだよ」と答えると「香港って言えばトンキー=フーワァ」だな。「そいつが香港のトップになったら地価が半減したってホントか?」と運転手。「いや、あんたらの倫敦に比べたら物価はみんな安くて香港は生活し易いよ」とオックスフォード街の町並みを眺めながら答える陶傑氏。「そうかい、それなら香港に移民するかな」と運転手。「もし移民したいなら僕がアンタのかわりにそのトンキー=フーワァに電話してあげようか。トンキー=フーワァは僕の叔父さんなんだ。何か必要なら裏から手をまわす、これが中国のやり方だからね」と陶傑氏は答えて「あ、もうダメだ。遅い。トンキー=フーワァはもう辞職してたんだ」。「そうかい、それじゃ誰がいまの総督なんだい?、香港の」と運転手。「新しい総督はサー=ドナルドだよ。アンタら英国の男爵なんだ」と陶傑氏が教えると運転手は「そうかい、それなら大丈夫だな」。「だろうね。サー=ドナルドは香港では支持率も高いし香港の土共(Local Commusints)ですら支持してるくらいだから。選挙で当選したのもね、アンタらのブレア首相に比べたら圧倒的な強さで当選さ。だけどね、彼は僕の叔父じゃなくてね。叔父さんだったらよかったのに(I wish he was)」と陶傑氏。正確には I wish he were だが郷に入ったら郷に従え、で運転手の英語レベルに合わせた、と陶傑氏らしい注釈がつく。「そうかい」と運転手は「中国の共産主義者でも選挙するのか。それなら香港に移民してもいいな」。陶傑氏はちょうど目的地にタクシーが着いた。運賃を払ふ。ちょうど痰がからみ(英国流で)ハンケチを出してハンケチに痰を吐く。運転手は最初、陶傑氏を日本人だと思ったのだから痰を床に吐いて失望させてはいけないからね、と陶傑氏。

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