富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

二月初二(水)。早晩にジムで小一時間走る。「小一時間」がここ三日キーワードか。トレッドミルで最初5%傾斜つけキロ8分といふ「ほとんど歩き」で始め、ふと思へばこれでフルマラソン走ると5時間半以上要するわけで「これはまずい」とせめてキロ7分にして3%傾斜で、これでフルなら5時間ぎりぎり。ところで「マラソン」googleしてみたら巻頭が「禁煙マラソン」とは。世の趨勢か。ジムを出て湾仔の英国パブOld China Hand(こちら)でビール一飲。まるで倫敦の何処にでもありそうなパブ。バーテン相手に客の喋る英語はとてもcockneyで。釣り銭が手の切れる如きピン札ばかりなのは偶然か旧正月も近し。Z嬢と待ち合わせ北京餃子皇にて夕餉。無愛想な店主が店前で客の呼び込みなどしており店内もいつの間にか改装などして何があったのかと驚けばこの餃子屋のJaffe Rdはさんだ目の前に「正隆」なる同じ北京風味の店が開業。それでか、と納得。北京餃子皇には一目見て北京企業のエリートと思われる若い客が入ってくるなり二鍋興酒など香港では誰も飲まぬ酒誂へくっと呷る。Z嬢と「どうせだから向かいの店で麺くらい食してみようか」といふ話となるが北京餃子皇の店主ずっと店前で向かいの店の動向見ており、とても入れず(笑)。だが店内眺めれば店員の面のだらしなさで期待薄。先週のStingに続いての今晩はk.d.langの公演。万に近き動員のStingと同じ会場とは無謀ぢゃないかと思ったが会場は同じでも収容人数三千ほどに縮小。こぢんまり。この会場でのコンサートは開会遅れるは常なれど午後八時の予定が八時半になり漸く始まったかと思えば前座二人。前座終わって休憩二十分で九時十五分近くにやっとk.d.langの登場。これだから次回はもっと客も遅く鳩る悪循環。スッピンにガウン纏ひハダシで現れたk.d.langはまるで深夜の火事で焼け出されたオバサン。この風采で……と一瞬唖然とするが誰よりも歌が上手くどの歌手より音程がカンペキでマイクの巧妙な使い方は前川清など軽く超越して五木ひろしすら陵駕。けして力みもせず、だがぐいぐいと客を魅了。余は独りポケットに忍ばせたジャックダニエルをちびちび舐める。いやぁ、これぞヴォーカル。公演は本編一時間きっかりでアンコールで2曲は「それでB席でHK$590?」の感もあるが、k.d.langのあの熱唱では90分歌い続けたら喉の負担もかなり大きかろう。アンコールで煙草にかかわる歌を歌うが(アルバム“drag”からはこの曲含めわずか二曲)円卓に煙草と灰皿も演出で煙草吸う真似だけで煙草に火はつけず。消防法の規制ではなかろう。日本ツアーの帰路かと思えば日本公演は今月下旬でどうやら豪州、新西蘭と巡演してから日本か。警備のバイトの若者が公演中に携帯で電話に唖然。帰宅してヴァランタインの17年飲み読書。ふと気づけばこの日剰の公開は9ヶ月後だが2000年の2月からの日剰網上掲載あり。当時はミッドレベルにて賃貸マンションの部屋探し。田中小実昌氏逝去。今はなきレインクロウフォウド百貨店の旧本店のカフェヴォーグ。堅道の海燕飯店もすでに廃業。週刊香港原稿。鵝頸街市の恵記の羊南カリー飯はかなり長いこと食しておらず。競馬では出場停止期間多いが余健雄君が騎手で現役。沙田のダートのマイルで「勁驃」13倍で快勝。このレースいまだに記憶あり。ハイテクバブルでtom.comが上場。オスカー・ワイルド『W・H氏の肖像』や『幸福な王子』を在君(とは後の築地H君)に勧められ読書。5年も前のことながら今と生活も嗜好も思考も何も変わらず。当然この老身でまさか今でも心身ともに「成長」など期待もせず。できず。寧ろかうして五年の月日送ってこられたこと神仏に感謝すべき。
▼経済紙の文化欄の充実は日経であれファイナンシャルタイムスであれ明白だが信報の文化欄に広東省が中国の「文化大省」たるべく広州に「広東国際音楽夏令営」なるオーケストラのための合宿施設を建設。単なるリハ場に非ず郊外の風光明媚な山間に大小のリハーサルホールや練習室あり、宿泊施設もアマチュアや学生のための合宿所からプロのオケのためにはホテル並み、超大物の指揮者やソリストのための豪華宿泊施設まで完備。この施設の音楽監督にはデュトワを任命とかなりの力の入れやう。アジアのタングルウッドとなるか。実際に運営は難しかろうが、少なくとも、香港の西九龍の埋立地に見栄えのいい小屋は箱だけ造れば(それがデベロッパー儲けさせるだけなのだが)国際的文化都市になるといふ安易で軽薄な発想に比べれば、この、オケに此処に集い憩ひながらキャンプしてください、のこの発想のほうがいかに将来的に重要な投資か。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/