富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

一月十八日(日)昨晩は、といふか朝の三時まで山田吉彦『道徳を歪む者』一気に読了。かなりアヴァンギャルド期待したが「ほんの少し所謂「道徳的」でない」程度の一九二〇年代的的耽美。だいたい「教育的」道徳なる観念ぢたいの胡散臭さ、それに外れたところで「道徳が歪む」といふことはなし。今朝は天気予報ほど気温下がらぬがどんよりと曇り空。期日迫った終らぬ仕事あり競馬予想もできず。午後より雨。この冬初めての本格的な降雨となる。夕方Z嬢と銅鑼灣にて待ち合せヴィクトリア公園の花市。「元朗の千葉さん」の胡蝶蘭など売る出店は目にしただけで三軒もあり。十二月に不審火で蘭の栽培場に被害ありと報道あったが回復か。桃の花、小さいものでHK$160といはれ店の亭主枝振りよき桃の一枝選び「こっちのほうがいいよ」と。「ただこっちはちょっと高いよ」と言うので「いいからそれHK$160で頂戴よ」とZ嬢値切り上手。向こうも正月の縁起の商売、此方も祝儀もあり。香港の民主勢力・支聯會のこの花市恒例の出店あり支聯會会長にて民主党選出立法会議員の司徒華先生の揮毫あり。司徒氏の元気なお姿、その真摯なる姿勢に敬服するばかり(写真)。帰宅して桃の花飾る(写真)。正月初一にどれだけ綻ぶかどうか。競馬は香港三冠長途馬王の緒戦「董事盃」(地場G1)あるが時間なく賭けられず。だが予想通りCruz厩舎の丹山飛駒とSize厩の風雲小子の二頭で風雲、丹山の順。最終レースの芝1600mに馬主C氏のDashing Winner参戦。今季は未勝だが五、六着には入りratingは落ちずクラス1に留まり今日は折からの雨に荒馬場好調の馬ゆへ74倍ながらせめて三着入賞に淡い期待するがどん尻より上がって五着どまり。パスタと赤葡萄酒。偶然に三谷「新撰組!」見るがやはり香取慎吾君の台詞棒読みは奈何とも成難く筋も「新撰組!」に始まったことぢゃないが秀吉だろうが武蔵だろうがもはや「大河」と呼ぶは烏滸がましき田圃の畦の「世間話」、同じ出演者で三谷脚本なら「深セン組!」とかいふ広東省に進出した三流企業の駐在員のドタバタコメディドラマでも作ったほうがマシでは? 溜った新聞雑誌の類読み資料整理。
▼中国に四人の高名なる法律専門家あり。香港基本法の制定に深く関わり、その解釈でもこの四人の法学者の意見尊重され、それは結構だがこの四名「四大護法」とまるで高僧の如く称さるる。そのうち二人が十五日来港。北京大学法学部教授の蕭蔚雲と中国社会科学院法学研究所の所長だかの夏勇の両名。二人が何を語りに来港かといへば「中央政府は香港の政治制度発展の主導権をもっており中央が管轄すべきである」といふこと。香港は国防と外交除く高度の自治権有し五十年不変にて一国両制を実施する……といふのは理想論で現実は中央政府の思いのままかも知れぬが少なくともCoquinteau主席にせよ温首相にせよ香港人民の自主権をば一応は揚げ、香港市民も七月の五十万人デモに象徴されるが如く自らの政治参加の意思低からず……に対してそのタテマエすら台無しにする、それも「護法」と称される法学者の発言と思うと余りのバカさ加減に呆れるばかり。香港の自治権否定するこの「護法」の態度に『信報』は「香港市民は〇七年に行政長官直選の権利あり、と蕭蔚雲が発言」と見出し。えっ?と思ったが記事読めば敢えて皮肉か民主党党首楊森氏の「〇七年に香港市民は行政長官を選出する権利があるのか?」といふ質疑に蕭蔚雲が「それはある。だが同様に直接選挙せぬ権利もある」と発言したうち故意に一部だけ見出しに利用か(笑)。今日の日曜版・蘋果日報の社説に当る「星期天休息」欄にて陶傑氏曰く、過去廿年中国の経済発展著しきものあれど中国の権力当局の文明社会精神への認識は毛沢東時代の家長式老人時代から何も変わっておらず、この口許に唾が白い泡になってまで中央主導をば釈く蕭蔚雲の学識水準の低さからして中国が法治国家化することは非楽観的にならざるを得ず、と陶傑氏。同じく陶傑氏が連載のほうで指摘していることは香港での普通選挙での行政長官の民選実施が香港基本法(付件1)にて
二○○七年以後各任行政長官的産生辧法如需修改,須經立法會全體議員三分之二多數通過,行政長官同意,並報全國人民代表大會常務委員會批准。
If there is a need to amend the method for selecting the Chief Executives for the terms subsequent to the year 2007, such amendments must be made with the endorsement of a two-thirds majority of all the members of the Legislative Council and the consent of the Chief Executive, and they shall be reported to the Standing Committee of the National People's Congress for approval.
の部分を蕭蔚雲はコトもあろうに、この条文は「〇七年に何も急いで直選実施する必要なく2037年でも47年でもいい」と宣い、陶傑氏指摘するようにこれは「〇七年になれば選挙方式変えることも可能」といふ条文、例えれば映画の封切りが「下星期四以降」とあればこの下星期四(来週木曜日)も含むわけで、香港にてその選挙方式の変更が世論となり需要あれば〇七年に出来ることを謳う条文をどう解釈すれば蕭蔚雲の如き詭弁となるのかといふこと。これまで基本法の謳う高度の自治をばタテマエとして中央主導は露骨さを避けてきたが今回のこの蕭蔚雲に象徴される「介入」は香港にて中央のレベルの低さ認識に十分に値するもの(十六日の『信報』社説「政制中央主導如来高度自治」参照されたし)。何れにせよ最もバカなのは毎度の如く行政長官・董建華にて、香港大学民意研究計画主任の鐘庭耀教授が毎度の如くネチネチと(笑)指摘するは(さすが余もここまで董建華の施政方針演説の文章読みもせず、鐘教授に敬服)董建華がこの年頭演説の中で(第77段落)
我在不久前到北京述職時,胡錦濤主席向我表明了中央政府對香港政治體制發展的高度關注和原則立場。其後,内地的法律專家和香港的一些人士也都對有關問題發表了看法。政府確實需要對這些重大問題理解清楚,才可以對政制檢討作出妥善的安排。
When I was on my duty visit in Beijing recently, President Hu pointed out to me the serious concern and principled stance of the CPG towards the development of Hong Kong's political structure. Thereafter, some Mainland legal experts and certain individuals in Hong Kong have also expressed their views on the matter. We definitely need to understand the full implications of these important issues, before making appropriate arrangements for the review of constitutional development.
と、97年以来行政長官の施政方針演説に初めて国家主席の名が揚げられ「内地法律専家」の法解釈に言及したこと。鐘教授によれば方針演説後の記者会見では「内地法律専家」が「四大護法」と呼び変え。厳密には董建華によるこれまでの七度の方針演説のうち97年の初回に江沢民の名が出ているのだが、これは
江沢民主席為核心的中央指導層、在剛剛結束的中共十五大上、提出了要在二十一世紀中葉、将中国建設成為一個世界強国。国家発展前景壮闊、香港的発展同様前景壮闊
と単にお題目の中国の耀かしき未来、香港も同様に、と董建華らしい無節操なる幇間ぶりに過ぎず、深い意味皆無。それに対して今回の国家主席と四大護法の揚名は、鐘教授の指摘通り、董建華自らに中央政府のお墨付きある、といふ威厳誇示に合わせ香港治政の主導権及び責任が中央政府にあること証明したようなもの。つまり董建華なる者が無用であり存在するがもやは非-存在であることをば自ら証言。鐘教授の憂慮は中央政府もついに学者(といっても当然御用学者)の口をば借りて香港治政に具体的介入始めた事実。余に言わせれば、この介入が今後露骨になれば憂慮されるは現在はまだ反中央にならぬ香港世論が反中央に転相すること。
董建華といへばこの人をば余りバカだの屑だのと罵倒するのも可哀想。基本的には単なる財閥船会社の二代目御曹司。会社の倒産をば中国政府系企業の介入で倒産乗り切った恩義もあり中共政府に刃向かふことなどできるはずもない幇間にすぎぬが、余も余りにこの人不憫に思ったは施政方針の翌日だったかの立法会の質疑中に野党系議員より董建華に去就の考慮を求められた際に「辞めるのは簡単だが職に留まるのは簡単なことじゃない」と発言。思わぬ本音?発言に野党ばかりか民建聯よりも大爆笑。だがその「嗤い」声のなか董建華また続けて「職に留まるのは簡単なことじゃないんだ」と宣ひたり。これがこの人の本音、性根そのものであらふ。