富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

2月12日(月)晴。ふと中環の料理屋Jが晩餐に先立ちバーを開け此処がドライマティーニを自慢せしことを思いだし一度試してみるべしと訪ららば客は一人もおらず快い雰囲気にて自慢のマティーニをジンでオンザロックにて頼めば供されしマティーニはジンで苦からずマティーニで甘からず美妙は調和にこれぞマティーニと膝を打ち香港にて調合の酒で感心する事など初めてかと感嘆さらりと飲み干し給仕におかわりを勧められるまま二杯目はテーブル席よりカウンターの中を盗み見ればジンはTanquerayにてさもありなんジンといえばBombayかTanquerayこそプレミアムにて然ればどうベルモットを調じるかは判らず唯ふとオリーブの実を添えるがいっそのことオリーブをベルモットに漬けてしまうレシピは如何かと思い独り楽しむバーを去るのも惜しく此処にて読み始めし藤田弘夫の『都市論』(中公新書)にて「権力はなぜ都市を必要とするのか」に惹かれつつも早々にWatson's WineにてTanquerayを購い帰宅しオリーブをベルモットに漬けてみたりけるが結果は如何に。築地のH君より来月の演舞場で菊五郎劇団にて忠臣蔵の通し、成田屋の若旦那が五段目にて定九郎、道行の勘平、定九郎なら橋之助と思っていたが新之助の定九郎、勘平は是非とも観たいもの、但し七段目の平右衛門が辰之助、我が由良之助なら討入りには辰之助の平右衛門は足手纏いになりそうにて入れずと笑ふ。H君の話では今月の歌舞伎座菊五郎玉三郎十六夜清心団十郎の清心でなら「観客がちょっとしたことで笑うのが気になったけど、さすがに菊五郎ではそういうことはない、と思ったら」見せ場の「しかし待てよ」のところで客が笑った、と。黙阿弥も因果のはてに笑われて、当世ではそうなるか。網上にてふと読んだTakumi君なる高校生の詩……
キーボードで言葉を起ちあげて、
何度も起ちあげて
そして何度もキャンセルを押す。
また同じ言葉を起ちあげて
繰り返し起ちあげてまた繰り返しキャンセルする
送信出来ない言葉を何度も何度も打ち続けていると
指先は冷たくなってキーボードの上で言葉が凍る。
凍らせたままずっとそこに置いておいたら
いつか溶けてなくなるのだろうか
……とデジタルをかううたふとは小生にはできぬ。