富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

柳家三三独演会@水戸芸術館

癸卯年十一月廿六日。気温摂氏0.2/10.9度。晴。正月とはいへ(まだ陽暦で、だが)大阪で能狂言が連日、で文楽もあつて1日置いたとはいへ地元で三三師匠の独演会とは、ほんとお恥ずかしいくらゐの屠蘇気分ではある。この後も歌舞伎の初芝居に大相撲初場所と続くんだから。正月の挨拶で、それでも地震だとか悲しいこともあり、でも噺家なんて与太の噺しかできないわけで、せめてこの場だけでも少しは気持ちを楽にしてもらへれば、毎年恒例の水戸だが今日はこのアトに午後7時からが浅草演芸ホールで午後8時半に鈴本でトリなのだ。驚異的。今がそんなスケジュールをこなせる年頃なのでせう。水戸から浅草へは常磐高速はリスキーで常磐線。牛久から取手あたりで誰も正月早々に飛び込まないと良いのだが。で衣装着替える時間も惜しみ紋付で正月だから袴姿で移動となる。水戸芸術館は劇場の楽屋入り口が面倒なので職員が外で待ってます、で紋付に袴なんて目立つからタクシー降りればすぐわかるね、のはずが折から隣の水戸市民会館が今日は成人式。

紋付羽織袴がかなりの数ゐて、その中で紛れてしまつた……なんてところからウォーミングアップで〈しの字嫌ひ〉から始まり続けて〈看板のピン〉で中入り。前座、二ツ目を連れてこないところで自分でその二役分の噺をしてしまふから。

中入り後は古典をじっくりと聞かせてくれるとは思つてゐたが博打の好きな佐官の親方が出てきて家の家財道具全てを換金して博打で失ひ娘が家を飛び出し行きつく先は吉原の……で「あれ?」と思つたが借金返済のために借りた50両の大金を浅草吾妻橋の上で……で身投げしやうと思つてゐた文七……にはあばらかべっそん。墨東の水戸様のお屋敷から預かつた50両、てな話なので水戸芸術館で、に三三師匠これを持つてきたのか、それにしても予想外の池田大作文七元結〉である。〈文七〉といへば戦後は柏木の師匠、そして現代は矢来町が名演と認められてゐるが本日のミミちゃんのそれは佐官の頭・長兵衛、妻のお兼と吉原の大店・佐野槌の女将、白銀町鼈甲問屋近江屋の手代・文七に近江屋主人卯兵衛まで人物描写が実に機密で正確丁寧。贔屓目かもしれないが矢来町に勝るとも劣らぬ〈文七〉を見させていたゞいた。いつも芝居芸能に感情移入できないアタシなのだが今日の〈文七〉の大詰では思はず感涙が緩んでしまつた。本当に現代の最高の古典落語家だと言ひきつて間違ひない。

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それにしても三三師匠の毛筆がまことに味はひあり。