富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

楽しくて美味しい大阪

癸卯年十一月廿三日。気温(水府)摂氏1.5/13.6度。大阪の朝の気温は5.3度。午後のお能まで大した用事もなく午前10時前に宿から中之島に出るとさすが上方のビジネス中心地だけあつて本日新年仕事始めで会社の代表が黒塗りの社用車から降り立ち秘書課と営業担当の代表引き連れ三井や住友、東レ関西電力など大手企業のあるビルに出入り。そして下っ端ばかり七、八人が小鴨の群れの如く集団で挨拶回りに忙はしいのもご愛嬌。まるで社交といふゲーム。これで商売が成り立つといふか、これこそ商売のやう。いずれにせよ、この人たちはまだ大阪万博に期待を寄せてゐる。このキタのビジネスメンたちのオスばかりの群遊こそ日本のビジネスの人材効率の悪さ。それがいくつかの指標で顕はなのも納得。中之島郵便局で自分宛に年賀の葉書を出して風景印をもらふ。肥後橋渡り今橋通に出て鶴屋八幡本店。お能の前にでもいたゞかうかと生菓子購入。御堂筋渡り高麗橋通の神宗淀屋橋本店。塩昆布を買ひ寄つただけなのだがお正月なので、と菰樽からのお神酒(白鷹)いたゞき店内の緋毛氈を敷いた床几台でお雑煮をご馳走になつた。

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御堂筋を下り御堂筋の松栄堂(本町店)へ。好みのお線香(南薫と圓明)を入手。どこか取引先で正月早々にご不幸あつたのか社用車で会社の代表が役員と営業担当の2人も連れて供物を購入に来店中。取引先の祝ひこと、弔ひことに心配りは美徳かもしれないが大の大人が三人で、である(一人で来てささっと用事済ませられることに二人もお付きとは)。

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心斎橋を渡り黒豆煮の岸澤屋(本日迄正月休み)の向かひのにし家でお昼には少し早いけどうどんでお昼。

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大宝寺通を東に堺町筋、松屋町筋と越え今日も空堀商店街。谷町筋を越えると古い商家、民家がいくつも並んでゐる。このあたりの古民家が民泊になつてゐるやうで、それに町内会で挙つて「民泊反対」の立て札や張り紙も目立つ。民泊は民家をそのまゝ維持しての「活性化」のやうだが生活が根付く路地裏の住宅街にとつては民泊もかなり問題があるといふこと。

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龍造寺町通からの路地に家人を案内する。ちなみに家人は昨日は一人で京阪電車で千林まで出向き古い街並みを散策してゐたのださう。お能まで少し時間があつたので難波宮跡の広場で大阪城を眺めながら鶴屋八幡の生菓子とペットボトルのお茶で野立て宛ら。

鶴屋八幡の梅暦(左)と花びら。奥に大阪城

昨日に続き大槻能楽堂お能。本日は家人と二人で。今日の番組はこのチラシを昨年十月だつたか拝見したときに「まぢ?」とあばらかべっそん。〈翁〉で翁が観世ご宗家、銕之丞と大槻先生の三人(小書はそれを弓矢立合といふ)で更に三番叟が野村万作、萬斎と裕基の三代、そこに千歳が大槻の裕一なのである。この三番叟の三人之舞は初演。この舞台を想像しただけでも身震ひするほど。今日も正面一列目中央の席といふ幸甚至極。お三方の翁は直面なのでその眼力とまさに正面きつて対峙することにならうとは。お家元と大槻先生(夫々は威厳と美学とでもいはうか)と並んでも銕之丞師はその美声が殊に秀でる。そして三番叟は裕基君の若々しいダンサーのような身体、そして萬斎さんの表現の練り上げ、いずれも興味深いが何といつても万作先生の崇高なる身体と信念の表現には畏れ入るばかり。豊国の祝賀でなく何うか豊国にならんことを!といふ絶望の先にある祈りとでもいふか、さういふ祈念が野村万作といふ名人から溢れる。この〈翁〉ではここ何度か残念であつた小鼓は本日は成田達志さんの頭取で古田知英さん脇胴と成田さん嗣子・奏君(手先)がじつに良くまとまり本日の名人揃ひの〈奏〉をさらに見事なものに仕上げてゐた。狂言(三本柱)のあと能〈望月〉。幻想能ではなく、かうした劇画的に仇討ちのリアルな物語も面白い。シテ(友房役)の銕之丞さん本日絶好調。仇役(ワキ)が福王知登さんで、この親の仇を打つ花若(子方)は演技が複雑で難しいところ知登さんのお子さん(登一郎君)が上手に演じ遂げお父さんもこの息子による父殺しをほっと受け入れられたかしら。花若が勇んで仇を討たうと焦つたところを友房が止めるところのタイミングも銕之丞さん素早かつた。まるで武蔵坊弁慶のやう。

今晩も道頓堀に出て昨日お昼に寄つた道頓堀今井へ家人は初めて。


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酒肴をいくつか単品でも美味しいのだが今まで何度か「大阪に来たらうどんすき」が叶つてゐなかつたの今晩は、それ。やはりお出汁が美味しいので最後はお出汁を飲み干してお腹が破れんばかり。