富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

今尾恵介『地図バカ - 地図好きの地図好きによる地図好きのための本』(中公新書)

癸卯年十一月七日。気温摂氏0.2/9.1度。曇。

地図バカ 地図好きの地図好きによる地図好きのための本 (中公新書ラクレ)

今尾恵介『地図バカ - 地図好きの地図好きによる地図好きのための本』(中公新書)読む。著者は子どもの頃に本格的に地図に目覚めたのは父親の書棚にあつた堀淳一『地図のたのしみ』を読んでからで渋谷パルコにあつたマップハウスで世界中の地図を漁り神保町三省堂のすゞらん通り側にあつた旅行関係の書籍売り場でトーマスクック時刻表を入手して……とその地図歴は何年か後にアタシもまるで同じ経路で地図好き、鉄道好きになつてゐるから興味深い。地図好きにありがちだがこの本も半分以上は地図よりも鉄道のことが書かれてゐる。著者は地図好きでも方向音痴ださうで、そこがアタシとは真逆だけれど(音楽家だつて絶対音感など関係ないのと一緒か)。地図好きとしての苦言もいくつかあり。「高輪ゲートウェイ」だとか「みらい平」なんてキラキラ地名、駅名について。古くからの地名などを無視してこんな名前を付ける決定をしてゐるのは著者の世代の「名士」クラスのおじさんたちだらう。昨今の教育現場では「国や郷土を愛する心」を強調するが歴史的地名を葬つてキラキラを量産する人たちが要所に居座りどんな愛国心が育つのか、と。御意。末章(天災と人災)が秀逸。ドイツ統合直後に東ドイツ時代の地図を入手して暗号のやうな数字の読み方をドイツの地図当局の専門官から入手して読み解くところは圧巻。そしてGoogleマップの時代にこれを何う使ふか、殊にタイムラインで同じ場所の過去のストリート写真による記憶辿りは被災地などでは貴重なもの。「おわりに」で筆者はこの言葉を据ゑてゐた。

「一つの便利なものを手に入れれば、その分人間はなにらかの能力を失う」と私は思っているから「これは便利」というアピールに対して懐疑的だ。(橋本治