富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

国立劇場邦楽鑑賞会三曲の会

癸卯年八月晦日。気温摂氏9.7/23.7度。晴。午後、上野へ。アメ横に用事あるので上野駅で不忍口に出ようとするとトイレで着替へ終はつたのか女装さん*1がコインロッカー(混雑する上野駅もこの不忍口のコインロッカーは穴場だらう)に男でゐる時の荷物を預け不忍口からノガミの街に出てゆくのもやはり上野ならでは。アメ横もとんでもない賑はひで「抜け道」のつもりで高架線の外側の通り(上野/御徒町駅前通り)抜けようとしたらもつ焼きだとか煙い居酒屋が並び路上まで店舗拡張で昼飲みの聖地の如し。人気のもつ焼き屋など行列である。行列に並んでまで飲み食ひをアタシは厭ふところラーメン屋ならまだラーメンを食べ終はれば次々と客が動くが上野のガード下の路上飲み屋なんてマツコの月曜から夜更かしに出てきさうなベロ/\の老若男女ばかりで、どれくらゐ行列に並んだら席が空くのか。それでも並んでゐるのだからご立派。この駅前通りは昔は何軒か飲食店もあつたが基本はアメ横のセコンドで小売店が並んでゐた気がするのだけれど。美都商事。ロンソンのライター修理受取り(2,040円)。浅草からの観光客で混雑する銀座線で神田。一八通り。福尾商店豆かん(600円)頬張る。さすが寒天のコシが良い。

神田駅が名義貸しで神田駅(アース本社前)となつてから2週間。アース製薬は「神田駅前」と曰つてみせるがアース製薬本社は神田司町2丁目でそも/\神田司町ぢたいが神田駅と隣接もしておらず。アース本社に比べたら神田多町にあるかしわの鳥正の方がよほど神田駅に近いのに。JR神田駅から徒歩7分(公称)で地下鉄の淡路町から3分なのだから淡路町(アース本社前)でもしてくれた方が納得。

神田多町でビルの谷間に松尾神社があるのだから神田駅(松尾神社前)でもアース製薬本社よかずっと良いかも。

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神田淡路町で散髪(The Gollum)。土曜の燈刻、須田町の神田まつや本店覗いたら行列もなくさっと蕎麦を啜る。半蔵門国立劇場。今年は五月の文楽〈菅原伝授手習鑑〉から京蔵さんの〈フェードル〉、九月の〈菅原〉後半、文楽座と通つた国立劇場(小劇場)だが本日が名残り惜しくも最後。

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国立劇場で第207回なのださう邦楽鑑賞会で今晩は三曲の会。山勢松韻先生の箏をぜひもう一度聞きたいと思つてゐたのだが記念すべき公演で1列目16番って中央より少し下手寄りで舞台の主演が本当に目の前の最上席。音が直の空気で流れてくる。〈松竹梅〉合奏のあと〈岩清水〉は尺八が川村泰山と野村峰山。後者はずいぶんと枯音だが所謂「人間国宝」の前者に尺八のこんな豊かな音色とはと驚かされる。〈残月〉で中入り。村上湛君に誘はれ劇場上の十八番でさっと麦酒を飲む。小劇場の売店の麦酒はスーパードライなので美味しくないのだが楼上の食堂はサッポロ黒ラベルの瓶なので嬉しい。後半は富山清琴(三絃、所謂人間国宝)と萩岡松韻(箏)で〈吾妻獅子〉なのだが、この曲は何年前だつたか久ヶ原T君の家に冬の寒いなかお呼ばれで山勢先生の箏で聴いたのが最初。音色といふものは楽器演奏の身体の技能だけでなく「心」がいかに織り込まれるか、をなるほどと思つたが果たして今日の演奏は。目の前で箏を奏でる松韻さんが何だか百鬼園に見えてしまつて可笑しかつた。米川文子師(箏、大正15年生まれ、所謂人間国宝)の〈嵯峨の秋〉。もう今年で御年九十七。その方の演奏をアタシのやうな若輩どころか一列目中央で拝聴する女の子は文子先生からしたら九旬も年下で曽孫弟子なのか玄孫弟子かも。この娘さんにしてみたら大人になつて「二代目文子先生をアタシは七歳の時に」と話すことになるのかしら。そして山勢松韻先生の〈長恨歌曲〉。今晩の所謂人間国宝がもう舞台に上がつただけ有難がられるのに対して松韻先生(昭和7年生まれ)はまだ実力派の現役も現役。松韻先生にしか表すことのできない世界で、白居易のこの〈長恨歌〉の世界がまことにリアルに目に浮かぶから。村上湛君が自分が生きてゐるうちに松韻先生の傑作である、この〈長恨歌曲〉がまた聞けるとは、と。場面の展開。状況で音色がどん/\変化してゆくのである。三絃は山登松和。三絃がきちんとできて、が当たり前だの前提である箏曲家といふこと。笛(福原徹)はこの曲が胡弓で奏でられたら、どんな音色になるのかしら、と想像するばかり。それでも松韻先生の箏があつては胡弓は余計かもしれないのだけれど。

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鉄道列車のなかではコロナ禍で二人席でも隣に誰か座るだけでも何だか不快に思ふやうになり、しかも相手が酒など飲んでゐると何だか「やめてよ」と思はれる。それもビールとか精々缶チューハイならまだしも日本酒のワンカップなんて開けられるとテロか。こちらも何だか気兼ねする。それにワンカップは開けるときに一寸コツがわからないとこぼしがちで床にこぼれた酒はベタ/\して臭くもある。そこでコップ酒が一合なので180mlのボトルを用意。鉄道列車に乗る前にコップ酒をこれに移してしまへば良い。車内では水でも飲んでゐる風で。それでもどうせ酒臭いのだが。東京駅(グランスタ)のはせがわ酒店はコップ酒がアタシの好きな八海山なのが嬉しい。それでなくてもガラス瓶など駅構内で捨てるのも難儀なのではせがわ酒店の隅でさっとボトルに酒を注いで「これ捨てといとくれ」とお願ひするから。

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ロンソンのヴァラフレームのライターはやはり美しい。この流線型のフォルムに惚れ/\。

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*1:上野でいふところの女装さんは今どきのLGBTのノリのトランスジェンダーではなく昭和からのこってりとした女装で高齢が多い。