富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

亀井俊介『ニューヨーク』(岩波書店)

癸卯年九月初一。気温摂氏12.0/16.4度。雨(38mm)で夕方より晴れる。

リバティアイランド(川田騎手)が春の桜花賞オークスに続き秋華賞で三冠はあまりにも堅いところ。さて馬券は何うしようか。三連単にしてもリバティ入れたら配当は下がるわけでリバティ優勝前提に二着、三着のワイドが狙ひ目か。オークス2着で2番人気のハーツクライ産駒ハーパー(ルメール騎手)ともう一頭はルーラーシップ産駒のマスクトディーヴァ(岩田望、4番人気)を選んでワイド1点買ひ。結果リバティが安定した勝ちレースでマスクト2着、ハーパー3着🎯で配当は1,090円。結果的にリバティ外したワイドで10番人気の高配当とは我ながら馬券選びが的確なのだつた。

📖亀井俊介ニューヨーク』(岩波新書)再読。名著である。

8月に逝去され、この記事↑を読んで、同書だとか『サーカスが来た!』が読みたくなつた。ニューヨーク、殊に曼哈頓といふ「島」を南から順に廻りながらニューヨークといふ都市の歴史、社会を語つてゆく。視点も良ければ文章も優れてゐて平易で読みやすい。今はiPadGoogle Mapで紐育の市街を亀井先生の歩くコースに沿つて地図上でもストリートビューでも眺めることもできて楽しいかぎり。曼哈頓の超高層ビルについてエンパイヤステートビルやクライスラービルディングについて述べたあと世界貿易センタービルに言及する。


まさにアメリカの経済力を象徴する巨大な建築といってよい。ただし、一辺63.4mの正方形の建物が、外壁の主要部分であるアルミニウム色をおびてふわふわと浮き立っている趣もあって、美的には、私はいっこうに感心しない。(略)関心の外の存在である。だからたいていは、中に入ることもなく素通りしてしまう。

著者はこう述べ草稿としたところに911テロが発生する。亀井先生は、この草稿は敢へてそのまゝとして「付記」を加へた。


(私は)ごらんのように(世界貿易センタービルについて)かなり冷たい書き方をしている。(略)今度は、ひそかにかかえていたもろさを露呈したように思えた。大厦はオフィス空間を最大限にとるため、おもに外壁パネルへ縦に入れた鉄骨に支えられているだけだった。その鉄骨が火炎の熱で溶けたのではないかという。ふわふわと浮き立っているような外見は、ビルの構造とも結びついていたといえそうだ。そしてこのことは、アメリカ経済のシンボルというビルの機能にも、どこかで結びつくことかもしれない。それはともかくとして、この事件の衝撃は、世界貿易センターや、それが象徴するものへの、私の冷ややかな態度にも衝撃を与えざるをえない。(略)私は、いま、この〈付記〉を書き足すだけに留め、本書の他の部分の記述には何らの変更も加えないことにする。リュックを背負ってとぼとぼと、あるいは早足で歩く旅行者の目で、この街の歴史や文化の平常の姿を、なるべきおだやかに眺めていく姿勢を一貫させようと思うのである。

リュックを背負った亀井先生がニューヨークをまさに散策して歩く。時にはちょっとくだけた紹介もある。「紅灯」区域について。売春街。俗語でそこを“The Tenderloin”といふさうな。それを亀井先生は文字通り牛肉の部位から女性の「柔らかい腰」を意味すると思つてゐたが、じつは或る警部がこの地区に配属されたとき、これからは娼家からの賄賂によつて上等なテンダーロインのステーキが食べられると喜んだことに由来するとか。

ニューヨーク (岩波新書)