富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

鵜澤雅廿七回忌追善能@宝生能楽堂

癸卯年八月廿五日。気温摂氏14.2/17.8度。雨。水府の降雨量は52.5mmで東京も40mmと結構な雨。一昨日から始まつた小林一三生誕150周年展。会場は日比谷シャンテ。雨は本降りで有楽町駅から少し遠回りだが数寄屋橋のビル地下を抜け日比谷シャンテへ。

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非常にコンパクトにまとまつた展示で興味ある人だけ見てください、の感じが良い。小林一三は阪急で、宝塚の開発からが強い印象でアタシはずつと小林一三は関西人だと思つてゐた。それが実は山梨の生まれで慶應大学に学び三井銀行に就職してからの関西とのご縁とは。全くそのへんを知らず。

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日比谷から地下鉄で水道橋。宝生能楽堂観世流で鵜澤雅廿七回帰追善能。雅の娘、久がシテで〈姨捨〉を披き孫の光による〈清経〉。狂言野村万作の〈宗論〉。鵜澤家は東京の谷中で象牙彫刻生業とする家で鵜澤雅の祖父(鵜澤春月)は象牙彫刻でかなり名を馳せたさう。象牙彫刻は当時、日本の輸出品としてかなりの取扱ひだつたが第一次世界大戦勃発で輸出先を失ひ象牙も輸入できず鵜澤家も没落。鵜澤雅の父が謡ひを趣味としてゐて雅の兄(壽)は小鼓を習ひ雅は観世華雪(六世観世銕之丞)の内弟子となり謡ひの世界へ。能楽にあつて雅の娘の久、そして孫の光と「女流」の能楽師として本格では稀な存在。

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〈清経〉で光さんは今年四月に銕仙会で〈杜若〉は本当に立派だつたがさすがに修羅物となると役が彼女には大きすぎるか。ワキの常三師ばかりか同シテ(清経ノ妻)の谷本健吾まで存在感がたっぷり。笛(竹市学)をじっくりと聴く。万作師〈宗論〉は祖父を相手に孫(裕基)はかなりテンション高くなるところ万作師となると相手を誰をもが上手く見せるから。その上で自らは他の誰とも次元の違ふ役柄を見せる。銕之丞〈井筒〉、九郎右衛門〈融〉の仕舞と御宗家の〈砧〉の舞囃子。で久師〈姨捨〉。大鼓は亀井忠雄先生が勤める予定だつたものを広忠師が〈清経〉と続けての出番。亀井先生の生前に組まれてゐた番組での代演はいつまで続くのか、だがそれが広忠師を後継者として大きくするから。〈姨捨〉は今月朔日(観世会秋の別会)での岡久広師の同役が強烈な余韻あり。本日の地謡は別会よりも上出来。本日のアイ(里人)は萬斎師でもはやこの間狂言だけで一つの独立した出し物になるほどの崇高さ、だが〈姨捨〉の物語の一部としては別会での山本則重の語りが全体の物語の一部としては合致してゐたかも(それも岡先生のシテあつてのことなのだが)。別会も本日も笛は松田先生。それがシテに合はせてなのか音色が異なるところばかりで恐れ入谷の鬼子母神。久師が披かれた姨捨は間延びしてゐなかつたかといへば嘘になるかも。岡師の老女は本当にあの世から降臨してきて飽きぬほどの徘徊を見せつけてゐたが本日はまだ成仏できてゐなかつたやうな印象。やはり三老女がどれだけ六ッかしいか。岡師の老女から映画(木下恵介楢山節考)の田中絹代を彷彿するかもしれないが本日の老女が映画で新作(今村昌平)の方の坂本スミ子かといふと、あの(坂本の)過剰な熱意とも違ふのだけれど。本日の番組の終演予定が午後6時頃とあり午後1時開演でこれだけ並べたら6時には終はらないだらうと思つてはゐたが実際の終演は午後7時前。残念なことに〈姨捨〉の途中で序の舞あたりで、もうタイムアウトの観客が離席し始めたのは残念。この〈姥捨〉にかぎりワキの旅立ちをシテが見送るので観客も「もう電車の時間がっ!」でシテが幕に消えるなり囃子方の退場も待たず場内はバタ/\と客が見所から出始めることに。アタシもお能のアトの予定が狂つた。

総武線から四谷乗換へで御苑。御苑からの戻りもつい/\遅くなり新宿駅から中央線に乗る余裕もなく丸の内線で乗換ナビで見たら御苑を2138発は東京駅着が2153で常磐線特急の発車時間。特割の特急券なので乗変はムダになる。四谷で中央線快速に乗換してみたが、それも東京駅着が2153とは。もはやこれまで、かと思つたが、その特急の上野発は東京駅発から7分後の22時丁度。東京駅発は間に合はずとも、その次の上野駅に先回りできればの可能性あり。中央線快速の神田着は2151で神田を2152発の山手線内回りなら2157に上野着。神田駅なら1分あれば間に合ふかも。実際には山手線が2分の遅れで2159に上野着ですでに上野駅に停車中の常磐線特急に間一髪で飛び乗る。いやはや。