富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

志村真幸『未完の天才 南方熊楠』

癸卯年八月初二。気温摂氏24.0/32.5度。薄曇。

市川猿翁丈死去、享年八十三:朝日新聞

未明に築地H君からのLINEを見て「猿之助死去」に「やはり」と咄嗟に思つてしまつたのは勘違ひで先代(三代目)が不整脈で逝去。二代目猿翁名乗つてからの舞台を見てゐないので、やはり猿之助

 市川猿翁丈死去<評伝>歌舞伎に吹き込んだ新風 芸追求した猛優 :朝日新聞

千葉望さんが網上に書かれてゐるが三代目猿之助スーパー歌舞伎」の実績も素晴らしいが古典歌舞伎を見直し刷新した演目が良かつた、と。三代目が幼い頃から稽古熱心、舞踊、浄瑠璃、鳴り物と基礎を身体に叩き込んだのでハイレベル。具体的な芝居では〈加賀見山再岩藤〉とか。確かにあれは凄かつた。

歌舞伎座の大きな天井を宙乗りで、傘をさして我々下界を見下ろしながら、笑顔で宙を歩いていく姿。ワイヤーでつられているとはいえ、あの姿勢で居続けるにはどれほど肉体の力が必要だったかと思う。(千葉望)

昭和の終はり頃の狐忠信。三代目自身は30年前に脳梗塞で倒れ(芝居人生をもう急いで駆け抜けすぎたのか、と当時思つたが)猿之助名跡を甥(亀治郎)に譲り実子(照之)と孫が歌舞伎界に入り後半生も激動だつたが、まさか最期に澤瀉屋の名を汚すあんな騒動が起きるとは。猿翁自身がどこまで状況を見聞きして理解してゐたのか。むしろ恍惚の世界で何も理解できなければ幸せだつたかも。追悼。

昨日から四半期に一度の資生堂のポイント還元。京成百貨店資生堂でスキンケア必需アイテムの列買ひ。化粧品売り場で見かける男子は昔はディオールとかシャネルとか「彼女にプレゼント」だつたが最近はメンズを出してゐないブランドでも普通に男子が自分のメイクアップで買ひ物してゐる。十代の男子がみんな柔軟剤くさいのとか図書館に入る前にボディシートで汗を拭いてゐたりとか「最近の男子はずいぶんとさういふことに気を使ふものだ」と思つてゐたが毎朝、家の前を通る中学生が男子も傘で直射日光避けてゐるやうな習慣に。

アメなめて「アレ」実現 阪神・岡田監督の好物パインアメ売り上げも好調:朝日新聞

岡田監督のコレは知らずにアタシも数ヶ月前からパインアメ舐めてゐたが品薄とは。陋宅にはもう半袋ほど。もう買ひ急いでも売り切れかしら。

未完の天才 南方熊楠 (講談社現代新書)

志村真幸『未完の天才 南方熊楠』(講談社現代新書)読む。

たそがれ。黄昏。誰そ彼。日の入りで視界がぼやけて川の彼岸に立つてゐる人が誰かをヒトが五感を働かせて見極めるとき。夜明け前の「彼は誰」(かはたれ)。

熊楠の膨大な数の古今東西の書籍を読み抜書きも大量。それはアウトプット=論考執筆を目的にしたものではないこと。柳田國男との山人論争。柳田が主張する「山人の実在」から平地=農民主体の民俗学へ。ロマンがあるのか。柳田は不思議なものについての憧れ。その実在を肯定しない迄も信じたいといふ気持ちがある。熊楠はリアリスト。熊楠の夢についての記録。それを読んでゐて夢といへば横尾忠則先生と思ふ。習慣読書人の連載日記で夢についての記載が面白い。

この横尾忠則先生によるこの『未完の天才』の書評(朝日8月12日)一目見たときに上下反転といふミス?と思つたが大きく「未完」の二文字は上下正しく、これは奇を衒つた表現かと納得。

熊楠は完成を嫌ったというか、完成の無意味さに気づいていたように思う。仮にそれが未完であったとしても、未完こそが進行のプロセスであるという点において、完成と認めることはできる。小さい未完の連続は、ある意味で未完という名の完成であるからだ。(横尾忠則

そして週間読書人に横尾先生が連載の日記(8月25日号)で、かうした「ビジュアルスキャンダル」について言及あり。そこで、その朝日の上下反転の書評が転載されたのだけれど、この転載では上下が元に戻つてゐた。これは週間読書人はシャレの通じない読者を想定したか、転載の画像が小さいため読みづらいと配慮したのだらうとアタシは思つてゐた。

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それが週間読書人(9月1日号)の同日記で横尾先生が前号でのその転載は「編集部が逆転書評を再逆転してしまった」と書いてゐる。それでも怒つたり嘆いたりせず「ドンマイ、ドンマイ」と横尾先生はさすが大人。編集部は【訂正】も出したが「本紙読者の中で、誤植に気づかれた方は、本連載をよく読んでくださりありがとうございます」と、このちょっとウィットの含蓄もあるお詫びも良いぢゃないか。

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そして横尾先生は「未完」に続きもう一度ビジュアルスキャンダラスな書評を載せてゐる。

朝日新聞(2023年8月26日朝刊)読書欄

但し前回がやはり「誤植じゃないのか」とコメントも多かつたのかしら、今回は「評者の意向により、縦書き、横書き、反転を混在させた書評です」と注意書きをつけた。

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