富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

Représentation du 40e anniversaire du Théâtre National Nô

癸卯年七月廿二日。癸卯年七月廿二日。気温摂氏22.6/32.5度。曇ノチ雨(5.5mm)時々晴。


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Instituto Italiano de Cultura-Tokyo(九段南)で開催中の展覧(10月29日まで)

TOKYO ARTE POP - 江口寿史×ルカ・ティエリ展

日本文化に憧れて東京にやつてきたコミックアーティストのルカ=ティエリと彼が敬愛する江口寿史先生との二人展。不順な天候のなか九段下から歩いたが、やはり江口先生の作品で来館者少なからず図録は午前11時すぎで本日の予定数発売終了。江口寿史は『すすめ!!パイレーツ』はとくだん惹かれなかつたが『ストップ!! ひばりくん!』に嵌てて今日まであの女の子イラストのファン。展示される作品のなかにあつた〈IKEBUKURO〉が池袋西口西武百貨店で賑やかだつた時代で懐かしい。

イタリア文化会館の隣が秋田佐竹家ゆかりの千秋文庫だつた。館蔵古地図展開催中(9日まで)。これを参観。マテオリツチ萬国與地図など眺めるのも愉しいが佐竹家が常陸国を領した当時の常州地図も展示あり水府よりも太田の地名がやはり詳しく久米、藤田、松平などアタシにとつては父方の実家のあつた旧水府村のあたりを詳しく眺める。

英国大使館の傍らを半蔵門に向け歩いてゐたら通り雨。かなり強く降り半蔵門で東京FMビルの「おかめ」に昼食。おでんと茶飯ではなく赤飯。国立劇場が閉まつてしまふと「おかめ」に来ることもないだらう。半蔵門線大江戸線で東京国立競技場。快晴。

国立能楽堂。開場40周年記念公演(初日)。

〈翁〉は観世ご宗家、御曹司の千歳。三番叟が萬斎で面箱が裕基の父子。萬斎さんの三番叟はモダンダンスとして通じるもの。松田先生の笛。三挺の小鼓が合はず。大槻先生の〈清経〉小書「恋之音取」。村上湛君の綴る「解説」で、この能の「クセ」の世阿弥の紡いだ世界観の見事さを書かれてゐたので、それをよく謡曲本で読んでおけたのが良かつたこと。

返らぬはいにしへ、とまらぬは心づくしよ。この世とても旅ぞかし(世阿弥

能の定型とは違ひ清経は誰の供養も受けず自力で成仏すること。

世阿弥が創ったこのドラマは単なる源平軍談の枠組みを超え、「生前も死後も他者と断絶した孤独な魂」を活写して、能の極北に位置する傑作に昇華しています。(村上湛)

まさに、これ。この孤高の精神こそ、この能の核心であり、さらに評論家にとつても同感の孤独なのでせう。その覚悟がなければ評などしてはいけないといふこと。これ(清経)と、まさに孤高の狂言役者たる万作先生の狂言〈栗焼〉でもう今日は満足。といふか思ひ起こすだけで涙すらするほどの孤高の世界なのだ。本日は、もうこれで十分どころか感受性に乏しいアタシでも感情が溢れてしまひさう。そこでもうお仕舞ひしてしまつても良かつたのかもしれない。そして金春流で能〈山姥〉も自然界を象徴するやうに明暗、喜びと悲しみ、動と静など相対を抱く精神世界を山姥に象つた世阿弥の名曲。これもきちんと見ておくべき。本日の小書きは「波濤ノ舞」で楽しみにしてゐたが金春安明のそれは杖をついての文字通りの立ち廻り。あばらかべっそん。それでも笛は藤田次郎で何処か山田洋次の映画の世界のやうな音色が面白い。大鼓は安福光雄。大鼓は今日の〈清経〉もさうだが亀井広忠さんの鋭音に接する機会が多かつただけに安福さんの柔らかく豊かな音色で、笛と大鼓でこの囃子に山姥の存在すらが愛着をもてるやうに見えてしまつた。

能楽堂を出ると夕方の晴れ間も嘘のやうな本降り。台風13号接近で天気不安定。帰りの常磐線まい泉カツサンドを頬張り八海山を飲む。ビール(サッポロ黒ラベル)は食後に。ビール飲みながらカツサンドを食べて食後に日本酒を飲んだら美味しくもない。カツだとか天ぷらとか油ものには日本酒が合ふ。そして油を落とすやうにビールを飲むのが美味い。