富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

仙台から東北仙石ラインで石巻から女川へ

癸卯年六月十四日。気温摂氏26.5/35.8度。晴。本日は14:40に仙台駅を出る常磐線の上り列車で原ノ町乗換で水府に戻るまで何も予定がない。美術館でも行つてみたいが月曜で休館(のはず)。何せ今日も猛暑。仙台で最高気温は摂氏34.1度。ホテルから出歩く気も失せるがホテルででれ/\してゐても仕方ない。青春18きっぷあるわけだからどこか行かうか。何うせなら仙台近郊でまだ乗つてゐない鉄道路線が良い。石巻まで行き石巻線で女川、女川から同線で小牛田に出て……といふルートを考へる。だが仙台に戻る迄の時間を考慮すると仙石線石巻に向かふと時間がかゝる(90分)。石巻線は超ローカルで本数も1日10往復で接続もよろしくない。すると「仙石東北ライン」なるもので仙台から東北本線松島駅まで行き、あちらでほぼ並行して走る仙石線に乗り入れ石巻に少し早くつくことができる。しかも快速ばかりか仙台発09:25には1日1本だけの特別快速あり塩釜、高城町、矢本に停車するだけで石巻まで所用時間は49分なのだ。これに乗るべくホテルをチェックアウトして仙台駅へ。今日の行程では「初乗り」は石巻線だけかと思つてゐたが、東北本線仙石線も乗つてゐるアタシにとつて、この列車で東北本線から松島の景観を眺めたあと少し内陸に入り列車が仙石線に乗り入れる、ほんの数10メートルの分岐線も、これこそ仙石東北ラインの専用線で厳密には「初乗り」区間なのだつた。
特別快速は仙石線に入り高城町を経て矢本へ。こゝで下りるビジネス客少なからず。航空自衛隊松島基地に近い。皆さん見た目、自衛隊らしくはないのは航空自衛隊関係の関連業種の方なのかしら……でふと思つたのだが(おそらく間違ひないだらう)この特別快速は東京から松島基地に来る航空防衛ビジネスの彼らのための列車なのではないかしら。三菱重工とか伊藤忠アヴィエーションとか。時刻表で見ると朝7時に東京駅を発つはやぶさに乗れば仙台着が09:04で、この特快に間に合ひ松嶋基地で午前10時からの商談可。そして日に1本だけの特快の上りは石巻発が20:01で(普通には遅すぎるが)松島基地での仕事が終はり石巻に出て担当者との「会食」を済ませて「いやいや、どうも、これからもよろしく」で、この特快に乗れば仙台着20:50で上り最終の東北新幹線に乗れば東京駅着が23:04なのだ。松島基地への東京からの日帰りビジネス+会食に合はせた特別快速運行。仙石東北ラインの開業によつてそれが実現とか。

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石巻着。石ノ森章太郎でマンガの町、石巻として聖地なわけで夏休みでもありマンガ好きの巡礼者多し。駅舎のなかからコンビニ、駅前までみんな石ノ森章太郎の漫画キャラ。地元で生まれ育つた漫画家一人の業績でこゝまで観光産業になるのだから大したものと感心してゐたら石ノ森章太郎石巻で生まれ育つてゐない!とは。石ノ森章太郎の故郷は県北の登米(とめ)の石森で高校も地元。石巻には映画好きだつた章太郎君が毎週のやうに映画を見に石巻の映画館まで自転車で片道3時間かけてやつて来たのださう。「それだけで」といへばそれだけの話なのだが「石ノ森章太郎にとつての石巻」で聖地化すればしたものの勝ちだらう。

石巻線東北本線小牛田駅から石巻を経て女川まで。小牛田駅発の列車で石巻は途中駅だから数分前に来るものと思つてゐたら、とんだ油断で列車は10:04に到着してゐて石巻発は10:35で31分の停車。10分ほど前に乗り込んだら1両のワンマン運転気動車セミクロスシートでそれなりの混みやう。

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女川は中村雅俊の故郷で今は牡鹿半島にある東北電力女川発電所。その原発再稼働のニュースで女川の地名がよく流れる。大震災の津波による被害のあと再開発された駅前はまるで南国のリゾートのやう。駅舎の上は足湯なのか保養施設もあり。今回は乗り鉄が目的で女川に午前11時に到着して8分後の折返しの上り列車に乗らなければならない。それを逃すと次は2時間後なのだ。


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石巻線での景観は何といつても内海の万石浦。古くから「奥の浦」と呼ばれ新古今で藤原定家の歌に
 尋ね見るつらき心の奥の海よ汐干の潟のいふかひもなし
があるのださう。伊達の殿様(二代忠宗)が牡鹿半島に鹿狩にに来て「この入江を干拓したら万石の米がとれるだらう」と語つたことから「万石浦」といはれるやうになつたといふ言ひ伝へ。

石巻線(キハ110系)と同系の最上川奥の細道ラインの列車(右)

石巻線前谷地駅から気仙沼線が分岐。文字通りかつては気仙沼までを結んでゐたが大震災で気仙沼線は甚大な被害あり今は前谷地から柳津まで。その先はBRTの運行で「仮復旧」となつたが4年前にJR東日本が柳津~気仙沼間の気仙沼線廃止を決定。前谷地駅気仙沼線の列車が停車中だと思つたがよく見ると陸羽東線最上川奥の細道ライン)の専用車両で、それが小牛田を超え石巻線まで来てゐる理由はよくわからない。時刻表で見ると上りだけ1本、石巻発で陸羽東線に古川行といふ列車があるが下りはないやう。

小牛田始発の東北本線の電車で仙台へ。また松島の景観を望む。小学生のとき急行で仙台から盛岡に向かふとき仙台は上野からの夜行列車で着いて乗換で仙台や近郊でどこも訪れぬのが残念だつたが(当時はまだ観光意欲もあつたのだ)松島は東北本線から外れてゐると思つてゐたのに目の前に「松島や、嗚呼、松島や」が広がつてとても驚いたことふと思ひ出す。仙台に戻り午後1時半すぎだつたのでランチの時間ももうピーク過ぎただらうと駅ビル(エスパル)地下の牛タン㐂助へ。牛タンがなぜこんな高値になつてしまつたのかしら。量も昔は飽きるほどの切れ数だつた。14:40仙台発の常磐線原ノ町行き。

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昨日は水戸を出て那珂川久慈川、福島に入り阿武隈川、今日は石巻線が少し大きな川を越え地図を眺めると旧北上川。そしてこの常磐線の列車は岩沼を過ぎ東北本線から分岐してしばらくすると河口に近い阿武隈川を渡る。本当に広い川幅で水量も豊か。この川がどれだけ暴れて沿岸に被害もあつたかは昨日の日剩に綴つた通り。アブクマといふ名も興味深いが阿武隈=大隈とわかると大相撲で阿武咲が「あぶのしょう」ではなく「おゝのしょう」なのも納得するところ。今の福島県西白河郡にある西甲子岳の山中に威勢誇つた大熊(青熊)がゐたといふ物語に由来だとか、阿武隈のこの川の下流部が阿武隈山脈の突端に阻まれて「大きな隈(曲がり)」をなして流れることに由来するといふ説もあり。ところで昨日の日剩上網したあとに加筆したことなので本日再掲しておかう。

阿武隈急行鉄道で)阿武隈川を渡り丸森へ。この川沿ひの道路は国道349号線水戸市街のみずほ銀行水戸支店の角から茨城県北の旧里見村、福島に入り矢祭山から角館、伊達を抜け阿武隈急行鉄道に沿ひ宮城の柴田町で国道4号線に至る。その距離266.7kmでドライブあまり好きぢゃないアタシもこの国道は走破してみたい。

阿武隈川もくね/\と谷中を縫ふが国道349も阿武隈の川のやうな国道なのである。
乗り鉄で飲み鉄なので昨日からずつと飲んでゐるのだが常磐線で亘理を過ぎると大震災で津波と核禍に被災した地域を通るときはアル中もさすがに様々なことを考へ始める。

かなり低地で津波の被害を受けた浜吉田〜新地にかけ常磐線は少し内陸に高架線の新ルートを設へた。稲作の水田のなかを真っ直ぐに進む路線は水府からの鹿島臨海鉄道大洗鹿島線のやうで何だかそっけないものだが将来また津波のリスクを考へたら最善なのだらう。

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原ノ町。鉄道駅のスタンプはアタシの鉄趣だが原ノ町駅の相馬馬追ひのスタンプはかなり美しい。一寸滲んでしまつた。

この福島浜通りの「帰還困難区域」が何うなつてゐるのか。今年1月の福島民報の記事。

浪江、双葉、大野、夜ノ森そして富岡。いずれの駅も駅周辺は辛うじて何かしらの施設と最低限の商店はあるのだがまだ/\帰還して日常生活を送るには、それこそ困難。

双葉駅に放置されたまゝ自転車置き場

廃墟で野草が繁る住宅、荒れたまゝの田畑、校庭に草木が林のやうになりつゝある小中学校、鬱蒼としたジャングルのやうな森……福島第一原発は昔は常磐線から遠景でその建屋と煙突が見えたが今では施設はかなり解体され森の緑の向かふで、その存在すら記憶から忘却されやうとしてゐる。道路は自動車の通行可なのだがイノシシ🐗にしては大き過ぎて野生化した牛🐂なのだらう、群で道路を歩く姿が見られる。富岡駅に来るとやつとまだ少しは新しい生活拠点なのかと思はされる光景。第二原発の建屋がジャングルの向かふに見える。なぜここに?のJ-Villageの施設。広野からは仕事帰りの何かしら復興事業関係なのだらうオジサンたちが列車に乗つて来る。いわき駅からさらに退勤のサラリーマンで列車は混雑。茨城に入り日立からは日立製作所関連で更に列車は混雑で立ち席に。そのなかで東北で駅のアナウンスとか音録りの鉄オタの若者二人組が4人のボックス席を占拠。日立を過ぎ二人のうち一人は荷物を膝の上に載せて隣席を空けたが、もう一人は終点の水戸まで到頭、荷物を座席に置いたまゝで席を譲らず。昨日から鉄オタのマナーの悪さいくつか見て呆れて言葉もなし。身勝手の極み。
今日見かけた最大のマナーの悪さは仙台から原ノ町への列車で亘理まで乗つたオジサン。4人ボックス席で何うしても向かひ席に足をのばしたい。見た目汚い系なので誰もそのボックス席でオジサンの斜め向かひにも坐らうとしないのだが一人かなり勇気あるといふか、そんなオジサンをものともしないオバサンが斜め向かひ坐つた。オジサンも少し小さくなつてはゐたがオバサンが居眠りを始めるとオジサンはすかさずオバサンの横に足をのばして寛いでゐる。目を覚ましたオバサンはさすがに自分の横にサンダル履きで足の裏が真っ黒のオジサンの足を見て、さすがに次の駅で降りるふりをしてオジサンのボックス席から逃避。今どき自家用車でもなく鉄道で移動する人たちはやはりかなり個性的な懲りない人たちも少なくない。

やつと水戸に到着。仙台から5時間。水戸駅前の長崎ちゃんぽんを供す長崎亭でちゃんぽんと皿うどんを飰して帰宅。