富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

楊双子『台湾漫遊鉄道のふたり』

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癸卯年五月十七日。気温摂氏21.5/30.3度。晴。「らんまん」の影響ではないが陋宅の坂の擁壁にある水抜きのパイプから雑草……といふ植物は存在しないか、ヒメジョオン(姫女苑)といふ草花が育ち、茎は一旦は下方に垂れたが、そこからぐっと上を向いて見事に花を咲かせてゐた。植物のこの体力は本当に凄いものだと感心しきり。

お能の料金支払ひで珍しく「郵便振替」あり。ゆうちょダイレクトでアプリから送金可能なのか等ネットで確認するが、それ以前に「郵便振替」「電信振替」の違ひ不明で、アプリでは「送金」と表示あり。口座番号も「記号・番号(5桁・最大8桁)」と「店番・口座番号(3桁・最大7桁」から指定だとかアプリや電子決済に慣れてゐるはずのアタシでも皆目見当つかず。郵便局で尋ねると最初の職員は郵便振替の番号 xxxxx-x-xxxxxx は最初の xxxxx-x の頭の x を除いて5つの数字にして……と説明するが下6桁では認識で弾かれてしまふ。これは職員の誤解。もう一度訪ねると、別の職員が「送金」から「振込書払い」を選択すれば良いといふ。振込書はないのだが、それを選ぶと次に「お手元に振込書をお持ちですか?」と質問されるので「持っていない」を選択すると振込先の記号(番号)入力して振替手続きに入れるとは。Aを選択するか?の条件でAに該当しない場合、常識的にはAを選択しないわけだがゆうちょアプリではAを選択した次にAをできない場合の方法が提示されるのだ。
先日は郵貯の入出金でもATMでスマホからQRコード読取りの仕方がわからず職員に尋ねたら職員もどこかに電話して聞いてくれた結果、アプリの「送金支払」選ぶと、そのなかに「送金」と「ATM入出金」の選択あり後者選ぶのだつた。この二例とも明らかに思考といふかロジックが破綻してゐる。誰か真っ当にかうした使ひ勝手を判断できないのかしら。
またゆうちょ銀行への「入金」でも思考停止の不思議な事情を今日知つた。入金で硬貨があるとATMでは手数料とられ、窓口でも50枚数以上は手数料の対象。それが職員の説明によると例えば13,862円する場合に862円分の硬貨に手数料がかゝるところATMで14,000円を入れて入金の操作で「金額指定」として13,862円とするとATMは同額を入金の上、お釣りで138円を拠出してくれ、しかも手数料はかゝらないのだ。これについてはHPなどでは説明はないやう。なぜ貯金の入金で硬貨に手数料がかゝりゆうちょからの硬貨出金は手数料タダなのか。全く理解できない。

日本郵政850億円の特別損失計上発表 楽天の株価大幅下落で | NHK

やはり経営責任者から現場まで何か構造疲労をおこしてゐないか? 問題は日本郵政だけではなく、マイナカードも同様で、かつて信頼性は高かつた日本の「システム」はもう修正不可能なレベルまで堕ちてゐる。

台湾漫遊鉄道のふたり

楊双子*1著(三浦裕子訳)『台湾漫遊鉄道のふたり』(中央公論新社)読む。昭和13年。若手の女性作家・青山千鶴子(主人公)は作品好評で映画化もされ人気だが家族が婚期のことなどうるさく、そこに台湾の台中から招聘があり台中に1年の長期滞在。台湾の上流階級としての日本人社会にもうんざりしたところ現地の才女・千鶴が秘書として千鶴子の元に遣られてきて千鶴子と千鶴の台湾での講演旅行、地元グルメ、当時の台湾の生活習慣……と書くと他愛ない話だが、物語にはいろ/\伏線あり。千鶴子の台中滞在での最初のアシスタント役になる「美島」といふ台南市役所職員は当初から千鶴子にとつて「つまらない奴」で嫌はれ代役で千鶴が登場するのだが千鶴子と千鶴の関係悪化で再び登場した美島は単なるつまらない小役人ではない存在。

わたくし(美島)が賛同してゐないのは、帝国を称賛するか否かについてではなく、青山先生(千鶴子)の発言に対してです。先生はふだん口癖のやうに南進政策に協力するつもりはないと仰る。帝国に対する不信を表明なさっているわけです。ところが、先生ご自身のお好きなものに対しては態度を一変して、それは帝国の功績だと称賛し始める。つまり帝国の政策を批判するのも称賛するのも、それが正しいか正しくないかではなく、青山先生個人の好き嫌ひで考へてゐるにすぎないのです。

美島といふ苗字から「美麗島」想像も。美島はじつは非常に優秀で台湾市役所に採用された地元の俊才なのかしら。そして何よりも千鶴子の千鶴への友情を超えた愛情。千鶴もまんざらではない。戦前を舞台にした耽美的なレズ文学のやう。だが作者(楊双子)は「あとがき」で、これは「百合小説」であつて「レズビアン文学」ではないと明言。女性の同性愛を指す「百合」とレズビアンで何が違ふのか門外漢にはよくわからないが同性愛の認識の肯定としてのLGBTの範疇としてのレズビアンの認識そして物語と「百合」の世界は違ふさう(かといつて男性の場合に「薔薇小説」といはれたら、また何だかイメージも違ふのだが)。ところで11の章からなる物語は最終章となる12章(蜜豆冰)はエピソードで吉田秋生『バナナフィッシュ』番外編を彷彿させる。さうした点では微妙な人間関係は吉田秋生の世界とも通じるところあり。
この物語はフィクションなのだが実際の手記として書かれたやうなプロットが上手にできてゐる。その点は面白いやうな、ちょっと凝りすぎのやうな。台湾のことなどアタシはそれなりによく知つてゐるつもりではゐたがいくつか初めて知ることもあり。
- 「嘉義」は戦前の甲子園の「嘉農」で日本でも話題になつた台湾中部の町の名前だが「嘉儀」といふ字が地名にしては不思議な文字使ひ。元々の台湾原住民の土地の呼び名に漢字を当てたのか、と勝手に思つてゐたが、じつはこれは清の皇帝・乾隆帝の時代に王得祿に纏はる故事で「義挙を嘉(よみ)す」と帝が得祿を賞したことによるもの。

- 新高山(玉山)の名をとつた「新高飴」は落花生入りの一口求肥。美味しさう。

- 「蓬莱米」は台湾ではもと/\インディカ種の在来米が栽培されてゐたが日本統治時代に台湾の気候でも育つジャポニカ種の米の栽培に成功。さうした台湾で品種改良され栽培されてゐるジャポニカ米の総称。

台湾といふと日本人は台湾はとても親日的と思ふ。また台湾に対しても非常に好意的に見てみせる。だが美島のコメントにあるやうに征服者の身勝手な思ひがあり被征服者にはさうした征服者の感情をどこまで受け入れるか、反発するか、またルサンチマン的な思ひもあるだらう。さうした複雑な感情を小説に描いたのは面白いところだが、それがそれよりも所謂「百合文学」としてのこだはりが小説に強いものだから、そちらに印象が引っ張られてしまふやうに思へなくもない。

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*1:楊双子は1984年に台中で生まれた楊若慈と双子の姉・楊若との共同のペンネーム。