富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

友枝昭世の能〈鵜飼〉

癸卯年五月十四日。気温摂氏23.3/29.4度。常磐線で松戸あたりから雨となり今日は京橋に行くところ東京駅から歩くには雨も強く地下道もないので(大規模再開発で数年後には地下がつながりさうだが)上野から銀座線で京橋へ(東京の今日の雨量13.5mm)。

丸尾末広(1956~)はアタシにとつては昭和末から20世紀末の印象が強い。『東京おとなクラブ』とか南原四郎の月刊誌『月光』(東京デカド社)や耽美派の雑誌とかにも描かれてゐたのかしら。京橋でこの個展〈丸尾末広大博覧会 ~地下的丸尾劇場~〉やつてゐることを昨日知つた。午前11時の開場で悪天候のなか狭い画廊はもう10人くらゐの客。若い人が多く往年のファンは若干名。久々に丸尾末広の世界に浸る。

ミュージアムショップではいつも「余計な買ひ物はしない」つもりでゐるが代表作となつた『少女椿』を京橋の場所柄か日本橋の榛原がコラボでレターセット出してゐて購入。お昼近かつたので鍛冶橋通り角の中華(国泰飯店)で酸辣湯麺を食べたら汗だく。オフィス街で土曜の昼だがいかにも昔このあたりの大会社に働いてゐた系の老人客が昔の同僚との思ひ出ランチで昼食会だらう集まつて来る。鍛冶橋通りを渡るとアジフライが評判の〈京ばし松輪〉はけっこうな行列。その角を曲がり閉店した〈美々卯 〉東京店の先のビルにある画廊(アートスペース木村 ASK?)でしりあがり寿個展〈ゆめをみたよ。〉参観。


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本日が最終日。こちらはとても静かでアタシの後に参観の方一名。この静寂のなかで「ゆめ」に思ひを巡らす。しりあがり先生の描くキャラクターたちのうっとりとしたやさしさに癒される。昭和通りに出て銀座1のトラヤ帽子店に寄り雨も止んで蒸し暑いなか汗びっしょりで六丁目の箸の夏野。知己の女子が近々ご結婚で夫婦箸……なんて男が黒で女が赤、男が長く女が短い箸なんてアタシが選ぶはずもなく上品な利休箸で男女にこだわらず誰でも使へる箸二膳送ることにするが夏野のスタッフも結婚のお祝ひで、といふと最初から同じ柄でも長めと短めを選ばうとする。もう同性の場合もあるのだから。銀座線で澁谷。駅舎大工事中。IKEYA澁谷店で廉価の和紙ランプシェード購入。水戸どころか茨城にIKEYAは無く直近は埼玉の三郷なのだ。少し時間があつたので澁谷駅に戻り「聖地」の化したかのやうな渋谷スクランブルスクエアから澁谷ストリームを見て歩く。澁谷ストリームの設計はシーラカンスアンドアソシエーツで故・小嶋一浩先生によるもの(こちら)。小嶋先生はご自身が桜丘町にお住まひだから、まさに地元の開発事業だつたのだ。もう今ではアタシも自転車で明治通りから国道246を超えて原宿方面に渋谷駅前を自転車で走り抜けられないだらう。

東急のセルリアンタワーへ。こちらの能楽堂には年に数回来てゐるが天気が良かつたことが一度もない。澁谷駅から歩くには微妙な距離感とアクセスの悪さ。バリアフリールートだつて、どこかバリアフリーなの? 駅周辺の大規模再開発が終了しても通路でつながるわけぢゃない。澁谷は東京での有数の谷地なので周辺のビルと地下道で結べない。雨や猛暑、真冬に空中通路もつらいところ。数年後に完成する再開発で狭い谷津に超高層ビルが林立で交通が込み入りまさにブレードランナーの世界かしら。

セルリアンタワー能楽堂。定期能。喜多流。日本に戻り3年ほど能を見るやうになつたが自慢ぢゃないが友枝昭世師のシテは不見であつた。一度見たやうな気がしてゐたがそれは2019年だつたかNHKの映像で村上湛君解説の番組。友枝師のシテは年に上演の回数もけして多からずアタシが観世流メインになつてゐたこともあるが何度か機会も上手く合はず。本日の番組は来られる予定ではなかつたのだが先週になつて今日の時間が空いて、だがお席はBunkamuraのサイト見たら予定数終了。能楽堂に電話でキャンセル待ち申込み或るお口添えもいたゞいてテケツ入手の幸ひ。それにしても本日は友枝師の〈鵜飼〉のみ。狂言も仕舞も何もない(シテ方金子敬一郎の前話のみ)。それなのに能楽堂が満席なのだから。御年八十三で動作には何のブレもなく、それどころか一寸たりとも油断のない正確さ。〈鵜飼〉は物語としては殺生のリスクだとか地獄に堕ちるだとか法華経のお説教のやうで面白みがわからずにゐたが友枝師の出から〈鵜ノ段〉の舞、閻魔大王の退場までシテの動作がやはりこれ程の方が舞ふと、こんな面白い空間になるのかと驚かされた。村上湛君から友枝師を見ていないなんて、と勧められて予定になかつた拝見だつたが本当に友枝師の晩年に遭遇できただけでもありがたい。これから年内にも数回は見せてもらへるだらう。

渋谷は中学や高校の頃に東京で「渋谷にしかない」東急ハンズタワーレコードがあつてよく来てはゐたが水戸に戻るとなると山手線で「上野が一番遠い」から億劫を感じてゐた。それが今では山手線で品川に出れば常磐線の特急始発なのだからじつに便利なもの。

誰彼と人に会えば岸田支持が高まるワケではないだろ