富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

田中角栄『日本列島改造論』日刊工業新聞社(昭和47)

癸卯年五月初九。気温摂氏21.8/27.4度。晴。
家人が昨日、常磐線の車窓から眺めてゐて蓮の花🪷がきれいだつたさう。水戸もさうだが土浦からの霞ヶ浦、牛久あたり水辺に蓮はよく育つ。近いところで市街の県立歴史館の谷の下にある「蓮池」まで早朝に歩く。


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来週あたりが盛りかしら。とてもよい香り。今朝も初老のアマチュア写真家若干名が真剣に蓮の花を撮影してゐるなか須磨帆で適当にパチパチは何だか失礼なことをしてゐるやう。


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先日、テレビ(マツコの知らない世界)に出演されてゐた水戸市植物公園のスタッフ(宮内元子さん)が花を須磨帆で撮影するときの「ちょっと映える撮り方」で紹介してゐた「花を下から撮る」をやつてみた。確かに、これはこれで面白い。この沼地と常磐線の線路の間を流れる澤渡川も櫻川の支流で小川だが、このあたりは雨季といふこともあつてかとても流れが豊か。


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午前8時すぎで下りの特急の時間から家人が「このあと上りの特急と「いつもの各停」が来るのでは?」といふのでタイミングよく「中井精也っぽい」鉄道写真も撮つてしまつた。須磨帆でこれだけ撮れるとは。


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図書館に行つて、その間に自家用車をガソリンスタンドで洗つてもらふ。超級銭湯に行つたら露天風呂の軒先にツバメの巣があつて賑やか。銭湯は脱衣場から風呂場は須磨帆や撮影器材の使用禁止なのだが月曜の昼間で客も少なく露天風呂で一人になつたタイミングで須磨帆を隠し持つて露天風呂に行きツバメの親鳥が餌やりに戻つてきた瞬間でパシャ! 一昨晩のスペインバールから持ち帰りのシェリー酒(OlorosoのRío Viejo)の残りを飲む。これもまことに奥ゆかしい味。

復刻版 日本列島改造論

今日はふと田中角栄著『日本列島改造論』(日刊工業新聞社刊)読む。角さんの「日本列島改造論」といふと土建政治、政治家と地方開発の癒着の諸悪の根源のやうに思はれてゐるが、この「見直し」が進んでゐるといふ記事をどこかで読んでゐたのかも知れない。

明治百年をひとつのフシ目として、都市集中のメリットは、いま明らかにデメリットへ変わった。国民がいまなによりも求めているのは、過密と過疎の弊害の同時解消であり、美しく、住みよい国土で将来に不安なく、豊かに暮らしていけることである。
そのためには都市集中の奔流を大胆に転換して、民族の活力と日本経済のたくましい余力を日本列島の全域に向けて展開することである。工業の全国的な再配置と知識集約化、全国新幹線と高速自動車道の建設、情報通信網のネットワークの傾城などをテコにして、都市と農村、表日本と裏日本の格差は必ずなくすことができる。

これが今から半世紀も前の著作だと思ふと産業や人口の都市集中の問題を取り上げ、それを抜本的に見直す政策が必要と判断されたことに何の狂いもない。但し、その具体的な提言が新幹線網や高速道路網で……となると「やはり土建政治」と思はれるかもしれない。しかし田中角栄の思考の根本にあるのが戦争あつての戦後の平和の重要性なのである。

また、ひらかれた国際経済社会のなかで、日本が平和に生き、国際協調の道を歩きつづけられるかどうかは、国内の産業構造と地域構造の積極的な改革にかかっているといえよう。その意味で、日本列島の改造こそはこんごの内政のいちばん重要な課題である。私は産業と文化と自然とが融和した地域社会を全国土におし広め、すべての地域の人びとが自分たちの郷里に誇りをもって生活できる日本社会の実現に全力を傾けたい。

日本の今後の進路を一言にして要約すれば「平和」と「福祉」につきよう。外に対しては、戦後25年間、一貫してきた平和国家の生き方を堅持し、国際社会との協調・融和のなかで発展の道をたどることである。内についていえば、これまでの生産第一主義、輸出一本ヤリの政策を改め、国民のための福祉を中心にすえて、社会資本ストックの建設、先進国なみの社会保障水準の向上などバランスのとれた国民経済の成長をはかることである。こうした内外両面からの要請に応えるための大道こそ私の提唱してやまない日本列島の改造なのである。世界中の國から信頼され、国民が日本に生まれ、働き、そして死ぬことを誇りとする社会をつくりあげるために、私は在職25年の議員生活の体験を生かし、国土改造という壮大な事業に取組みたいと考えている。

今どき、こんなハト派のリベラルな思想は自民党の誰にあるのかしら? 当時の田中派は角さんの薫陶を受けた梶山静六とか、その最後の世代が小沢一郎なのかも知れないが、戦争経験した世代が戦争のない時代をいかに幸せなものにするかといふ信念があつた。梶山静六は「軍人」と田中真紀子に揶揄されたが憲法と、その平和主義を信奉する軍卒。この親父の精神を梶山の倅が受け継いでゐるとは思へない。

日本の成功、高度経済成長の「奇跡」の原因について
第一は、日本が現行憲法のもとで平和主義を貫き、軍事費の負担をできるだけ少なくしてきた。
第二は、教育水準が高く、勤勉な労働力が豊富に存在した。
第三は、新技術や新設備を積極的に導入して技術革新につとめた結果、産業の生産性が向上し、その国際競争力が強化された。

もはやこの3本の柱も風前の灯かもしれない。それでも誤算もないわけではない。世の中そんな理想的にはゆかなかつた。

ある学者の計算によると、昭和39年10月から昭和46年3月(山陽新幹線岡山まで開通の1年前)までの東海道新幹線の乗客は3億6300万人であり、これらの人たちは在来線を利用した場合に比べると総計8億3500万時間を節約した勘定になる。これを生産にあてはめてみると5500億円に相当する効果があり、労働時間に菅さんすると35万人のホワイトカラーを生みだしたことになるという。35万人の労働力というのは神戸市クラスの労働力にあたる。このように新幹線鉄道は人間の移動を効率化し、経済の生産性を高めているのである。

出張で鉄道での時間のロスは新幹線利用で改善されてゐるのかもしれないが、その分、仕事は忙しくなつても経済の生産性はけして高まつてゐない。

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こんな全国の新幹線網もこれが実現してゐたら本当に便利だつたかもしれない。だがこんな新幹線計画を全国に展開するなかで並行する在来線が廃線されるなんて角栄先生も想像もしてゐなかつたでせう。中国はこんな高速鉄道網を実現化してゐるが在来線で高鉄に需要奪はれる長距離列車の廃止はあつても在来線じたいは存続してゐる。
当時、田中角栄のやうな先見の明のある政治家がゐて、それを慕ふ優秀な官僚がゐて、かうした国家計画を立案して実現してゆかうとする、先進国の仲間入りを目指す集団がゐた。それが半世紀後の今では先進国の一員といふのも烏滸がましい為体となつてしまつた。