富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

小津安二郎展@神奈川近代文学館

癸卯年三月十二日。気温摂氏12.3/20.8度。快晴。家人と一緒に水府から常磐線→上野で高崎から来た平塚行きに乗換へ横浜へ。常磐線(各停)でいつも思ふのだがグリーン車は化粧室か。2階席で上りの場合、進行方向左側(東側)の明るい席で化粧ポーチどころか化粧箱開いて化粧に余念なきメイクアッパーたち。化粧品の粉は舞ふし爪研ぎまでされたらたまつたものぢゃない。出かける前の慌ただしい時間に自宅で日当たりも悪いなら鉄道の移動中の時間で自然光の下で化粧がいいのだらう。「ご遠慮ください」としても自制心など求められない。どうせなら化粧料金1,000円くらゐ追加料金にしてやつたらだうかしら。平塚行きの列車でグリーン車も平日とはいへGWで東京駅からはほゞ満席。上野で乗換へたのは良かつた。品川に着く手前で「川崎〜横浜間、京浜東北線の鶴見〜新小安間の踏切で」と車内アナウンスあり老人なので「鶴見」と聞いてドキリとする。踏切の非常警報が押され安全確認だといふ。品川駅で暫く停車遅延。横浜から根岸線桜木町。市営バスで港の見える丘公園まで。鉄道でなら横浜から市営地下鉄に乗換へ終点の元町中華街駅から丘の上までのエレベータで上がるのが手っ取り早いが面白くもない。路線バスで横浜の旧市街を眺めつゝ丘の上へ。港の見える丘公園は薔薇など早夏の花々が満開。神奈川近代文学館は昨年初夏のドナルド=キーン展以来。

今回はかなり楽しみなこちら。
特別展「生誕120年 没後60年 小津安二郎展」神奈川近代文学館
この文学館だから脚本や絵コンテなど映画資料ばかりか几帳面で筆まめな小津の手帳、日記、手紙からメモなどかなり展示は充実するものだらうと期待したが小津ファンには垂涎の資料がずらりと並ぶ。2時間も見入つてしまつた。映画のポスター、スチール写真を一目見ただけで、その物語、そのシーン、役者の演技が鮮やかに浮かんでくる。「若松」といふ小料理や。映画〈晩春〉の能の場面は小津が金春惣右衛門に相談し『杜若』となりシテ二世梅若万三郎

芸に携はる人間は──少なくとも芸だ──何より自分の個性に、自分の気質に従順であり度い。そして、その上で最善を尽くす可きだ。

小津が親しくした脚本家の筈見恒夫に送つた書簡(昭和21年)より。役者や音楽家は勿論だが、この小津の言葉を読んで村上湛君の劇評についての姿勢なんて、まさにこれだらうと思つた。

主張すべきは主張して、各々の個性を生かして、その多数決の赴くまゝに、その方向、その方法を決めていけばいい。

とても当たり前の民主主義の原則だが、こんな理想も程遠い現実よ。
お昼も過ぎてかなり空腹感もあつたが折角来たので大佛次郎記念館にも立ち寄る。今日は月曜だが連休中で近代文学館も大佛記念館も開館。

Ⓒ「ぼくの伴侶 猫と大佛次郎物語」へげかもこ/少年画報社

最近の、この大佛もさうだが荷風でも鴎外でも文豪の漫画キャラ化は何なのかしら。

テーマ展示「おさらぎじろう展―漫画『ぼくの伴侶 猫と大佛次郎物語』より」大佛次郎記念館

大佛次郎記念館に来て気づいたこと。じつは大佛次郎を一つも読んだことがなかつた。愛猫家なので猫をテーマにした展示だから寄つたわけか。

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午後二時。港の見える丘公園から元町に下る。中華街なんて芋を洗ふやうな人混みなのは想像に容易い。丁度一年前に吉田健一展を見に来たときに寄つた元町のハンバーガー屋(Burger JO's)で遅めのランチ。小津展ですつかり体力も精神力も疲労してしまつて、もう帰途につくばかり。石川町の駅まで歩くのも億劫で山下町から横浜駅まで路線バスに乗らうとしたら青い連節バスがやつて来た。料金も通常の路線バス料金(220円)。雲も一つもない五月晴れの空の下これに乗つて「いかにも横浜」なベイサイドを走り観光気分。f:id:fookpaktsuen:20230503095111j:image

水戸に18時すぎに戻りまだ明るいなか陋宅まで歩いて還る途中、昭和の古い商売家の解体工事を見かける(常陽銀行本店裏)。階下が店舗で二階が住宅。

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この翌日(2日)の朝日新聞にあつた記事の訂正とお詫び。さもありなむ、の隣接の施設。これを書いた記者は「知らず」ではなく「あそこにあるのは近代文学館」で大佛次郎没後50年も近代文学館と思ひ込んだのだらう。