富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

雲仙→島原→諫早

癸卯年閏二月初七。気温摂氏6.5/14.5度(水戸)。8.7/18.9度(長崎)。雲一つない快晴で初夏の如し。朝の通勤時間の市電で長崎駅長崎駅を09:10に発つ長崎県営バスの雲仙行きに乗車予定。長崎駅前は新幹線開通での大規模開発計画で工事現場。その中を長崎駅に辿り着き観光案内所でバス停の場所を尋ねたら市電の長崎駅前に近い県営バスターミナル発だといふ。また工事現場抜けてバスターミナルへ。

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昭和で時計が止まつたやうなバスターミナル。一昔前の台北のやう。電光掲示板も壊れたまゝ。福岡行きの特急バスの乗り場だけほんの少し平成感あり。建物地下には大村競艇客のラウンジあり昭和40年感たっぷり。


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国道251号線。山あひの桜が見事。愛野のジャガイモ畑。橘湾を見下ろし向かふに雲仙の普賢岳の景観。千々石は読みづらい地名だが歴史に千々石チゲルの名を遺す。小浜温泉は小浜馬楽君の郷里なのかしら。


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海沿ひの小浜からバスは国道57号線の山道を惚れ/\する運転で標高700の雲仙に到着。長崎から1時間40分。雲仙といへば雲仙観光ホテルがあつて泊つてみたいところだつたが施設老朽化にコロナでの経営難もあり営業再開も不安定。ならば景観地観光といふ趣味もアタシにはないので雲仙に来ることなんてなかつたはず。それが今回の長崎旅行で島原鉄道に乗つてみたかつたのだが長崎から諫早経由で島原まで鉄道で往復するよか島原半島をぐるりと一周したいところ、それでも小浜に行くにも島原鉄道の愛野から千々石経て小浜に至る雲仙鉄道昭和13年に廃止されてしまつたし島原鉄道の「南線」つまり現在の終点の島津港駅から島原半島最遠の加津佐までも2008年に廃止されてしまつて小浜から岬めぐりのバスが小浜〜島原間を結んででもゐれば良いがそれもない。長崎から小浜経由で雲仙に来る1日に3本だけの、この特急バスに乗るしかない。午前中はこの1本だけ。平日とはいへ春の行楽シーズンなのに乗客は10数名。雲仙温泉に近づくにつれ猛烈な硫黄臭。雲仙温泉は今から1500年も前に行基が開山の「温泉寺満明寺」の山号が元で……といはれると一瞬首を傾げるところだが「温泉」が確かに漢語の発音では「うんせん」とはハタと膝を打つばかり。それに雲仙といふ当て字も実に妙である。


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雲仙地獄の遊歩道をぐるりと歩く。まぁ猫の多いこと。地熱で遊歩道の敷石すら温かいくらゐなので猫たちにとつては心地よい場所なのだらう。ガスも長時間の吸引は人体に良くないと注意書きがあり国交省の「地獄内は危険です」と看板もあるが地獄に住まふ猫たちは人体ぢゃないから影響ないのかしら。


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日本でも有数の高原リゾートであつた雲仙。昭和の時代だと日本中の風光明媚な観光地に家族連れから社員旅行、商店会の団体だとか大挙して訪れてゐたのだが、さうしたレヂャーの時代も過ぎ去り中禅寺湖でもさうだつたが観光客相手の小売業がかなり下火となりコロナが追い討ちをかけた。この雲仙とて春の行楽シーズンに自動車も少なく、歩いてゐる観光客も数えることができる。1990年代には年間300万人超だつた観光客が100万人を切り老舗の温泉旅館が経営危機に陥つてゐたところにコロナなのだ。あの観光バスに乗つたベタな団体旅行の客たちが去れば観光業は成り立たない。アタシらだつて雲仙では郵便局で風景印欲しさに自分宛の記念ハガキ1枚買つただけでおカネをおとしもしない。

1990年代前半の噴火がまるでウソのやうな春のトレッキング日和で普賢岳の頂上まで遊ぶこともできるが「平成新山」と名付けられた198年ぶりの噴火地帯は未だに警戒区域。「雲仙お山の情報館」が登山のビジターセンターで雲仙の山歩きのグループが外国客も含め数組。

雲仙滞在は54分で次は雲仙の通過が11:46の諫早発島原行きのバスに乗る。何だかバス乗り継ぎテレビ番組のやう。雲仙から乗つたバスには諫早からなのか、小浜からなのか乗客が1名だけでやつて来た。これに乗り込み島原へと向かふ。長崎方面からだと普賢岳の背後にあつた平成新山が島原の方からだと露骨にその溶岩の岩肌を見せる。

バスは路線の集落から年寄りの住民が何人か乗つて来た。島原港でバスを降りる。乗客はアタシらが島原港からフェリーで熊本に向かふと思ふだらう。諫早から雲仙を経由して島原に来た路線バスは島原港からのフェリーに連絡してゐるはずもなくアタシらがバスを降りたときには熊本行きのフェリーがちょうど出港したところ。10人くらゐの乗船客はゐたのかしら。フェリーターミナルの土産物売り場の片隅にうどんだか供する小さな食事場所があつたが島原鉄道の終点駅である島原港駅まで行つてみる。駅前の郷土料理の食堂(屋号は寿司や)も定休日といふよか休業中。コンビニでサンドイッチなど買ひ求めて1時間に1本の13:04発諫早行きの島原鉄道の列車を待つ。駅前に旧島原ユースホステルのいかにもYHらしい三角屋根の建物。小学生から高校生のころにアタシも150泊くらゐはしてゐたかしら。この島原YHは今は島原ゲストハウスとなつて営業してゐる(のだらう)。おそらく若いころにYHを泊まり歩いたシニア世代が当時を懐かしみやって来ることもあるのかしら。


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島原鉄道の黄色い電車に乗車。地方の弱小ローカル私鉄線はいずれも都市部の私鉄の払ひ下げ車両など塗装も型体もバラエティに富むなんてことが多いが島鉄はキハ2500形気動車で車両の統一感があつて塗装も黄色がステキ。


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今日の行程は、この列車で島原駅まで行き島原市内を1時間だけ散策して次の諫早駅列車に乗る予定。だが島原港駅からもそれなりの乗客数で島原駅からも観光客なら皆が絶対に進行方向右側の海景の席を狙ふのは必至。島原からではとてもボックス席で海側の窓側席を確保できないだらうと判断で島原駅では下車せず、そのまゝこの列車で終点の諫早まで向かふことに。やはり島原からは高校生とかかなり乗つて来たが彼らコロナ世代はボックス席でアタシらの隣がいずれも空いてゐるのだが座つたりなんかしない。


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大三東(おおみさき)駅。「日本で海に一番近い駅」で実際に下り(島原方面)ホームの向かふは狭い砂浜があつて有明海


島原港駅から1時間14分で諫早に到着。古い城下町の諫早は島電なら本当は諫早駅の一つ手前の本諫早駅で下車した方が市街地に向かふには便利。だが今回は島電の全線乗車が一つの目的。本諫早で下車して少し散策をしてから次の列車で本諫早諫早に乗車なんてしてゐたら長崎に戻るのが夜になつてしまふ。そこで諫早に到着して10分後に折り返しの下り列車で本諫早に向かふ。1時間に1本の島鉄だが諫早から次の本諫早間だけは市内公共交通として毎時2本の運行を維持してゐるのだ。素晴らしいことだが14:29発の本諫早行きに乗つたのは、いかにも学習塾の春期講習帰りの小学生とアタシらだけで3人。その本諫早から諫早への上り折り返しの列車には女子高校生1人が乗つた。


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市内を流れる本明川天保10年に架けられた石橋で昭和35年に河岸にある現在の諫早公園内に移設されたもの。国の重要文化財指定だが普通に渡ることができる。


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本明川は荒れると水害をもたらしたのださうだが穏やかな流れで子どもたちが遊ぶ。諫早の町はとても住みやすさう。公園にはのんびりと花見で散歩する住民たち。諫早駅まで歩く。諫早駅からは西九州新幹線で……といふのは悪い冗談で諫早を16:14分に発つ長崎行きの各停に乗車。九州だから夕方、日も随分と長いし、もう少し夕方の列車で長崎に戻るのなら今日は慌てることもない。だが長崎本線には本線に加へ長与経由の支線あり。こちらが大村湾の湾岸を走る。この長与経由の列車に乗らないわけにはいかない。それが1時間に1本で晩飯を長崎で、と思ふと、この列車で長崎に戻ることを前提にしての移動だつた。


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最近のJRのつまらない各停列車の車両を想像してはいけない。JR九州だ。水戸岡先生がローカル線(西九州新幹線なんかできた所為で長崎本線とて立派なローカル線である)の各駅停車の普通列車はかうなる。

YC1系(JR九州)その特徴や車内の様子を写真付きで徹底解説 | トレたび

JR東日本の味気ないローカル列車車両に慣れてゐるアタシたちには衝撃的な、この優しさ。ロングシートなんてあり得ない。この対面感。だが誰もがほっとしてしまふ空間。トイレは車椅子でも余裕で入れる広さ。2両編成の車両でこのスペースをとは。

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座席ばかりかゴミ箱(それがあるだけでも今どき画期的だ!)の天板がまるで立ち飲みでもしたくなりさうなテーブルなのだ。ほとんどラウンジ。そればかりか証明も本当に目に優しい暖色。果たしてこんなに吊革が必要なのか?と思ふけれどドア付近の吊革は円形に配置されてゐたり地元の高校生だつてこんな列車なら通勤通学もさぞや快適だらう。「これなら乗ってもいい」と地域住民に思はせる車両を走らせるJR九州
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諫早を出た長崎行きの下り列車は喜々津で山線(本線)と海線(長与経由の支線)に別れ海線は喜々津から東園を経て次の大草まで数キロに渡り大村湾に沿つた海岸線を走る。これが美景で夕方この列車に乗つてみたかつた。今日はさらに雲一つない快晴。


この東園駅*1も「海にかぎりなく近い駅」なのだが残念ながらホームは大きな沿岸の岩陰にある。


17:04に長崎駅着。今日はかなりバスと鉄道の周遊を満喫できた。しかも本当に雲一つない快晴で海もどれだけ美しく映えたことか。

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中央橋近くのホテルまで市電に乗ると市街中心部に高台(万才町)があるので電車は出島の先をぐるりと回るのだが遠回りになるし天気も良い夕方なので市街をホテルまで歩いて帰らう。だが駅前は大規模工事中で、それを厭ひ駅舎から南に県庁の方に出る。長崎駅は新幹線も在来線もこの駅が終着駅。欧米型の終着駅の構造なら美しいが高架なので何だか工事途中のやうな断面。この先に延びることもないのに。戦前には長崎港から上海への連絡船が運行されてゐたので長崎本線長崎駅から長崎港まで延長されてゐた。もうそんなこともないのだから高架にする必要もなかつたのに。

長崎駅断面(左)と長崎県警本部(右)

まことに権威的な県警本部(山下設計)を眺めながら文明堂本店に立ち寄り樺島町の狭い通りをホテルの方に丘越え。老朽化した建物はたぶん旅館だつたやうだが取り壊し。


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長崎の日の入りは18:38で18時すぎは明るい夕陽が長崎市街を照らしてゐる。

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長崎一の歓楽街である銅座で暗渠となつてゐた銅座川を再開発で整備して川沿ひのプロムナードにする計画が進行中。沿岸は老朽化した飲み屋の背面が連なるわけで、こちらも遅かれ早かれ再開発されるのであらう。


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昨晩このあたりの歓楽街を歩いてゐたら焼き鳥だとか鳥料理供す見世が何軒かあつたので今晩はそれで〈とりや〉といふ店へ。地元長崎は大島の「ちょうちょうさん」といふ芋焼酎飲む。長崎県産のさつま芋だけを使つた地元焼酎なのださう。


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食後の腹ごなしに旧廓街の方へ。丸山公園には猫が何匹もゐて猫を愛でる。

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丸山遊郭は明治5年に閉じられたが明治からは花街となり丸山町と寄合町の間にあつた見番の場所が今は警察の交番。見番から交番とは。カステラの福砂屋の場所は「山の口」なのは丸山の入り口にあつたから。吉原なら土手の伊勢屋のやうな場所。料亭の花月は閉まつてゐた。


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*1:この東園駅は「ひがしそのえき」で上野動物園内のモノレール(これも東京都交通局の公営(上野懸垂線)なのである)の東園駅は「ひがしえんえき」と呼ぶ。