富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

岸田日出刀『過去の構成』

癸卯年二月十四日。気温摂氏2.1/11.2度。夜になるとこの時期の「花冷え」は室内の寒さが身に沁みる。冬の本当に寒いときのほうが暖房効率が良いのではないのかしら。


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岸田日出刀著『過去の構成』読む。昭和4年に初版で今回読んだものは昭和26年の再版本。昭和は東大の工学部建築学科=岸田の時代。この岸田先生の建築設計は衆/参議院の議長公邸であるとか何といつても東大の安田講堂も。昭和の初めにライカのカメラで奈良、京都を中心にあちこちの建造物を写真に撮り、その構造物のもつ面白みを文章にしたのがこの名著。とにかく(結果論だが)名古屋城や神社の写真は再版本にクレジットはないが台北神社、戦後燃えてしまつた法隆寺金堂だとかが、この岸田博士の写真に残つてゐたことの貴重さ。しかも写真の露出具合とフォルムがまことに美しい。先日読んだ『磯崎新の「都庁」』で丹下健三の師匠としての岸田博士についていくつか言及あり、これを読んでみた次第。


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そして丹下健三大阪万博太陽の塔を建ててしまつた岡本太郎の面白さ。『芸術新潮』(1996年5月号)通読。この年の1月に岡本太郎逝去。とにかくこの本は岡本太郎の秘書であり養女となつた岡本敏子の文章が秀逸。事実上の妻なのだが何故に養女なのか。勿論、太郎が現代の制度のとしての婚姻を嫌つたことや両親の夫婦生活を見てゐたから、といつたこともあるが「妻」となつた場合に太郎の遺産、価値ある作品は多くの弟、妹たちと遺産分配になるが養子の場合にそれらのものを全て一人で相続できて管理できるといふメリットがあつたといふ。

最近のNHKのドラマ〈太郎の塔〉でもよく描かれてゐるが大阪万博に向けての通算省での事務局長であつた新井真一の凄さ。大阪万博テーマ館の予算10億円。そのテーマプロデューサーを岡本太郎にと命がけ。

この予算を全部お渡ししてお任せしますから、どのようにお使い下さっても口は出しません。もし絵を一枚描いて、これがテーマだよと仰れば、それでも結構です。

「国費」10億円でこの賭け。その結果があの太陽の塔でお祭り広場を突き抜けた太陽の塔はまさに大阪万博の象徴で今も周囲が森や公園になつても残つてゐる。

人類は進歩なんてしていない。縄文式土器、ラスコーの壁画、ツタンカーメン……今の人間にあんなもの作れるか?

調和というがみんなが少しずつ自分を殺して頭を下げあって(略)それで馴れあってる調和なんて卑しい。(略)まず戦わなければ調和は生まれない。

過激派の学生たちが「反博」を叫び万博に協力した岡本太郎が前衛か?と批判する。それに対して「反博?何言ってんだい。一番の反博は太陽の塔だよ」と太郎。実際に過激派の学生は大阪万博の会場で反博の実力行使に出て彼らは太陽の塔を「占拠」する。会場を訪れた岡本太郎はそれを笑顔で写真に撮る。「してやったり」だらう。

対局主義のような矛盾を抱えこんだまゝで荒業を演じ続けた。よほど日本が好きでないとやれなかったことだろう。(磯崎新

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家人が購入した銀座ヤマハのどら焼き。せっかくこゝまでやったのなら何故にト音記号を入れなかつたのかしら。

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昨日の銀座夏野での衝動買ひは木製の「ミントケース」。たかだかミントになぜケース、それも精巧な木製で紫檀のケースなんて必要なのか?と思ふがさういふ無駄のやうな物にこそ面白みあり。ミントのあのプラケースはちょっと絵面も苦手であまり携帯したくなかつたので夏野でこのミントケース見たときにドはまり。5,500円の価値あり?と思ふが紫檀でしかも磁石が嵌められてゐることで必要以上に開いてミント散乱なんてこともない。新潟県三条市丸直製。