富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

シーレ展から大槻文蔵裕一の会へ

癸卯年二月十三日。気温摂氏1.0/12.0度。快晴。家人と上野へ。暖かい行楽日和で上野駅公園口コンコースの構内トイレも女性用は列。多機能トイレを使はうと並んだオバサンの前で扉が開くと汚らしい女装のジイサンが出てくるのがいかにも上野。コインロッカーに荷物を入れて、これから特選劇場とかにご出勤なのかしら。東京都美術館。エゴン=シーレ展。ネットで日時指定入場券購入だと展覧会独自のデザインの入場券が貰へないのが残念。入場者数の規制もだいぶ緩やかになつてゐるからそれなりの混雑。それでも昔の作品が見られないやうな状況ではない。エゴン=シーレの絵画には目を奪はれるばかりだが朝、上野駅で遭遇した女装の老人をシーレが描いたらどんな作品になつたことでせう。

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正午前にぽかぽか陽気の上野公園を抜け西郷さんの横から聚楽のあつたビルに下り喜乃字屋へ。セリのお蕎麦。日比谷線で築地へ行く家人と上野駅で別れアタシは山手線で有楽町へ。銀座6丁目の箸の夏野。取り寄せてもらつてゐた利休箸(二膳)受取り。銀座若松へ寄るといつも昼どきなど静かなものだつたがアタシの坐つた卓が残り1つだつたところで次のお客さんからは外で並ぶほど。こんなこと今まで一度もなかつた。


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若松でアタシの隣卓のお客さんが「あんみつをあん抜きで」と注文。お運びのお姉さんが「あんこなしだとみつまめで?」と確認して「あんみつと料金同じですが良いですか」。それなら最初からみつまめを頼めば良いのに、と思つたがお品書きを見るとみつまめがない。子どもの頃から若松には連れてもらつて来てゐて若松はあんみつが評判だがみつまめがないとは今日まで気づかず。元々はみつまめが存在してあんこを最初に入れたのが銀座若松。それでもみつまめがないとは。アタシの好物の豆かんはあるのに。あんみつが評判になつてみつまめは外されたが豆かんは別ものなのかもしれない。このあんこ抜きのお客には「桃は大丈夫ですか?」とフルーツみつまめ風のものが供され、このお客さんはとても喜んでゐた。

銀六の観世能楽堂。大槻文蔵・裕一の会(大槻秀夫三十三回忌追善)。文蔵師の〈卒都婆小町〉、裕一君の〈船弁慶〉で狂言は万作師の〈泣尼〉。最前列の良いお席を手配いたゞいた。文蔵師〈卒都婆〉は最初からシテ登場。ワキ(僧、森常好師)登場で知つてゐる流れになつたがワキの登場までの世界に(勉強不足で)入り切れず。機会があれば、この小書で再見したいところ。この〈卒都婆〉で亀井先生の大鼓に酔ひしれてゐたので〈船〉の大鼓は広忠さんだつたが父子でも随分と音も違ふものと実感。この能楽堂の音響もあらうが硬い音が響きすぎる。松田先生の笛音は何よりもこの物語を見事に奏で聞かせどころたっぷり。実は実際の舞台で〈船〉を見るのは初めて(昨年、NHKの映像では拝見した)。舞が前半に入り義経役は子方(康介君ご立派)でワキ(弁慶、宝生欣哉)が活躍でアイ(太一郎)が後半に物語の絡むわけで(小書・早装束)面白いのだが本日はシテ(裕一君)は後シテ(知盛)は若さと体力で見せ場つくれるが前シテ(静御前)がどれほど難しいものかと思はされる。万作師の〈泣尼〉。説法の苦手な僧の話なのだが万作師だと説法が可笑しいのだが上手すぎて説法の苦手さが微塵もない(笑)。ふと談志の「業」を彷彿。南大泉の師匠の挑まうとした境地は万作師のこの領域なのかもしれない。談志は修練の途中で果たせなかつた笑ひの先にある不条理や無常が万作といふ狂言師のこの世界にこそある。

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昼前に蕎麦一椀啜つただけだつたので船弁慶の途中では空腹でお腹が鳴つた。家人が時間を合はせて銀座ライオンで先にビールを飲んでゐてくれた。家人が夕方通りかかつた時には銀座ライオンに待ち客の列がライオンの角を曲がつてゐたのだとか。大好きなハーフ&ハーフを大きなジョッキでガブガブと飲み肉をがつがつと食らふ。外国人客も多い。東京でビヤホールの雰囲気と味を実感するにはこんな良い酒場は他にはない。前回来たときは日本人の女子二人がオレンジジュースとアイスティーを飲みながら食事してゐてあばからべっそんだつたが今日はモルモン教か?の家族連れ(祖母と夫婦と息子)が水を飲みながらスパゲッティ、マッシュポテトとサラダを食べてゐる。銀座ライオンはビールを飲まなくても「食事が美味しい」で評判になつてゐるのかしら。


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帰りの常磐線で『銀座百点』3月号を読む。播磨屋の未亡人さまのインタビュー掲載あり。播磨屋のことを思ひ出すたびにまだ悲しみばかりだがグラビアにじつに見事な播磨屋の舞台衣装姿の写真あり。鍋島徳恭撮影。これが9日より写真展なのださう。

鍋島徳恭写真展-二代目 中村吉右衛門- | 銀座和光

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この銀座百点の連載・延江浩「都市の伝説─銀座巡礼」で銀座の老舗バー・コッペリアが昨年末で閉店してゐたことを知る。静香ママが40年続けた酒場にたうたう行けず仕舞ひ。

▼アートブレーキ&JM、マイルスの〈E.S.P.〉そしてウェザーリポート。私がジャズを聴きだしたころまだウェザーリポートで現役だつた。追悼。