富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

西村賢太「蝙蝠か燕か」

癸卯年二月十二日。気温摂氏1.0/12.0度。快晴。

蝙蝠か燕か (文春e-book)

金沢の石川近代文学館で西村賢太蝙蝠か燕か」刊行記念のイベントに遭遇で、この「蝙蝠か」を読んでみようかと思つたが市立図書館で貸し出し中だつたので、これもふと(安藤ホセ『ジャクソンひとり』と一緒で)初出の文芸誌で読めば良いと思つてすぐに入手。通読。読む前からわかつてゐたが賢太ワールドの極み。賢太の分身たる北町貫太の藤澤淸造への私淑愛を語つてゐる。2021年1月29日午前4時に芝公園の六角堂跡に佇む貫太。昭和7年の同月同日同時間にそこで淸造が野垂れ死に。淸造の没後弟子たる貫太はこの現場供養を済ますと北陸新幹線の開通で今では当日のうちに石川県の七尾まで参つてお寺で供養もできる。作品中で淸造の『演劇画報』の記者当時の十五代目の楽屋訪問記などは面白かつた。折角二年以上も前の〈文學界〉を借り出したので賢太「蝙蝠か」の次に掲載されてゐた桜庭一樹「キメラ―「少女を埋める」のそれから」を詠んだのだが、これも何だか読み切れない。これは朝日新聞(2021年8月25日の文芸時評)で一樹の「少女を」(文學界同年9月号)が取り上げているのだが作者(一樹)からして原作にない「あらすじ」になつてゐると抗議したことが多く語られてゐる。

家父長制社会で夫の看護を独り背負った母は「怒りの発作」を抱え、夫を虐待した。弱弱介護の密室での出来事だ。

この箇所が原作にさうは語られてゐないといふ。

朝日新聞「文芸時評」の記述めぐり議論 桜庭一樹さん、鴻巣友季子さん:朝日新聞(20210907)

そこでWEB版では

家父長制社会で夫の看護を独り背負った母は「怒りの発作」を抱え、弱弱介護のなかで夫を「虐め」ることもあったのではないか。わたしはそのように読んだ。

と書き換へられたさう。

鴻巣友季子(文芸時評)ケア労働と個人 揺れや逸脱、緩やかさが包む :朝日新聞(20210825)

それにしてもこれについて

桜庭さんの指摘は文芸批評のあり方や、フィクションと実在のモデルとの関係など、さまざまな論点にかかわる問いかけでもありました。今後、文学についての前向きな議論が広がることを期待しています。

なんて朝日新聞の担当者(文化くらし報道部次長)こそ全く不愉快なものぢゃないかしら。何だかこんな文芸誌を読んでゐたら本当に気持ちが滅入つてしまつた。そんななか『茶道雑誌2023年3 月号』を読む。

茶道雑誌 2023年 03 月号 [雑誌]

先日、京都の河原書店より送られてきたもので村上湛君よりの贈呈とある。この雑誌は湛君のお能についての連載(心ごころの花)があるから毎号、県立図書館で読んで楽しんでゐるが3月号送られるのはなにかしらと思つたら同号に「お茶の愉しみ」といふ連載インタビューで湛君ご登場。ご自宅のお茶室(朗然亭)で若い時からのお茶のことを語られてゐる。最初に茶道を意識したのが小学生のときにNHKの婦人百科で裏千家の茶人(井口海仙宗匠)が出てゐて、そこからの興味ださう。さすが。大学院生時代に少しずつお道具など集めてゐたさうだが平成5年6月に湛君のお祖母さまが亡くなられ四十九日迎へるにあたり人形町松栄堂までお香買ひ出向いたところ、その三階に堀内長生庵(堀内宗匠、兼中斎)の稽古場があり入門され……今日に至ることを三月は六世歌右衛門の祥月でもあり湛君の大成駒とのおつきあひのことなど実に興味深い内容。同号の今月のお能については〈二人静〉で大太夫(金春安照)が太閤秀吉の命で二人静演じるにあたつての堺の宮王太夫との確執もまことに面白い逸話。

(音楽評)片山杜秀「ニコラ・アルトシュテット 難物を自在に、音色の万華鏡」朝日新聞

昨日の朝日新聞(夕刊)の音楽と劇の評がすごい。音楽(クラシック)では鬼才Nicolas Altstaedtのチェロを片山杜秀先生がいつも以上に興奮のぶっちぎりで書かれてゐる。この演奏(Youtube)を聞けば、このアルトシュテットの演奏がどれほどのものか納得できるだらう。


山下達郎中野サンプラザについては小倉エージ先生が現役(76歳)なのは驚いた。そしてシアターコクーンでの宮沢えりの〈アンナカレリーナ〉。本当にどれも見たかつたものだが、こちら(下)の演歌の新人にも驚いた。これは音楽評で見たわけではない。彼のCDを出すクラウドファンディングを見かけた次第。

香港の尖沙咀で建設中の超高層ビルで火災。まさにタワーリングインフェルノの世界。深夜で工事現場だつたため現場の死傷者もなく繁華街の密集地だがビルの崩壊等もなく周囲に被害なし。消防員も無事。香港のかつては港に面した海員倶楽部で飲食場所やバー、宿泊施設などあつたが老朽化して地元の地産大手が再開発で60数階建てだかの複合ビル建設中でのこと。


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