富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

金澤1日周遊

陰暦正月廿一日。金澤の気温摂氏▲1.5/2.8度。朝の寒さは大したことないが雪模様で昼の気温上がらず。2月に金澤で雪はもう珍しいさうだが今日の降雪は8cmで積雪は13cmの由。昨日は9cmの積雪だつたのだから、これしか積もらないのは気温が低くないからみぞれのやうな雪で溶けてしまふから。昨日のお能で金澤に来た目的は済んでゐるので今日はもうオフである。早朝に展望風呂から金澤城の絶景。朝食のビュッフェで金澤のおでんや車麩、赤巻きだの「じぶ煮」なども食してみたが金澤の醤油と砂糖の味に慣れない。これに八角など入れたら台湾風味。雪が舞つたり晴れたり金澤らしいといへば金澤らしい天気のなか出街。


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長町を歩く。堀割は雪がよけいなものを隠してまことによろしい。菰掛けをした土塀が続く古い街並みも観光客相手の店やに非ず普通に住居なのだから大したもの。こんな昔ながらの街並みが残つたのも空襲で焦土にならなかつたから。金澤がなぜ空襲を免れたのか。第九師団があつたが当時この師団は台湾に派遣されてゐてもぬけのからだつたからだつたとかいはれるが富山はアルミニウム工業など盛んで空襲の被害甚大で金澤は次の原爆投下目標で残されてゐたとか戦争が長引いてゐれば順番だつたのが終戦で空襲が免れたとかいはれてゐる。空襲がなかつたことで、これだけの観光都市になつたのだから米軍さま/\だらう。

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戦争で空襲もなかつたが昭和の戦後の風景もそのまゝ再開発もされないまゝにある。香林坊からすぐ近くに(それにしても新世界とか新天地と名のつくところはなぜ歓楽街や悪所なのだらう)中央味食街といふバラックからそのまゝ残つたやうな路地が現役(新天地一帯はマンボウ20日までの営業休止で連帯して休業保障で何うにか糊口を凌いでゐる)。


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堅町の商店街からあかねや橋を渡り市役所の方へ歩く。金沢21世紀美術館は今日は月曜日で休館(他にも鈴木大拙館やいくつもの公共施設が今日はお休み)。それでも金澤の工芸大学?だかの卒業展はやつてゐて館内には入れて施設一周。


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折角、金澤に来たのだからと兼六園参観。雪景はきれいな庭園だらうが雪が積もりすぎではある。真弓坂口より入り瓢池。梅林を抜け根上の松。静かにこの松を眺めてゐられる。


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唐崎松から霞ヶ池へ。雪のなかレンタル着物で来て、このスポットで写真を撮るには行列。


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かなり吹雪くなか森八本店をひやかして橋場町。柳宗理記念デザイン研究所は月曜休館。展示室のなかを覗き見。この研究所を抜け泉鏡花記念館へ。こちらは月曜も開館で明日から展示替へで暫く休館となるので今日来られたのは幸はひ。泉鏡花小村雪岱の装丁は実に美しい(写真右上)。日本橋の三井美術館での小村雪岱展で昨年もこれを見てゐたが、この記念館には初版本の展示もあり。


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今になつて思ふとアタシが鏡花を初めて知つたのは大和屋の映画で『夜叉ヶ池』だつた。篠田正浩監督で昭和54年の作品。そこから鏡花をいくつか読むやうになつて図書館の全集の装丁の美しさに惚れ/\として泉鏡花の存在そのものが現実とは関係ない特異な世界で、そこから百鬼園折口信夫の物語世界に入つていつた。それでも現実の社会から乖離した、この空想の世界など当時、リアリズムもないこれに何の価値があるのか、とすら思つてもゐたのだが今になつて、これだけ現実の世界がおかしなことになると、この空想の世界がなんて面白いのかしらと少しずつわかるやうになり能楽もそれの流れから、それに辿り入つてみたいと思ふやうになつた。


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茶の間で何か必要な家具、道具があれば腕のよい指物師に注文すれば寸法のあつたものが出来上がつてきた時代が浦山しい。鏡花が馬琴『八犬傳』の揃本を仕舞ふのに設へさせた特注の箱が素晴らしい。象牙か何かで形とられた犬の周りに貝細工の八つの珠が埋め込まれてゐる。


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暗がり坂を下り主計町から浅野川を渡りひがし茶屋街へ。若者たちが卒業旅行とかなのかしら、かなりの数。吉原の松葉屋もさうだが、かつての遊郭のあつたところを伝統的な日本情緒で観光してゐるわけだから。


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あんまり吹雪といふかみぞれの雪がひどいので路線バスで片町の方へ。今日の金沢市街1日周遊パスを昨日購入してゐたのに雪の悪天候のなかなのに歩いてばかりで、やつと初めて路線バスに乗車。家人がさすがにあつたかいうどんでも食べたいといふ。もう午後2時すぎで評判の店は昼の営業は終ひ。新天地にあるフツーの食事処(三晃)でいなりうどんを啜る。金澤らしい甘醤油の味で、これはこれで美味いと思ふやうになつた。昭和からのフツーの食堂が市街にいくつもある。ホテルまで歩いて戻れる距離だが1日パスを少しでも使はうと路線バスでホテルに戻り展望風呂で早風呂して日本酒バル〈金沢酒趣〉が午後4時開きなので早酒。本日は農口と富山の〈勝駒〉をいたゞく。マンボウで飲み屋の夜の仕舞ひが早いから店を夕方に開けてくれるのはアタシにはありがたい。近江町市場も夜6時すぎにはどの店もシャッター下ろしてゐるが回転寿司の近江町市場寿し(本店)が開いてゐて古呂奈前なら行列のできる店ださうだが回転もしてゐないでお好みで握つてくれる。金澤は回転寿司のレベルの高さも評判だが回転寿司のあのマシンの生産も石川県がほゞ独占なのだとか。寿司をつまんで早々に宿に戻り今日三度目の展望風呂に浸かり早寝。


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