富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

橘香会@国立能楽堂

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今日は午後からお能で、それまでの時間もあつてぶらりと銀座へ。地下鉄の銀座駅はずいぶんとシックにリノベーションされたが駅構内のトイレがあまりにきれいなのには驚いた。施設も立派だが公衆トイレがこゝまできれいに使用されてゐることもまことにご立派。

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香港ではAscot Chang(詩閣)でシャツを仕立てゝゐて着心地の良さはもう既成のシャツには戻れないが家人が丁寧に手洗ひしてくれてゐるので何年も着ても痛みがほとんどない。今日着てきたシャツもタグを見たら2015年だつた。それでもさすがに襟の折れ目あたりは草臥れてしまつて今日は少し時間もあつたので銀座で6丁目の大和屋シャツ店を訪れる。生地選び、とても精緻な採寸、今日着てきたシャツも脱いでシャツも寸法も参照にして襟や袖、釦を何うするかと一つ一つ決めてゆきシャツの誂へに1時間ほど。大和屋のご主人に今日着てゐたシャツの手入れの良さを褒められた。

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お昼は少し早めに「よし田」ででも蕎麦啜つて、と思つてゐたらシャツのお仕立てに時間をとつてしまひ昼ときは泰明庵も外に行列。有楽町の駅に急がうとガード下を抜けやうみゆき通りからガード下を抜けたら有楽町産直横丁なる居酒屋街がずっと続いてゐて店は北海道から九州まで山海の珍味豊富だがコンセプトからして同一経営で調べたら浜倉的商店製作所によるプロデュースでございました。2019年末にオープンだから昨年春からコロナ打撃くらひ今からが起死回生なのだらう。土曜だしお昼からもう飲み客万来を待つ体制だつた。私自身はもうかういふ大きな店で大人数でわいわいと飲み会なんてことはない気がする。お昼を食べ損なつたがお能の会でお腹が鳴つては恥ずかしいので千駄ヶ谷能楽堂に行く途中のコンビニでお行儀悪くカレーパン立ち食ひ。消費税は8%だつたがイートインの場合10%で店員に注意もされなかつた。

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今日の梅若研能会の橘香会は本日開設もする畏友・村上湛君に万三郎師傘寿で〈卒都婆小町〉舞囃子あり「これは一見の価値あり」とお誘ひ受け1列目正面のお席までご手配いたゞく。まことに残念なことながら万三郎師体調不良で〈卒都婆〉欠番となり湛君の2つ目の解説がそこに代はりで入つたが、そこで後半の〈道成寺〉について語られ道成寺は歌舞伎でも親しんだ出し物だが物語が突飛な気がしてゐたのだが湛君の解説で道成寺の縁起から奈良の興福寺、その猿楽から世阿弥につながるといふこと、また〈鐘巻〉といふ今では演じられることのないお謡があり、そこから説かれて道成寺の筋の突飛さが脈絡からよくわかり蒙を啓かれた感あり。客席で和服姿のご老人が連れの方に湛君のことを「歌舞伎の解説もする先生で(自分は)普段は歌舞伎座のイヤホンガイドとかテレビの劇場中継の副音声なんて聞かないのだけど、この先生のときはお話がとてもタメになることが多いんで聞くようにしてるんですよ」と。御意。歌舞伎では馴染んでゐた〈道成寺〉だがアタシたちはなにせ六世歌右衛門のあの道成寺を見てしまつてゐるので今更もう他を見たいとも思はない(こんなことをいふとアタシももうすつかり団菊ジジイだけど)。それに対してお能でこの大きな鐘を吊つた大曲を見たことはなかつたので今日はそれも楽しみ。シテは大柄の久紀さん(万三郎師次男)が白拍子で鐘入りできるのかしら、なんて余計な心配。乱拍子の足先の動きを近くで見てゐて、その小鼓(鵜澤洋太郎)との連動で、この乱拍子をもし土方巽が演じたら何んなものになつてゐたのかしら、なんて考えた(急の舞ではやりすぎになるだらうが)。足先の動きといへば歌舞伎で勘三郎XVIIも立派なものだつた。ところで後ろの席のご老人(前述)が「舞台がお上手だと寝入つてしまふのよ、安心して。下手だと心配で心配でずっと見てるんだけどさ」ですって。名言。そして本日の至宝は万作師と萬斎さんの狂言〈清水座頭〉だつた。シテ(座頭)の万作師はもはや神仏の降臨とすら思はされるが萬斎さんのシテ(瞽女)も登場して語りが始まると我々を一気にその世界に引き寄せてしまふ力量に敬服。素晴らしい狂言を見せていたゞいた。至福。午後1時の開演で途中2度の休憩挟み午後5時50分までの長い公演。今日はこの内容で文化庁の「子供文化芸術活動支援事業」。どこか子ども向けかと思つたが終はつて外に出ると母親に連れられた幼子がお見物に来てゐたやうで「べつに全部続けて見なくても見たい演目だけでもいいんだからね」なんていはれてゐた。小学生でアタシも歌舞伎は興味あつたがお能までは。おそらく萬斎さんの「にほんごであそぼ」から狂言に入つてきたのかしら。それでも今日の狂言は「楽しく可笑しい」とは真逆でこの子もきつと驚いただらう。でも道成寺の鐘入と鐘のなかでの変身だけでもきつと面白いはず。
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神田へ。虎ノ門のN大兄から招飲の約あり久々に神田若竹 | 食べログ。大兄はすでにぬる燗で一ノ蔵を飲まれてゐた。もう傘寿にお近いのだが矍鑠とされてゐてジェントルでステキである。この若竹は女将さんが雑誌など取り上げられてゐたものだがすでに代替はりされてゐた。