富柏村香港日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴る日剩でござゐます

ジャックポット


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全人代常委が香港立法会の9月選挙延期で現行立法会の1年以内の延長を決定。立法府でありながら「上部」の匙加減で何うにでもなる、一国両制でのジレンマ。それをいへば中国の全人代とて中共の指導下にあり。党あつての中国。社主・黎智英逮捕(のちに保釈)の蘋果日報は昨日、通常の8倍にあたる35万部が売れたのだとか。一時は発行部数が70万部なんていはれてゐた時もあつたが新聞もネット化の時代に35万部といふのは香港で人口の5人に1人が購入だと思へば大したもの。抗議活動が厳しく制限されるなかで蘋果日報を買ふことが抗議の意思表示にならうとは。かうなると真剣に蘋果日報に対して国安法で発行禁止処分も検討するのだらうか。その蘋果日報の本日一面は全面広告。「泰星」といふタイの白ビールだが中共への忖度もなく勇気あるのは黎智英が資本参加してゐるとか……いずれにせよ蘋果にしてみれば政府への抗議記事を1面にもつてくる直球勝負より余裕の誇示か。 キャッチフレーズも「酒は美味いし新聞は読んで面白い」である。


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先日読んだ筒井康隆ジャックポット』の最後で筒井先生は疫禍の現状にあつて

わしゃSF出身作家であるから、この崩壊した地球文明の末路を想像するにつけ、ロバートAハインラインの傑作短編を憶わずにはいられないのだヨーソロ。

と、ハイライン『大当たりの年』について書いてゐる。この短編の原題が“The Year of the Jack Pot”なのだ、とタネ証しで終はる。さうなると、このハインラインの短編を読まないわけにはいかない。早川文庫でハインライン短編集4に入つてゐた。

(以下ネタバレあり)主人公の男がドラッグストア(今ならコンビニだ)で珈琲を読みながら新聞を読んでゐると路上で若い女が気が狂つたのか突然、素っ裸になるところから話が始まる。この男は女が警察に捕まりさうになるところを助け女と懇ろになる。

(筒井『ジャックポット』より)主人公は統計分析の専門家である。だからそれを生かして事業コンサルタントをやっているのだが、ある日グラフを見ていて、あらゆる事象が周期をもっていること、そしてそのデータを集積すると大きないくつかの周期の波が谷としてすべて重なり合うのがまさに現在、つまり彼の生きているその年になるということに気づく。ひやー。大当たりの年ではないか。

株価や天候、三面記事にある小さな事件からキチガイの奇行まで。この素っ裸も何か女にきっかけとなる背景があつたのか何ういふ精神状態だつたのかと尋ねる。露出狂も女装趣味も男装も異常性愛もすべてが主人公の関心事にある。それが何だか社会の磁場が狂つてゐたやうで異常気象や政治的混乱、米ソ対立や宗教革命など国際社会までおかしくなり始め二人はカリフォルニア州郊外の山荘に避難するのだが第三次世界大戦が起き核戦争となり……とにかく世界は破滅へと向かふやうにすべてが狂ふ。それがジャックポット(賭博での大当たり)。最後は太陽に巨大な黒点まで現れ、もはや地球どころか太陽系まで終焉を迎へさうなところで物語は終はる。誰も何もできないのだ。あきらめしかない。堪忍。……筒井先生のすごいところは、このハインラインの短編を意識しつゝ、そのやうな終末的状況で日本語による言語のジャックポット化をまるでパロディのやうにしてゐること。少なくともキチガイな世の中で強靭な狂人の思考があれば世の中まだ何うにかなるのではないか?といふ筒井康隆的一筋の光なのだ。