富柏村香港日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴る日剩でござゐます

藤田真央リサイタル


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九州の豪雨収まらず。 球磨川を渡る肥薩線でも橋梁流出。自然災害でも道路に比べ鉄道の被害だと更に心痛むのは何故。

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本晩、佐川文庫で藤田真央のピアノリサイタルあり。佐川文庫は佐川一信・元水戸市長のメモリアルホール。一信氏(1940~1995)は1984年に水戸市長に就任。3期目の1993年に竹内藤男茨城県知事が収賄事件で知事辞職、その知事選に出馬で市長辞任。知事選は自民党の推す橋本昌が当選し6期務めることになるのだが一信氏は惜敗で2年後に他界。56歳で、もしこの方が知事になつてゐたら、そして地方からの政治改革が何うなつてゐたか。その一信氏の蔵書数万冊やCDなどが私立図書館となり小さな音楽会も始め現在は別棟に室内楽までできるホールあり。素晴らしい施設だが如何せん水戸市のかなり郊外で晩6時半からの音楽会に行くのに(自動車がなければ)水戸駅発17:15の路線バスに乗らなければいけない。佐川文庫の案内にはバスで30分とあるが旧水戸市街を出るところで常磐線を渡るところで旧市街避けた千波湖方面からの迂回路からの自動車が帰宅ラッシュでひどい渋滞。45分かけて佐川文庫へ。佐川文庫を運営する館長の千鶴さま(一信氏のお姉さま)にご挨拶。閑静な高原にある音楽ホールのやう。ステージの向かふにお庭の緑もきれい。だが電柱の間に電線が何本も走るのが……水戸は旧市街の大通りこそ電線を埋めたが。f:id:fookpaktsuen:20200710103307j:image

今日のリサイタルは晩1度の公演のはずが防疫で昼夜2回で観客を分散。本来は疫禍に聴くには意義深く?ヴェートーベン尽くし

ピアノソナタ8番「悲愴」

② ロンド ハ長調 Op.51-1

③ ロンド ト長調 Op.51-2

④ ロンド カプリチオ Op.129

ピアノソナタ13番 変ホ長調 Op.27-1

ピアノソナタ23番「熱情」

の予定が

モーツァルトピアノソナタ12番 ヘ長調 K.322

ベートーヴェンピアノソナタ13番 変ホ長調 Op.27-1

ショパン:ワルツ イ長調 Op.34-2

ショパンノクターン18番 ホ長調 Op.62-2

ショパン舟歌 嬰ヘ長調 Op.60

シューマン子供の情景 Op.15

となつたのは本人の希望ださう。藤田真央君、1998年生まれで昨年のチャイコフスキー国際ピアノコンクールで2位、の21歳。ぽっちゃりといふか肥満児な印象あつたがすらっとして精悍な感じ。①をすらりと弾く姿が低めの鋼琴椅子に背中丸めて坐り、まるでグールドのやう。彼の呟板を後で読んで彼がグールドにかなり傾倒してゐることを識り成る程。まだ若いのだから自分の好きな音を何う好きに奏でることができるか自由にすれば良い。②のベートーベンは元々の演奏曲からの唯一。上手な分、もつと経験をつんで更に見事なものになるだらうと思はせる。休憩はさみ後半は蕭邦を③から⑤まで続けて演奏。この三曲がまるで一つのソナタのやう。二十歳くらゐの男の子の弾く蕭邦は艶っぽく素敵。さうだ、モーツァルトピアノソナタ12番は22歳の作品でシューマン子供の情景〉だつて28歳。今晩の蕭邦は確か蕭邦三十代の「晩期」の作品だが二十歳だからこそ今晩の選曲は良かつたはずだし一期一会でこれを聴けたことの素晴らしさ。殊にアタシは④に痺れた。「舟歌」も素晴らしい。⑥は、この曲を得意とするアルゲリッチ刀自へのオマージュのやう。最後の弱音からの静寂。


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アンコールの途中で口罩取り出し「上下がわかりづらいですよね」と突然始まつた真央君の喋り。「本日は危険を顧みず、かうして来てゐたゞゐた皆さま」といふ一言で若手の噺家にしては小三治予感させるマクラとゾク/\とさせられたが、彼のべっしゃりは演奏に負けず劣らずの見事。この防疫の4ヶ月で先ずの話題は9kg減量できた、と。それで肥満児が精悍さ感じさせたのか。コロナ太りはアタシも含め大多数だが、この疫禍の引き籠りで減量とは大したもの。その語りがニチョのゲイバーのチーママの思ひつきの喋くりのやうで(ママは当然、アルゲリッチ刀自である)、それがまだ熟れてゐないのだが面白い。そして米国留学(音楽に非ず)から疫禍帰省してゐるといふ兄との話で真央君は兄とはソリが合はず自宅でのピアノ練習中に側らのソファでゲームしてる兄に呆れつ何が一番気になるかといへば食事のとき彼と同じ右利きの兄なら肘も当たらぬ筈だが兄は食事の姿勢が悪いのか左肘を突っ伏して、それが真央君の箸を使ふ右手に障る。そこで彼は何を考へたかといへば自分はピアニストなのだから左手も使へる筈といふ、それが野球漫画『ドカベン』の殿馬君からインスピレーションで、と「話が長くなってごめんなさい」と、やはりこれは小三治の再来だらう。演奏は元より、この喋りを聴けたのは今晩のご馳走。

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2時間の素晴らしい「高座」堪能して、さて佐川文庫は何が大変だって復路は路線バスなんて無い。アタシは妹にお迎へを頼み途中でモスバーガー購ひ帰宅。日本でモスバーガーを今回の帰国後初めて食したが、やはり香港より段違ひに美味。ところで往路の路線バスで水戸に土地感なき清楚で素敵な若い女性と一緒になり彼女が余りの遠さに不安になり途中で路線バスの運転手に佐川文庫へのバス停はまだ先か?と叮嚀に尋ねたのだがバス運転手そこで「まだ先ですが、お教へしますから」とでも応へれば良いところ「まだ先だよ」と捨てるやうに。水戸人の素っ気なさの極み。その娘さんはスマホの地図眺めつゝ佐川文庫に近いバス停で降りたが、さて、そこからの方角もわからない。運転手が「その交差点を左に曲がって」と教へてやれば「水戸の人は親切」となるのだが水戸人は本当に外のお人に優しくできぬ貧しき自我。幕末からのトラウマか。バスを降りてアタシは交差点の先にあるコンビニに寄るつもりだつたが、この娘さんが交差点で立ち往生してゐるので「佐川文庫はあちらですよ」と教へてあげた。会場で席に着くと、この娘さんが一つ後ろの列で「先ほどは、ありがとうござゐました」とお礼いはれ「いえ/\、ところでお帰りのアシは?バスがないでせう?」なんて、まるでフーテンの寅さんのやうに微笑むと娘さんは「さうなんです、それでタクシーを頼みました、遅れてくる友だちもゐるので」。一件落着。ところで(その2)日本の音楽会はとても静かで「咳をしてもひとり」くらゐのイメージだつたが演奏中は静かなやうでアメちゃん舐めてセロファンをいつまでも弄んで耳障りなジジイとか帰りのお迎への家族からの電話で携帯鳴り出して慌てゝ止めることもできない婆さんとか「意外と香港と一緒か」。