富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

平和的市民デモの終焉

農歴六月十七日。陽暦6月は香港で140年来で最も暑かつたのだといふ。140年前が観測開始で観測史上最暑なのか140年前に記録的猛暑あつたのか知らぬが冷房や自動車のエンジンなど機械的に放熱のある今日日より140年前のほうが未だ涼しく感じたのではないかしら。NHKの「あさイチ」に久米宏がゲスト出演。久米氏本人が先週土曜のTBSラジオでさんざんNHKに出たくないだのNHK苦言並べ「これならNHKから出演断られるかも」と軽口叩いてゐたが、いざ本番となると久米宏も慣れぬNHKにかなり緊張見られキャスターも有働某女ならまだしも今の芸人らでは久米宏の話芸引き出せず。それでも少しずつ緊張解けたか途中からNHKは国家政府に予算と人事を握られてはまともな放送ができるはずがない、権力批判する放送局がないといけない、極端な話、NHKは民営化されるべき、政府寄りになつて忖度のやうなことがあるのは以前とんでもない会長もゐて(籾井某のことだが)……と言ひたい放題。最後、視聴者からのファクスでの質問に答へるコーナーあるが、そこで久米は「これだけは言つておきたい」と胸元からメモ取り出して北朝鮮によるアベック拉致があつた当日、自分は「ザ・ベストテン」の放送をしてゐて、また大韓航空機爆破の時も、またこの実行犯とされる二人が……で自分が事実理解できたのも10年も経つてからで……と話し始めるが何が何だか収拾つかず。テレビ報道は何うあるべきか、NHKに物申す、でももう少し冷静に話せたはずで、それには優秀な聞き手要るといふこと。

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夏恒例で香港書展に参る。5日間だかの開催で100万人といふ参観者ある一大書籍展で今年が第30回。

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入場までにかなり時間要し湾仔のMTR站から渋滞で迂回させられ猛暑のなかうんざりの印象あるが今でも多少迂回はするが入場円滑なのはデジタル社会でかつてほど文字に飢えず入場者も現象なのか何より入場券もスマホAlipayで購入してQRコードで入場できるからか。今日来たのは李怡先生の新刊上梓で署名会あり李先生にご挨拶のため。巨大な会場の入り口潜ると先ず目立つのは「三中商」と呼ばれる三聯書店、中華書局、商務印書館の出店。香港代表する出版もする三大書店だが今では中共の中聯辦が事実上の経営で赤化といはれ、その奥に人気のない「阅读中国」の出店もあるが大陸系の出版社の本は香港で当然のやうに人気ない。アタシにとつては香港の洋書大手であるSwindon書店と『香港地方街道指南』の通用圖書出版の出店がなくなつてゐたのが実に寂しい。

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商務印書館の出店で突然ざわつき何かと思へばアタシの背後に陳美齢(アグネス=チャン)お出ましで『子どもの未来に向けて親が必ず知るべき30の秘訣』だか何だかの出版に合はせた署名会で10数人が並んでゐる。


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アイドル時代の日本のLPなんて持参でサイン求める随分と奇特な若者もをり。William鄧達智兄と邂逅。ファッションデザイナーながら健筆な彼なので「新書は?」と尋ねると今年は彼氏との結婚もあつたので何からとバタバタで纏まつたものは書いてゐないといふ。

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『李怡語粹』と董橋著『讀胡適』の二冊それに香港政府の郊外地図がすつかり新版が出てゐたのでその揃ひ贖ふ。李怡先生にご挨拶。


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先月も李先生の天安門事件30年の文章を拙訳で朝日新聞論座に載せさせていたゞいたが実はお会ひするのは2度目で前回は実に30年前に『九十年代』の編集部訪れた際であつた。巨大な展示場でやつとのことで文房具展に辿り着く。


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日本の文具人気は実に大したもの。外は黒雲に覆はれ雷雨がひどかつたやう。

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香港に迫る「社会信用システム」の悪夢 - 富柏村|論座 - 朝日新聞社の言論サイト
香港の逃亡犯条例改正絡みの報道や論評は多く最早、食傷気味かと思ひつゝ状況は不安定ななか少なくとも普選も実現せぬなか市民の世論と議会を取り囲むやうな物理的な圧力が政府と建制派が有利な立法会で好き勝手を許さぬ政治状況となつてゐること、もう一つ、これまでの国家安全条例や逃亡犯条例は「条例」であくまで対香港政府であつたが今後最も懸念されるのは中共の「社会信用システム」の接近で、これへの抗議は直接、対中共となること、これを認識しておきたい次第。

Security lockdown in city as Hong Kong government and police headquarters are barricaded with water barriers to ‘prepare for the worst’ with protesters | South China Morning Post
民陣が21日(日)に市民集会を企画。警方は治安を理由に「集会」は認めずデモ行進について「不反対通知書」発給。集会の場合それが暴力的な抗議活動に発展が憂慮されるがデモの場合はデモとしての許可のため抗議の暴力行為等になつた場合は、それを無許可行為として取り締まれる。「不反対通知書」といふのは実質的な許可なのだが「反対はせぬ」といふ捻くれた思考で腸捻転の如し。71の市民デモでは当初、終点を香港市役所に予定したところ警方の不許可で、それを中環に変更したが当日は黒蟻隊が朝から市役所周辺での抗議活動続けてをりデモ参加者にも金鐘で市役所方面への進行促し、これに従つたデモ参加者は多くなかつたが結果的にこの晩、立法会突入「暴乱」あり。警方はこれを悪材料に721デモでも(民陣とは別に)抗議活動ネットで呼びかけるうごきもありデモの金鐘、中環方面への進行認めず香港警察総部手前、湾仔でのデモ終点を提案。

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民陣はこれを不服とするが今日の警方からのこの通知で、通常、かうした不服は「遊行上訴委員会」さういふ組織があるさうで、そこに訴へることになるが通常その判断には三日要するさうで日曜のデモに木曜日の今日この警方の要請は遅きの極み、と。

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その上で市役所、警察総部周辺での「暴動」に備へ黒蟻君たちがバリケード組むのに使ふガードレール等を取り外す等かなりの防御措置。警方つまり香港市役所のこの反応に当然のやうに政府への不満、抗議は高まるわけで、それを悪意で期待しているのか?とすら窺はれても致し方なし。而もこれまで恒例の市民デモではKing’s Rdで西行の片側3車線の行進許可で、それが数十万人規模になるとトラムも運行停止で東行の反対車線も「開路!開路!」で否応なくデモ市民が溢れ結局は全面占拠される。71デモでは警方への抗議高まり恐れられ当初から全車線開放ばかりか一筋北側のLockhart Rdも車両通行不可でデモに明け渡し。これもデモをスムーズに行進させることで市民の抗議抑へ且つデモがあまりに大規模でないやうに映す意図もありやなしや。いずれにせよ71デモはさういふ「デモし易い」条件だつたが立法会突入と先週日曜の沙田騒動での暴徒化した若者たちといふ存在(のおかげ)で今回は「反政府デモに寛容であつてはならない」といふ姿勢を見せることが大事とされ上述の終点変更の上で警方は民陣に対して「西行3車線の厳守」つまり全面開路にも応じなければ裏道へのデモ拡散も不許可と強気。それだけでも当日のかなりの混乱予想され、すんなりと市民デモが行はれるはずもなし。もはや「平和な市民デモ」といふ香港のデモ文化は終焉迎へたか。デモ行進への道路開放に応じぬ警方への抗議、湾仔から金鐘、中環へと進まうとする市民の抵抗と警方の抑制。先に香港市役所に集結するであらう黒蟻の群れ……当日の混乱は明らか。しかも民陣が半夜三更までのデモ活動申請に対して警方は午後9時までしか認めず。つまり午後9時以降の抗議活動はいかなる形でも警方の取締り対象なのだ。

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市長・林鄭にもう少しでも政治的智慧があり市民が林鄭に何を求めてゐるか理解できればいゝのだが、この市長にはそのセンスもなく中学生レベルにも嗤われるほど。

Taiwan struggling to deal with influx of Hong Kong protesters seeking refuge | South China Morning Post
香港で71立法会突入の暴力行為で警察の捜査対象となるであらう若者らが台湾にすでに数十名、政治的庇護求め渡航してゐるといふ。かつて国民党独裁で民主化求める非合法な「党外」の運動家らが政治的自由求め渡つてきた香港。そこが今では真逆にならうとは。

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エコノミスト7月19日号に投稿で「普選実現で香港の全ての問題が解決できるというのは稚拙」と元「「掃把頭」のレジーナ葉劉淑儀。アンタに言はれなくてもそんなこと当然だろ、普選の日本だつて欧州だつて多くの問題がある。香港の、とくに若者たちは住宅問題や所得格差などの社会問題を抱へてゐて、それらの解決に向けての取り組みが先決……と。かういふの「詭弁」といふのですね、論点をズラして晋三みたい。「普選」といふ民主主義の一つの原則手段と「民生の拡充」といふ目的がある。そこで何うすれば民生の拡充が普選実施より優先となるのか、それってかつてのアジア型開発独裁でせう、香港はまだそのレベルか?素直に「普選は中国政府が認めないから香港は民生の向上に努めるべし」とでも言つてくれたほうがわかりやすい。それにしても、こんな屁理屈、エコノミスト誌に投稿してしまつて嗤はれることが恥ずかしくないのか、レジーナ=イップ。さすが面の皮が厚い。