富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

農暦五月晦日

黒蟻社中による立法會突入と施設破壊は昨晩、一度、不可解な撤退で黒蟻の立法會突入許した警方が半夜三更になり黒蟻駆除に出て1時間程で彼らを撒き散らし立法會を奪回。

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午前4時に警察総部で行政長官リンテイゲツガ、政務長官、保安局長と警察トップが4人で緊急の記者会見。 https://isd.wecast.hk/vod/?id=9737

林鄭は従前からの主張繰り返すばかりで今回の立法會破壊の「暴力」行為は許されるものではない、と(当然だが、そして「暴動」とは言わず)。それにしても不可解は警方が昨晩、なぜ黒蟻社中の立法會攻撃に対して午後9時に一切の防備諦め撤退したのか。警察トップは未明の記者会見で、当時この立法會周辺には3万の群衆がゐて警方の防備には限界もあり諸般の事情で撤退を決定したといふ。黒蟻社中が立法會建物の照明系統も徒らに制御でき照明が落ちた場合、暗闇の中での攪乱者対策は危険であり、これ以上の危険を回避するためだつたといふ。だが、それは彼らが立法會建物に突入してからの話であり、その時にはすでに警方は一人として人影もなかつたと思ふと警方不在で寧ろ彼らに暴挙を許したといふ指摘も頷けるところ。今になつて思へば雨傘運動のきつかけが「突入」でも香港政府建物の「塀を乗り越えようとした」「それだけ」のことで、それがあれだけ波紋を与へたり、かつて要注意の活動家とされていた梁“長毛”國雄君にしても立法會議員になり政治を変えようとするだけ、いかに常識的か……と、今回の黒蟻君たちの動きで随分と見方の軸も変はらうといふもの。

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大公報は「待ってました」とばかりに怒れる若者たちの狼藉を詳しく伝へる。

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本日。立法會の施設破壊は深刻だが朝迄には道路封鎖等も解け社会は何事もなかつたかのやう。幾度となく驟雨あり。

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内部破壊された立法會施設検分済ませた民建聯の議員某曰く最低でも数週間は議事審議能はず、主席(議長)に他の開催場所検討等を願ふ、と……深圳か。


▼陶傑先生が「林鄭」について面白い持論を展開。

林鄭不能走 - 陶傑 | 蘋果日報 | 果籽 | 名采 | 20190702

「林鄭問題」が2003年に安保条例反対の50万人デモが事実上の原因で失脚した董建華、雨傘運動と「港独」を生んでしまつた梁振英の二人と何が問題に違ひがあるのか、と。董建華と梁振英の場合は二人それぞれの「慢性病」だつたのに対して林鄭はマラリアのやうな急病。それが香港の内政問題どころか米中関係や台湾統一にまで影響及ぼした点で董・梁の10倍も深刻。中共にとつてメンツが大事。董・梁がダメなら辞めさせて、次にはそれぞれ貧官曽や林鄭が二番手に控へてゐたわけだが今回、林鄭を更迭するとなると世論と外国の干渉に屈したことになり、かつ林鄭を襲ふ「次」の不在(以下、陶傑先生らしい発想の飛躍の面白さあるが)香港は林鄭月娥といふ、空前絶後の強者を有してしまつた。やはり気になるのは逃亡犯条例で林鄭に何が起きて何が問題をこれほど大きなものにしたのか、だが、これについては遊川和郎氏(亜細亜大学アジア研究所長)の「一国二制度の限界浮き彫り」(朝日新聞)がかなり正鵠を射るもの。

(以下、要旨)国家安全条例制定が習近平より課題として改めて林鄭に提示され林鄭は1年以上も前の台湾での香港人による殺人事件の対応を理由に逃亡犯条例改正といふ形でこれに応じようとしたが財界や選挙控へる親中派議員も及び腰のなか林鄭は条例改正急ぐ。当初はあまり深刻な問題ではなかつた条例改正だが「北京中央の支持」露骨にしたことで市民の間で「林鄭、おまえも中共傀儡か!」となり「反中送」が炎上。予想だにしなかつたことで香港で100万人単位の抗議デモ、そして陶傑言及の通り思はぬ余波が広まる。北京中央にしてみても何が悪いのかジレンマだけは募るばかり。

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倉田徹教授(立教大学、香港政治)は逃亡犯条例改正がもはや「システムを巡る攻防」に化けてゐると指摘。「撤回」するまで抗議止めない若者たち、民意による政治変動を拒絶する政府側。これを赦せば「革命」。香港は西洋型市民社会に中国の権威主義が重なる特異な場所となり西洋型市民社会は中国の権威主義を変革しようとし、逆に中国は統制しようとする。政府は市民からの支持もなく民意とは遠い存在で、それに抵抗する側から泛民主派の政治すら罵る黒蟻社中が生まれ、これも民意から乖離は明らか。このこの矛盾した対立を「一国両制」下で解決できるのか、かなりの困難、重い負を背負つてゆくことになるのではないか、と。

香港大学の民意研究計画といへば鐘庭耀、鐘庭耀といへば港大民研といふくらゐ、この先生の独自色が強い。2000(建華4)年に鐘庭耀が民研の行政長官支持率調査につき董建華側近から圧力がかかつてゐると暴露。 香港大學民意調查風波 - 维基百科,自由的百科全书 これで香港大學の学長辞任する程の大きな醜聞となり董建華の支持率も低下。さういふ意味で世論調査がいかなる圧力もバイアスもなく、より正確であることは重要。日本では新聞やテレビの世論調査だが、これも新聞によつて晋三支持率が違ふ。それに比べ台湾民意基金会なんて理想的。で香港なのだが港大民研は香港大學の独立調査機関なのだが鐘庭耀のカラーが強く、それは権力に対して常に懐疑的といふことなのだが、こゝまで親中土共の世となると、それが泛民と見られる。さすがに圧力あるからか鐘庭耀がこの調査機関を独立させたとは。かうなると更に厳正な世論調査とはいへなくなると思ふのだが。