富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

日和下駄と東京リボーン

正月初六。曇。朝の気温は摂氏17度で昼も20度までしか上がらぬといふ。少し涼しくなる。洗面所の漏水の対処から一先ず解放されただけでもありがたい。昨日すでに日剩に綴つたが竹内好『近代の超克』読了して近隣のジムのサウナに朝風呂。昼ころに家人と110系統のバスで佐敦へ。休日続き、もう何もすることもないので社会科見学で先ず高速鉄路の西九龍站へ。長距離の北京行き、上海行きは朝のうちに発つてしまふので午後の長距離はせいぜい汕頭や厦門行きが数本と夕方の長沙行きくらゐだが広州までの短距離は1時間に5本といふ東海道新幹線に勝るとも劣らぬ頻度で驚くばかり。この高鉄は香港に中共側の入境管理が出しゃばり「一地両検」は「一国両制」に背くと反発もあるが、この西九龍の站を発ち深圳の心臓ともいへる福田まで僅か14分、広州南までも1時間も要らぬのだから、この時間距離の高鉄乗車のためには「一地両検」どころか実用的には「ボーダーがあること」ぢたい面倒と思つてしまふか。アタシらは従前からの在来線があるかぎり、この高鉄に乗る機会もないのではないか。なので今日、施設の見学だけと思つた次第。この施設の緩い半円弧の屋上は緑化された展望台。緑化といふには枯れさうなタンポポと遊覧客に踏みつけられ見るも無残な芝生、展望といふには超高層ビルに囲まれ折からの香港の春の曇天で香港サイドも靄に隠れ物悲しい風情。

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地下道で「西九龍文化区」開発で最初に開業の「戯曲中心」へ。Chinese Opera専門の劇場だが英語名を併音用ゐて“Xiqu Centre”としただけでも物議醸した案件で今後のこの開発では故宮博物館の分館だかもできるさうで。建物は巨大な吹き抜けの空間は見た目、斬新的なもかもしれぬが、劇場と小さな音曲愉しむ茶館が必要なだけなら、これ程の巨大な建物(容積の半分は空間!)が必要だつたのか。

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演目はやつと地場の粤劇団が始まつたばかり。アタシはこの20数年それなりに中国歌劇も見てきたが大役者も次々と鬼籍に入り次の世代も若い凛々しい時を見てしまつたので、これから先、高鉄と同じく、この戯曲中心も訪れぬ機会はないかも知れぬ。

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今日は家風散人『日和下駄』なんて読んでゐたものだから、かうした施設を見学しても何だか空しく思ふばかり。iPhoneKindleのアプリを入れて「日和下駄」読んでみたのだがiPhoneを横にしてみたら、まるで昔の書状でも読んでゐるやうな感じで一行も短く何て読み易いこと。佐敦の旧市街に出て、こちら陋巷の方が荷風ぢゃないが本当に心も落ち着くところ、廟街で午後も遅くなると夜市のため毎日、ネパール人らの日雇ひが路上にテントを貼り夜店の開業準備が始まり、淫売婦も日曜昼すぎのエロオヤジ相手の商売で路上に企つ姿も少なからず。ネパール料理のマナカマナに遅い昼食。

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油麻地まで歩き102系統のバスで帰宅。読書。昼に外でウヰスキーのポケット瓶を贖ひちびちび飲んでゐた所為もあり睡魔に襲われ午睡。1ヶ月も溜めてしまつた銀行とクレジットカードの出納を整理。昼餉が遅かつたから腹も減らずポテチなど摘みながらアップルティー飲みNHKスペシャルで「東京リボーン」見る。第2回で「巨大地下迷宮」特集。好きな分野だが番組の演出が何だか大友克洋AKIRAそのものだね、と思つたら番組のプロデュースに大友克洋さまご参加。この第1回は12月に「ベイエリア 未来都市への挑戦」だつたさうで当然のやうに大友克洋の予言が実現する2020年の東京五輪に向け巨大都市東京がどのやうな変貌を遂げるか!といふ謂はゞ土建番組。今日は荷風の日和下駄なんて読んでゐたから、この未来都市への変貌を見てゐると余計に、この「再開発」が虚しく映る。


【監修・大友克洋】AKIRAと共に東京大改造を追う『東京リボーン』OP映像【NHKスペシャル×1.5ch】

それにしても荷風が東京から江戸の風情が失せて……と嘆くのは、てっきり震災で東都が焦土と化し帝都建設始まつた時の嘆きか……と思つてしまふが「日和下駄」が書かれたのは大正4年で荷風が懐かしむのは明治も20年くらゐまでの江戸情緒で明治12年生まれ荷風にとつては子どものころに辛うじて眺めてゐた原風景なのである。江戸が明治からの近代化があり震災で焼けて帝都建設が始まり戦争で焼けて戦後の高度経済成長があり、その後は幸ひにも空襲も地震もなく東都は焦土と化すやうな壊滅的破壊もないなかで延々と都市開発が続いてゐるのだから「リボーン」は電通的な虚実ではないか。延々と森ビルらの企図する都市開発が続いてゐるだけで。……うつかり「戦後」と書いたが片山杜秀の『ゴジラと日の丸』(1990年代の週刊SPAの長期連載「ヤブを睨む」に面白い話があり安岡正篤の話で私らは「戦後」と聞くと普通は「戦争が終はつて」想像するが安岡クラスになると「戦後」は支那事変が始まった時が「戦争」で「戦後」はその時から何年といふ認識があるのだといふ。そして朝鮮戦争ばかりか(先日、NHKスペシャルだつたかで朝鮮戦争の番組で朝鮮半島の戦争はまだ休戦中で横田基地内には国連軍の司令部が今もあり連合国陣営のオフィサーが駐在してゐるといふではないか!)大東亜・太平洋戦争も戦争こそ終結したが米国が日本を支配する中で、この戦争は日本にとつて、まだ永久戦争のやうに続いてゐるのかもしれず……うーん〈近代の超克〉から竹内好など続けて読んでゐてアタマがそっちに逝つてしまつてゐる私……何とも話が整理つかず。いずれにせよ、である……今日のこの東京リボーンの「巨大地下迷宮」も、これだけ見てゐると東京が困難な地下開発で、そこでまるで世界で最もかうした地下迷宮化が進んでゐるやうだが東京でも1970年代の新宿にすでにこの地下迷宮が生まれ、深圳の深田にある地下の高鉄や地下鉄を組み込んだ巨大站も目を奪われるもので、困難な土壌での地下鉄開発も沿岸都市・上海や砂漠の中の北京などで帝都東京を上回る規模の地下鉄開発がほんの20年くらゐで進んだのだから東京だけを珍しがることがおかしな話。これも「外国人が日本を讃めるのを喜ぶテレビ番組」の陳腐なレベルと一緒。2020年の東京五輪への盛り上がりを目論んだ電通的、森ビル的な土建祭りに与したくはない。

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▼香港競馬で20世紀最後から20年以上伝説的な記録残したダグラス=ホワイト騎手引退

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