富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

俞玖林《白羅衫》

fookpaktsuen2017-08-13

農暦閏六月二十二日。どこからか台湾海峡にでもあるやうな小島へ水上自転車を漕いてゆく。ざわついた歓楽施設。自分の家族もゐる。そこでもあれこれあつた上で台湾へ。夏祭りで相撲だかの興行中。ご祝儀で賭けが行はれ成り行きでその賭け金の出納係。自分は他にしなければいけないことがあるのに何をやつてゐるのだ、と慌てゝゐると夢から目が覚める。猛暑。朝から賑やかと窓下を眺めたら団地のプールで年に一度の水泳大会。先日銀座鳩居堂で購入した線香の箱が上蓋がとてもきつくて一本取り出す毎に線香が散らかりさうで危ない。ふと発案で蓋に切り込みを入れ線香を一本取り出し易くする。かういふ工夫好きは亡父譲りか。午前中ジムのトレッドミルで5kmだけ走る。昼に半田めん茹でて啜る。午睡。甘耀明『殺鬼』読み始める。早晩に路線バスで土瓜湾。M嬢と待合せ安徽街の巧興麺食店。爆満。メディアでまた紹介されたのかしら。店内は満席で路地の張り出しの卓で餃子を食らふ。持ち込みの缶ビール。コンビニでウオツカ飲料買ひ込み高山劇場の開幕まで公園のベンチで飲む。江蘇省蘇州崑劇院公演で新版《白羅衫》見る。崑劇といへば白先勇の青春版《牡丹亭》の好評で玉三郎も演じたが《牡丹亭》も14年がたち若手で大抜擢であつた俞玖林も今では崑劇の立ち役では第一人者、そこで《牡丹亭》を超へる新しい演目の創造といふことで白先勇は《白羅衫》に目をつけ、この脚本を大幅に変更。もともと若き俊才の主人公が都へ科挙の試験に上がる際に偶然に白羅衫(白の布衣)が縁で生き別れの親と再開して……といふ単調な筋だが、これを盗賊による被害で親子が生き別れになり、その賊が養子とした子が義父も心入れ替へ真っ当な日々を送るなか見事に成長し……最後は判官となつた主人公が自分の出生からの秘密を知り実の父母のために義父を処罰せねばならず……とシェイクスピアの悲劇のやうな物語に。これは見事。ほとんど主人公の俊才→判官の一人芝居で2時間たっぷり語り歌ふが俞玖林がまぁこの主人公の成長を見事に演じ最後の義父との愛惜の場面はこれは芝居に感情移入できぬアタシでもつい胸が熱くなるほどの好演。今年の春、上海での初演の由。いゝ芝居を見たあとは美味しいお酒が飲みたいよね、とM嬢と紅磡沿岸のKerry HotelのRed Sugerといふオープンレラスのバーへ。ハーバーの向かふが北角で、上手に尖沙咀、その対岸に中環といふ不思議な立ち位置からの夜景眺め白ワインで涼をとる。崑劇は勿論、真剣に中国劇を見るのは初めてといふM嬢であつたが元々、歌舞音曲、芝居がわかる人で中国語に精通してゐるからセリフ、歌の文句の面白さから衣装の柄の変化まで話題尽きず。ところで本日の公演、あたくしたちの席は中央通路から一つ後ろの中央でベストの席だつたがあたしの後ろの席で劇中でもときどき連れと喋る、上海訛りの婆さんがゐて舞台の役者のダメ出しなど厳しいがやたらマトを得てゐて、それでも劇末で本当にうるさいね!と後ろ振り返つて睨んでやらうと思つたら岳美缇先生!上海崑劇団の重鎮で今回のこの《白羅衫》の演出である。そりゃダメ出しは的確なはず(笑)日本でいへば文学座の芝居を観に行つて背後の客をうるさいよ!と睨んだら杉村先生が座つてゐたようなものである。最後のカーテンコールでは舞台上で崑劇好きの喝采を浴びてをられた。