富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

マラッカ動物園

fookpaktsuen2016-08-06

農暦七月初四。夜中に雷雨。イスラム圏を旅すると早朝の礼拝で五時半くらゐに町中にコーラン祈りが流れ折角の眠りを起こされてゐたが今ではその時間に起きてしまつてゐる。日没が遅く夜は七時半でもまだ宵の口だつたが朝は七時にならないと明るくならない。雷が遠くで鳴る曇天。今回初めてのマラッカ。マラッカの歴史は大航海の時代そのものでポルトガルが東洋に現れ、マレー半島インドネシアスマトラ島の間のこの海峡の重要性に着目しインドとアジアを結ぶ拠点として、この港町を建設。オランダがそれを襲ひ英国との間でインドネシアはオランダ、マレーは英国といふ領土交換が成立し先の大戦中は日本軍が占領。戦後に英領からの独立で今日に至るのだがマラッカはマレーシアでもKLやペナン州ジョホールバルのやうな拠点都市の経済発展からは取り残され昔の異国情緒溢れる港町のまゝで、それが観光化されペナン(ジョージタウン)とともに世界遺産に登録され今では観光が主な産業となつてゐる。それでも昨夕歩いてみると旧市街は観光客相手で路上に屋台が並び家々はカフェとなり折角の街並みも路上は自動車が溢れ家の前には路上駐車がずらり。マカオならポルトガル風の住宅が並び石畳で路上駐車の車の列もまるでリスボンのやうで絵になるがマラッカはさういふ感じはしない。ペナンは観光化だけではなく強力な自治州政府の開発主義で貿易都市化も進めたがマラッカはさうもいかない。土曜朝はマラッカからでもバラカンさんのWeekend Sunshine聴かうと思つたらリオ五輪開会式の中継の特番。そんなの中波の仕事でしょ、まさか国威発揚で同時中継?、否、今日は8月6日、広島原爆の日でラジオ第1は広島からの平和記念式典。さういふことか。それでもラジオ第2もあるのに、だがこちらはこちらで英会話は夏も課題を済ませないといけないらしい。ホテルの朝食は朝7時から。本館二階の食堂は朝七時は案の定で私らだけ。八時半に昨日バスターミナルからホテルまで送つてもらつたタクシーの運転手を呼んでゐる。静かなロビーのソファで寛いで新聞を読んでゐる運転手のジョハリ氏。ホテルから12kmほど離れた、中央幹線のハイウェイに近いマラッカ動物園へ。旧市街の開発が進まないまゝ市の郊外には高級住宅地や公共施設が点在する。

  • マラッカ市立病院。ジョハリ氏の話によると公立病院は診察料が無料で60歳までの市民は処方薬はRM1を取られるが60歳以上のジョハリ氏は無料で助かるといふ。勿論、救急扱ひ除けば数時間はかゝるが私立の大型病院もあり町中のクリニックでも1回の診療はRM35〜50でけして高くはない。医療機関がマラッカに多いのはインドネシアスマトラ島からだと大病患つた場合にジャカルタに行くには遠くインドネシアの医療水準が高くないため船で3時間で海峡を渡りマラッカに来た方が高水準の医療が受けられるためで医療産業はマラッカにとつて重要でメディカルハブとして注目されてゐる。
  • マレー人が6割、中華系が3割、インド系が1割といふ人口構成だが最近は近隣の各国やバングラディシュなどから労働人口流入が多く市民の嫌がる路上清掃などの職はバングラディシュ人、守衛はネパール人といつた区分けが出来つゝある。

そんな話をジョハリ氏は澱みない英語で理路騒然と話す。観光都市のタクシー運転手の案内とは一味違ふマラッカ紹介は高中の社会科の先生の授業のやう。郊外に来ると富裕層の広い邸宅、中間層用の低層マンション、公共住宅が並ぶ住宅地、Aeonなどが入るショッピングモールがあり、その中を4車線以上の広い道路が走り各衛星都市は自動車での移動に交通は限定される。これはもはや米国の西海岸から日本、中国まで国を限つたことではない単調な風景。全く同じ住宅地とモール。マラッカの此処が日本と違ふのはバイパス道路に沿つて走つても大型家電店とパチンコ屋がないくらゐ。アタシが話をメモしながら聞くものだからジョハリ氏は説明にも熱が入るうちにマラッカ動物園着。朝九時の開園にちょうど間に合ひ入場券売り場のシャッターが上がり口開けの客となる。整備されてゐない、スタッフが怠慢といふ悪評少なからず。だが個人的にはのんびりしてゐて動物の飼育も開放的で好き。事故が起きたら、と普通ならもつと遠くなる動物と参観者の距離がとにかく近い。マレーシア原産の猿類など一応は飼育場所は限定されてゐるのだが高い樹木が茂つてゐるので、木々を渡り私らの頭上の、つまり飼育場所の外で遊んでゐる。キリンやダチョウなど管理もないまゝ顔に触れるほど。ぐるりと一周でたつぷり2時間。旅行先では動物園があると朝イチで食事が始まり動物も元気なうちにと、それが旅行先での唯一の観光になる時が少なくないのだが、考へてみると動物園に行くのも初めての旅行先が少なくなつたからかもしれないが数年前の台北で北京から贈られたパンダの團仔を見に行つて以来。動物園こそ世界各地の珍しい動物を集め動物園に展示し市民がそれを順路に進み鑑賞する、といふまさに近代の〈まなざし〉のシステムで各国の動物園訪れるとお国柄の違ひ顕著なのが都市人類学的にはとても面白い。 昼前に動物園を出て、その頃には入場券売り場に少し行列が出来るほどの人出だつたが動物園前のバス停は路線バスの案内板もなければ観光バスが駐車して道路とは塞がれたまゝで土曜昼の渋滞のなかバスが来る気配は一向にない。小雨。動物園の入り口のスタッフは忙しそうで、面倒なのでジョハリ氏が往路で教へてくれた1.5kmほど先のショッピングモールまで歩けば、どうにかなるか、と思つて幹線道路を歩きだすと、これが歩行者など想定もしてゐない道路でとんでもない殺伐さ、荒涼とした風景。歩き初めて失敗した!と思ふ自動車専用道路で、それでも動物園のある丘陵から下つてしまひ戻るに戻れずモールを目指す。世界中のどこの都市にもある出来合ひの郊外モール街で嗤つてしまふくらゐ没個性で嫌ひな空間だが殺伐とした自動車道網の中から此処に足を踏み入れると歩道があつて人が歩いてゐるだけで安堵とは情けない。大型の小売店前にタクシーが数台、暇そうに客待ちしてゐて仕切る運転手が一番ぼーっとしてゐる運転手に「町中までアンタ、行きなよ」と指示してボロボロのタクシーに乗る。ジョハリ氏のバジェットタクシーは動物園まで片道RM40だつたが、この運転手は市内までの復路「RM25でいいや」。初老の運転手がジョハリさんに比べると学は無ささうだがブロークンな英語でも、これがまた説明好き。途中の衛星都市が、 ここは大学が郊外に移転したことで出来たエリアで学生が多い、このあたりは富裕層の住宅地。マレーシアは産油国で元々ガソリンは安かつたが自動車所有は限定されてゐた、それが緩和され自動車が郊外では1人に1台のやうになり道路渋滞と大気汚染が ひどく悩みのたね、うちの息子も本当に必要なのか1台調達。このタクシーは18年乗つてゐるが、どうだい?まだ十分に走るだろ、と(確かにポンコツだが走ることは走る)。どこから来たんだい?香港か。昔、エリザベスの頃に一度、行ったな。今は香港は共産主義者の統治だ。香港、台湾……懐かしいな。随分と変わっただろうな。……あれこれ話題が変わりながら気がつくと市街。一応最高級の一つのホテルにタイヤの外れそうなオンボロタクシーで乗り付けドアマンも苦笑。この運転手氏が「ここは美味くて有名なんだ」と車窓から教へてくれたホテル裏の焼臘屋で昼餉。ホテルに戻り午睡。夕方になつて薄陽のなか出街。路上の榴槤屋で榴槤頬張る。運河に沿つて旧市街まで。風光明媚とはいへない気もするが運河は観光名所で観光船が上り下り。この運河を観光名所にすべく両岸に遊歩道は大したやうだが、それ風のゲートの一部が朽ちてゐて「ん?」と見たら発泡スチロールで造形してモルタル塗りとは……禁じ手だろw。曲がりくねる川沿ひ、頭上にはモノレールの線路。建設計画が頓挫したまゝ放置。今更道路網の拡充出来ない旧市街では画期的な交通手段だが実用性には限りのある周遊ルートで経営母体の資金繰り悪化で工事も最後の最後で狭いマラッカ川を跨ぐ橋梁がかけられず。中国製のモノレールでマラッカの地元の政府系都市開発企業が建設を始めたが「市民の足にならない」といふことで資金の追加融資が受けられず。モノレールの廃線といふのは(これは開通もしていないのだけど)大船〜ドリームランドのやうに物悲しいものあり。

旧市街まで来て家人と別れ一軒、ちょっと覗いてみたい古物屋あつたのが閉まつてゐる。そのへんのカフェで啤酒でも飲んでゐようか、と思つたら啤酒飲むにも事欠く小銭しかポケットになく家人との待ち合はせまで小一時間、市街を徘徊。路地のLight & Ez Cafeといふ昨夕見たら地元に住み着いた呑んだくれの外国人集まる飾りっ気のないバーがあり、そこの路上のテーブルにつき啤酒飲む。若い頃はインド映画でヒーロー役でも出来たそうなインド人の店主が「日本人かい?」と声をかけてきて四方山話。この飲み屋を開いて16年になるが自分一人で誰も雇わず出来合いの啤酒など出すだけで店もご覧の通りの素っ気なさ、だから他のこのあたりの観光客相手のカフェなら啤酒一杯RM50なんてとるとこもあるのに自分のところはこの値段(RM11)で出してゐるが昔はRM6だつたのを政府は酒飲みが増えると思つたら増税増税で税率はタバコより啤酒が高いなんてとんでもない。どっちが身体に悪いかと憤慨する店主。マラッカ生まれで、彼の父が若い頃に叔父貴がこの地で医者をしてをりインドから呼ばれてマラッカで警官をしてゐたのだといふ。それでもこの酒場でも7UpがRM3でTiger Beerの小瓶はRM11とは4倍差。日本の喫茶店でサイダーが300円なら1200円でビールを飲む感覚。これでもマラッカはペナンより酒税は低い。土曜晩で観光客でごった返すJonker街を避け川東のインド人街へ。地元のインド人で賑はふ食堂で夕餉。The Shoreといふホテル近くの楼上に高級マンションとSwiss Garden Hotelのある複合モールに立ち寄り「へぇ」でホテルに戻る。
自民党憲法草案(第二次)につき晋三が「そのまま国民投票に付されることは全くない」と宣ひ「国民的議論の末に収斂されていく」と予言。広島での平和式典では昨年無視した非核三原則に言及。着々と「後世に名を残す大宰相」に向け着々か。晋三といへば大臣そしてこの副大臣の認証式で宮中に上がつたが内奏の際に週明けの玉音放送につき事前に聖上より晋三に何かお話あつたのかしら。