富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

筒井康隆「モナドの領域」

fookpaktsuen2015-10-01

農暦八月十九日。国慶節。朝七時の中央電視台のニュースは天安門前広場での式典の中継から。コミュニストブルーな空。昨日は広西チワン族自治区で連続爆破。式典のあとのニュースがまず習近平国家主席が式典に先立ち少数民族の式典参加者と和やかに談話する場面、そして続くニュースが新疆と天津の安定伝へる内容……なんてわかりやすいのかしら。国慶の大型連休で海外旅行400万人、香港への大陸客は4割減の由。iOS9リリースされ当然のやうに不具合少しあり9.0.1が出たと思つたらこちらのほうが毛病(マオビン)多し。不便だつたら早速9.0.2となり多少マシになる。郷里の母から生活物資届く。文芸誌「新潮」10月号、渋谷陽一責任編集「SIGHT」の特集「安倍政権は違憲だ」号、下谷「道明」で誂へた鉄道時計用の組紐エッシェンバッハのライトつきルーペ等。道明の組紐、だうすれば四角にエッジが立つのかしら、墨色で誂えに一ヶ月、母が道明で受け取つてくれる。朝少しだけジョギングして昼に半田麺茹でて啜り午後早速「新潮」で評判の筒井康隆モナドの領域」読む。晩にトマトのパスタと新西蘭はPegasus Bay WineryのSauv Sémillon 2012年。「SIGHT」読む。
筒井康隆モナドの領域」について。作者ご本人が「わが最高傑作にして、おそらくは最後の長篇」と嘯くのはこの方らしいところ。この文芸誌が発売早々に売切れで増刷といふくらゐの評判。だが物語のキーワードである「佯狂」の意味もわからなければ最初の一行目の「禍まがしい」と最後の一行「覚束ない」が読めないでせう、普通には。書き出しの不吉さ感じさせる殺人事件と次に町中のパン屋の日常へといふ展開は面白い。乱歩のやうなミステリーの真骨頂。でも「突然堤が真一にそう訊ね」で「……堤真一か」と思つたことがアタシには一番の印象。この作者は「虚構船団」でも「聖痕」でもとにかく導入部分が最高に面白いのは常で、この評判の新作も大学教授が佯狂なのか憑依するところから形而上学的な展開はアタシにはもうダメ。裁判まで延々とこの話で食傷気味。最後の数頁で感涙に咽ぶ読者少なくないとか。ふーん。アタシは本当に小説読むセンスがない。この話の筋でなぜ刑事とパン屋の主人だけ苗字で綴られず真一と雅彦なのか。(ネタばれにならない程度で書いておくと)パン屋の主人の背景があまりにも雑すぎ。今回の読書であらためて感じたのは筒井康隆にあるホモフォビア。これはじっくり考へると面白いかも。他の小説も読めず大江健三郎古井由吉漱石百年の対談もさして感じるところもなく、寂聴さんの阿川弘之黒川創鶴見俊輔の何れも追悼の文章とキーン翁の石川啄木の話だけは読める。
▼「SIGHT」の特集「安倍政権は違憲だ」号。小林節、阪田雅裕(元内閣法制局長官)、田中秀征、木村草太、源一郎&樹対談と錚々たる面子。節先生の憲法学者がいかに論争に加はつたか、の話が面白い。改憲論議に与しないことで改憲論潰すといふスタンスにあつた憲法学者を、改憲派の節先生が安保法制に異議申し立てで立憲主義護持の土俵に連れてきたこと。樋口陽一先生と自分が組めたことの意義を語る。
▼防衛整備庁今日発足。商社で働く知己が「そろそろ戦争が起きたほうがいいんだよ」と宣つてゐたこと思ひ出す。商機到来か。

新潮 2015年 10 月号 [雑誌]

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