富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

東山彰良『流』

fookpaktsuen2015-09-22

農暦十月初十。朝二時すぎに寤めてしまひ東山彰良『流』三分の一ほど読み二度寝。晩にRatatouille飰す。赤葡萄酒。『流』続き読む読了。
東山彰良の『流』は、かなり面白いといふ評判かなりあり。小説苦手なアタシが1日で読了。それでも朝2時間と晩3時間もかゝるのだから正史のリバイバルブームななか新刊で『病院坂の首縊りの家』読んだ十代前半の頃のやうな読書体力がないこと実感。でこの東山なる作者である。「よく噛まずに呑み込んで翌朝の大便と一緒に出てきたピーナツのようなやらしい面構えをしていた」なんて必要以上の無理な比喩がちょっと気になるが、戦後のエキサイティングな台北、それも迪化街、中華商場や西門が舞台で地理、歴史的に少しでも戦後台湾知るものには物語が頭の中で映像になる。主人公は台北で一、二争ふ進学校に通ふ秀才で知的だが友情によりドロップアウト、三流校に転向し喧嘩に明け暮れる毎日。義理と人情の世界と詩や「朧月夜」の歌にしっくりの教養主義的な面ももつ。時間系列の反復、極端なデフォルメなど中南米文学でマルケスやピンチョンのやう、物語の非現実的な展開と「九官鳥の人品骨格」褒めるやうなナンセンスは筒井康隆、不良同士の攻撃的な友情は舞台も台北は西門町の艋舺が舞台なら女性を排除した同性愛的な世界が中上健次的でもあり、国軍に入隊した二年間、軍の権威への反発は大西巨人、血族に対するこだわりは山口瞳、ステインベックやパール・S・バックのやうな歴史性や親子の葛藤……そこにホラー性やオカルトなどあれこれ盛りだくさん。ミステリーといふには途中で犯人は誰か、因果など察するも容易で、散らかりすぎ、整理しきれてない嫌ひあるがエンターテイメント小説として面白ければ直木賞。これは台湾で「外省人の物語」の一つの完結だと思ふと龍應台の『大江大海』も意識してゐるかもしれない。「春意を催す」だの、畢竟、九闊を叙す……なんて表現は今どき若い世代には珍紛漢紛だらうが作者は台湾生まれで、さうした古い日本語の表現も自由なのが面白い。
▼かつて中沢新一と共著で『憲法九条を世界遺産に』上梓の太田光「9条を残せという思いは書いた時とまったく変わってない」が「デモに関しては当時から懐疑的だった」といふコメントが興味深い(The Huffington Post)。

  • あの人(安倍首相)は、戦う政治家になるんだと宣言して出てきた人なんですよ。戦う相手は国民なんです。反対世論です。『美しい国へ』の冒頭は、60年安保から始まるわけです。今よりもっと激化してましたよね。学生が国会に突入して死者も出ましたね。それでも岸さんは「声なき声を聞く」と政治信条を通したわけです。それが戦う政治家であり、安倍さんが目指す姿。それを自分はそうなりたいと思っていたわけです。そのタイミングでデモの声が上がるってことは、安倍さんにとっては自分がやりたいことの舞台装置がどんどん整っちゃうことなのね。僕はデモに参加する人を決して否定はしないけれども、結果的に、自分の思いとは別に(安倍首相に)協力する形になっちゃってる。俺は有効性はないと思う。
  • 人間は集団になるとものすごい怪物になる。これは日本人の特徴でもあって、戦前の「一億火の玉」と戦後の「一億総懺悔」は同じ精神性からきていると思うのね。
  • 民主党に対して)憲法改正で、しかも集団的自衛権も行使容認だったはず。変わったなら変わったでそれを明確にするべきだ。

そして憲法については「安保法案立法化で憲法改正は遠のいた」といふ見解。

安倍さん二度とこれ(憲法改正)できないです。大騒ぎになったし(今回の安保法案は)今まで通りの解釈変更なんです。これは安倍さんが一番嫌ってた「戦後レジーム」なんです。安倍さんは「戦後レジーム」の脱却と言って出てきたけど戦後レジームを継続しちゃったと僕は思うんですね。安倍さんを支持した人に安倍さんはなんて説明するのか。僕は安倍総理にその説明責任があると思います。

とする。かうなつてくれると本当にありがたいのだが。

流

台湾海峡一九四九

台湾海峡一九四九