富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

桜の美化

fookpaktsuen2015-01-06

農暦十一月十六日。小寒。気温は摂氏22度だかのぽかぽか陽気。晩に美しい十六夜の月を愛でながら帰宅。晩飯のあと頂きもので成田空港名物・焼大福なるもの頬張る。成田空港名物と謳ふが清瀬の菓子屋。成田空港ならやはり三里塚饅頭とか、ぜひ。NHKブラタモリ4月から再開予告の特別番組で京都編見る。南禅寺水路閣から疏水について、そして御土居についてが面白い。タモリはん、まぁ御土居のことから、よう知つてはりますわ。北区鷹峯の旧土居町、周山街道界隈については格別。周山街道を大学生のときに歩いてゐる、とは渋すぎ。
▼まだ春には早いが東京新聞(一面の連載「漂う空気)で)「毒の花」と題して桜の話あり。88歳のMさんが1945年4月に海軍鹿屋基地から搭乗したのが「桜花」といふ戦闘機で火薬の詰まつた胴体に翼とエンジン、操縦桿だけの機体は親機を離れると敵めがけて落ちてゆくだけの人間爆弾。Mさんは親機故障で海に不時着し命拾ひしたが老いて寝たりとなつた今、昔の仲間のことを思ひ出し満開の桜の夢を見て魘されるといふ。黒い海にかなり色の濃い桜。今では旧鹿屋基地に近い旧串良特攻基地の滑走路跡に二千本の桜が植えられてゐる。関西の串良出身者たちが特攻隊見送つた傷を癒すため「この花道を再び誰かが飛ぶことのないように」。古くから山桜、満開の桜は日本人魅了したが、その桜が戦時下「ぱっと散る美学」にすり替へられたのが事実。桜の美化。「咲いた花なら散るのは覚悟、見事散りましょ国のため」の同期の桜。国学者山田孝雄(1873〜1958)は1941年に「道徳または哲学を桜に求めむとするときには付会の節(嘘の理論)以外に何物をも得ることがない」と指摘あり。
すさまじくひと木の桜ふぶくゆゑ身はひえびえとなりて立ちをり
山手線を軍用列車で走行中に城北大空襲に遭ひ数日に渡り遺体焼却などして茨城は鉾田の舞台に戻つたときに満開の桜を見た詩人の岡野弘が1967年に詠んだ歌。軍服に舞い落ちた花びらが自分にまとはりついた死臭を際立たせ、一生、桜を美しいと思ふまいまいと感じたといふ。空襲で焼かれた東都に咲いた桜に異様を感じた安吾。「花見は今も春を告げる風物詩だた、その木を美しいと思ったことを悔やむ人も同じ日本にいる。それもまた、戦争の一片」と記事は結ぶ。アタシは日本を離れ花見も随分と知らぬが記憶にある最後の桜の花見は昭和の終り頃に東京で中原街道に面した洗足池の公園。湖畔に鳳凰閣(旧清明文庫)あり。夜の酒盛りだつたが夜桜が怖いほどだつた強烈な記憶。
▼晋三の年頭記者会見での戦後70年の首相談話について「村山談話引き継ぐ」「先の大戦への反省」といつた考へ示したが、これが晋三の「戦後レジームからの脱却」といふ発想に矛盾するのではないか?といふ見方あり。だが「戦後レジーム」は晋三の平成19年正月の施政方針演説(こちら)で見ると

私は、日本を、21世紀の国際社会において新たな模範となる国にしたい、と考えます。
そのためには、終戦後の焼け跡から出発して、先輩方が築き上げてきた、輝かしい戦後の日本の成功モデルに安住してはなりません。憲法を頂点とした、行政システム、教育、経済、雇用、国と地方の関係、外交・安全保障などの基本的枠組みの多くが、21世紀の時代の大きな変化についていけなくなっていることは、もはや明らかです。我々が直面している様々な変化は、私が生まれ育った時代、すなわち、テレビ、冷蔵庫、洗濯機が三種の神器ともてはやされていた時代にはおよそ想像もつかなかったものばかりです。
今こそ、これらの戦後レジームを、原点にさかのぼって大胆に見直し、新たな船出をすべきときが来ています。「美しい国、日本」の実現に向けて、次の50年、100年の時代の荒波に耐えうる新たな国家像を描いていくことこそが私の使命であります。

と述べてゐて、文意だけでとれば正確には占領軍憲法の改正であるから、これは今回の戦争に関する発言とは矛盾なし……と(実際には違ふのだけど)理解すべきか。佐伯啓思先生が朝日だつたか、で「保守」について語つてゐたが「保守」はそもそも人間の理性や能力には限界があり過ちを犯すといふ前提に立ち過去の経験や知恵を大切にして社会秩序をできるだけ安定させ改革するにしても急激にではなく緩やかにやつていくのが本来のあるべき姿。真の保守と晋三の進める政策は異なり(佐伯先生は晋三の改革路線じたいは支持)、本来の保守からは理解の難しい晋三の改革路線。首相一期目の時は戦後レジームからの脱却、つまり米国の占領政策から始まった「戦後」見直しをば図つたが、そもそも米国は進歩主義に立脚してをり、日本が戦後、米国との密接な関係維持することが保守と誤解したのが日本。だがその関係を続けるかぎり(新自由主義もさうだが)日本の伝統的な共同体まで破壊されるわけで、さうなると、これは保守ではない、となる。御意。なにせ自民党の建設業界と並ぶ大きな支持母体であった農協だが晋三はJA中央すら解体してしまふのだから保守に出来ることではない。