富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

滾拉拉的槍

fookpaktsuen2014-10-19

農暦九月廿六日。午前中5kmほどジョギング。午後快晴。西湾河の電影資料館で『滾拉拉的槍』といふ貴州省の従江(貴陽と桂林の丁度間くらゐ)の山間にある苗族の部落を舞台にした、十五歳にならうとする一人の少年(王吉甩)の通過儀礼的な物語見る。監督は寧敬武、2009年の映画。祖母と二人暮らしの少年は成人式も近いが出稼ぎに出たまゝの父は行方知らず、伝統的に成人式で父親から授けられる銃もなければ苗族の歌も修得できぬ。村の一人の青年が広州に働き口見つけたので自分も成人式に必要な金銭を得たいところだが出稼ぎには若すぎる。山の柴木を刈り天秤棒に担ぎ町に売りに出かけ僅かな現金を得て祖母と二人の糊口を凌ぐが稼ぎたい一心で天秤棒から手押し車にしたところ部落の大人に「山の木には精霊がゐる、木は大切な財産で暖炉に火を焼べるため以上に木を切つてはいけない、手押し車を使へば次はもつと澤山の木を切るために自動車、そしてトラックが必要になる……たちまち山の木はなくなつてしまふ」と(このセリフは深い)。映画は余計な脚色を用ゐず、実際の村で苗族の村人たちがキャストで、音楽も効果音も何もない。多くの村人は里山に自分の木を一本決めて、それを大切に育てるほど樹木と共生してゐる。少年は父親探しの旅に出るのだが祖母から持たされた米も山間で孤独に猟をする青年に分けてしまひ近くの村の縁戚の家で棚田での稲作手伝ひ得た米も通りかゝりの集落の大火に遭遇し、そこで施し米にしてしまひ、自らはいろ/\苦労するなかで少しずつ大人になつてゆく。成人式も近くなり村に戻らうと山道を歩いてゐると心配した祖母も老いた身で山道を孫を探しに来てをり再開。村に戻り成人式も近いある日、早朝に村人に叩き起こされたのは広州の工場で守衛の仕事してゐた、自分が兄のやうに慕ふ青年が事故に遭ひ遺体となつて部落に戻つてきた悲しみ。この青年の魂が宿つた木を切り棺を作る。山間での葬式行列の最後を歩きながら少年は涙ながらに即興で、この青年への送り歌を歌ひ出す。そのときの自分の悲しみ、悦びを少年は歌に託すことが出来るやうになつてゐた。森のなかに青年の棺を埋め、そこにまた若い苗木を植える。かうして新しい木が育ち、また新しい生命が生まれる。少年の成人式の朝。祖母が丹精込めて縫つた前垂をつけ村の長老から銃を渡される。老い先短い祖母が自分の銀製の装飾具を売り購つた銃、それは少年が町で何度も訪れたことのある鍛冶屋で銃作りの老人が仕上げたのであらう、見事な絵柄の銃、成人の祝ひに少年が空に向けて一発銃を撃ち……といふ話。映画や舞台に感情移入できぬアタシが珍しく感動して最後の祖母の笑顔には思はず感涙。この上映は今年の中國電影展の一つで今回のテーマは「民族電影」といふことで結構異色作あり(こちら)。
朝日新聞を見たら香港の騒動に関する記事で「交差点でデモ隊とにらみ合う警官隊。占拠は17日朝には奥の通りの一部だけだったが、18日朝までに反対車線や手前の通りが再び占拠された」といふ写真あり(下写真左)。「また朝日新聞誤報か」などと論ふ気はないが(他の新聞だつて同じやうなもの)、少なくてもこの写真に「デモ隊」は映つてをらず警察と対峙してゐるやうに見えるのはアタシら単なる物見遊山の市民か観光客。この写真の撮影が30分遅かつたらアタシも此処に写つてゐたか。警察は道路を再び占拠されぬやうに監視してゐるだけで、この時間にデモ隊との緊張はない。強いていへば写真の、アタシが赤枠で囲んだあたりがテント村で占拠の学生や市民がぽつ/\ゐるがそこも含め基本的には繁華街の目抜き通りが歩行者天国状態。これはあくまで「土曜の午後で芋を洗ふやうに市民が溢れてゐるだけ」の写真。警察と「にらみ合う」なんてのは、この写真ではあり得ないのは横隊とはいへ手持ち無沙汰な警官の表情や態度を見れば明らか。この写真の光景を正確に表現すれば「16日まではこの交差点四方広く占拠されてゐたが17日朝までに警察は奥の通りの一部だけを残し占拠を止めさせたが反発する市民や学生が再び18日朝までに反対車線や手前の通りを占拠し、警察は占拠がこれ以上広がらないよう要所となる交差点で警戒を強めており、それを市民や観光客が遠巻きに見ている光景」といふことになる=つまり写真が活きない。また本社編集局のデスクが(そこまで状況は理解してゐないが)香港から送られてきた写真に、勝手に「デモ隊対警察」といふイメージを付けてしまつたのでせう←繰り返すが朝日に限つたことではないのは日経は共同通信で同じやうな写真(下写真中)に「にらみ合う警官隊とデモ隊」なのだから。警官たちの表情や姿勢に注目あれ。興味深いのはアタシがTwitterで朝日を指摘した際は朝日嫌ひの皆さんの琴線に触れたやうで、いきなり20くらゐretweetや「いいね」があつたのに日経のことになると僅か。ネットが冷静な観察でないことの証左。都新聞はEPA・時事で「デモ隊と向かい合う警官隊」で写真(下写真右)が地味。道路占拠側の数名の学生は座り込んでスマフォに夢中?で向かい合っていないのだが。……いずれにせよ、こんなもの。夜は夜で警察と学生らとの衝突あり怪我人も出てゐるのだが、それはそれできちんと事実と的確な写真用ゐるなどして報道すべき。この写真で語られるべきことは「それだけ市民や中国からの観光客が関心をもつて、この運動の状況と動きを見守つてゐる」といふことかしら。……それにしてもこのネタ、Twitterでも書いたところ「朝日の誤報」は反響大きいのだが、それに対して日経も同じやうな誤認あるはずなのだが反響は三分の一ほど。いかに「朝日憎し」で朝日だけが槍玉に挙げられるか、がよくわかる。