農暦八月廿八日。未明に寝汗もかゝず少し肌寒いくらゐに感じて目醒めると気温は摂氏廿六度。日本なら熱帯夜だが。ジョギングしてゐるとやはり秋風。だがハーバーを東→西に走ったら向かひ風に難儀。昼に麺を食し午睡。このパータンがすつかり最近の休日。午後は根が生えたやうにラウンジチェアで華胥に遊ぶばかり。『断腸亭日乗』全七巻（岩波、2002年）と永井荷風日記全七巻（昭和33年、東都書房刊）夫々の「栞」再読。
龍井の茶の葉も覚ゆ残暑かな
夕方Ｚ嬢と北角経由で猫愛でてミニバスでミッドレベルへ。Robinson Rdの不動産屋でかつて住んでゐた狭いマンションが億ションになつてをりNetで903sf、実用面積692sfつまり約70平米でHK$60K、円安で84.２万円也。2002年当時と比べ賃貸は３倍余。ばか／＼しい話。FCCで二人で珍しくがぶ／＼と飲みがつ／＼とデザートまで飰す。帰宅して荷風「栞」読了。
▼大型の台風が高雄直撃で台北に向け見事に台湾縦断、さぞや警戒だらう、と新聞（台蘋）見たら一面トップは「歌壇天后」王菲（フェイウォン）と香港の俳優・謝霆鋒（ニコラス）11年ぶりに復縁といふ蘋果日報によるスクープ……。14年前に二十歳のニコラスが14歳年上のフェイウォンとの姉弟愛で話題になつたが破局迎へ、ニコラスの方は嫁の張栢芝（セシリア）が陳冠希（エディソン）の猥褻写真流出や不和もあり、フェイウォンもニコラスも離婚していたが、今回はニコラスの短い北京滞在のなかフェイウォンのマンションでの密会を蘋果日報もよくぞ盗撮するわな、で（だうでもいゝけど）大スクープだが大型台風より紙面での扱いデカいのは台風情報はどこでもわかるが、このスクープは蘋果独占だから、かしら。それにしても警備厳重なマンションでの盗撮といゝどこか事務所のリークっぽい感じあり。
▼偶然に荷風の研究者（米国人のＧ氏）に出会つたことで、岩波書店が2002年刊の『断腸亭日乗』全七巻と荷風生前の昭和33年からから東都書房で刊行の永井荷風日記全七巻寄贈決める。陋房には荷風全集（岩波、昭和49年刊）あるため、この二つを手放してもよからう、狭い部屋の書架も少し片付く、といふ算段。老ひ先短いのでそろ／＼書籍や蒐集の品々の遺散考へないといけない。手放す前に夫々の「栞」再読した次第。前者の栞は一巻毎に鹿島茂ら文学者による荷風論で最近のものなので殊更興味深き話もないが後者は荷風老年の側近たる相磯凌霜（あいそりょうそう）による此の荷風日記（断腸亭日乗元本で一部書き換へありの昭和23年までの日記集で荷風の検書印あり）に関する当時の世相と日記に登場する人物や作品、芝居などに関する簡単な解説で読んでゐて面白い。荷風の日剩通読の者には既知の事柄多いが壮吉さん愛用の雁皮の罫引（の用紙）が日本橋榛原のものだと谷崎が書いてゐることや昭和８年の吉井伯夫人ら不良有閑マダムの醜聞など忘れてゐたことも読んでゐて幾つか思ひ出され日蓮宗の鬼子母神が元々は真言宗だつたことや昭和13年の「葛飾情話」のオペラ館での上演で原作、脚本、演出の荷風先生が百圓の稿料に対してオペラ館の小屋の表、裏方に配つた祝儀が計三百五十圓になつたこと、浅草交響曲（シンフォニヤデルアサクサ）の映画台本が映画製作されるまゝ行方不明だつたものが神田の古書肆店主が愛蔵し昭和29年にサンデー毎日で掲載され全貌が明らかになつたこと……等、迂生知らぬ事も多し。それにしても綺堂五十八、鷗外六十一、荷風唯一の親友啞々子（井上精一）四十六、柳北四十八と先達の享年見るにつけ無駄に長生きしても、と想ふ。この相磯凌霜による日記各巻の栞の圧巻は最終の第七巻のもので、これが発行されたのが昭和34年5月25日、第六巻はその年の4月25日、つまり第六巻までが荷風生前に発行され第六巻発行直後の四月晦日に荷風散人仙遊、この第七巻の栞が凌霜による荷風先生追悼の文章となり、急逝から告別式までのこと、永井家、荷風散人略歴などかなりプライベートまで詳しく綴られてをり、戦後、散人本人からかなりの話を直接伝へ聞いてゐる凌霜ならではの四畳半襖下張までの「こぼれ話」あり。
▼政府与党と翼賛マスコミによる朝日攻撃止まる処を知らず。山口二郎先生が首相が福島原発汚染水を「アンダーコントロール」と嘯いたことを撤回し謝罪したか、読売も産経も自らの誤報は棚に上げ、と怒つてゐる（都新聞）のはご尤も。これはマッカーシズムだ、と。池上先生もさすがに呆れて掲載拒否は他紙でもあつたこと、朝日叩きを自社の新聞販売促進する読売の節操のなさや、朝日やNHKを「売国」といふ文春の表現など戦時中の言論封殺か、と「週刊文春のコラムで」非難。低い民度に相応でマスコミも底知れずのバカぶり発揮。
