富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

活字印刷の名刺誂へる

fookpaktsuen2014-07-11

農暦六月十五日。夜が空けると朝焼け。結局、台風では四国や北陸などの被害に比べ近畿は小雨ぱらついただけ、で終はる。朝六時五十分の空港バスで上本町を発つ。関西空港。Priority Passのラウンジは場外(イミグレ手前)、空港内のクレジットカード上客ラウンジは相変はらず「日本発行カードのみ」のみ。海外発行のカードでもご利用いたゞけるのはDinersとJCBだけでございます、ってJCBの海外発行カードなんて稀も稀、15年ぶりくらゐにDiners申請するか。CX576便かなり空いてゐる。Y席前から2列目だつたがY最前列(足長席)に上客をらずさっさと移動で快適なYの旅(A330-300のCX使用は椅子が倒れず前にズレる失敗座席で座り心地はよくないが)。

今、日本は弱者に対して恐ろしいほど酷薄な社会になってしまった。とくに「こどもの貧困」や、母子家庭の半分が年収120万円以下という状況は、とても文明国とはいえない。こんな状況を放置しておいて「女性の力の活用」などと平然と発言できるのは、どういう神経なのか。教育の無償化ひとつ実現できない国が、どんなに華やかなオリンピクを開いたところで「尊敬される国」にはなれないのである。学校給食だけが一日の中のまともな食事という貧しさの中で子どもはどんな将来の夢がもてるだろう? リニア新幹線を走らせるよりも、飢えた子どもが一人もいない社会を作ることがどれほど難しく、価値あることか。安倍政権にすり寄って「愛国」を叫ぶ人々は、自分が年老いて誰も支えてくれる者のない生活をしているところを想像してみるといい。それは必ずやって来る「現実」なのである。

……と機内で読んでゐた岩波書店の『図書』六月号で赤川次郎さん。香港に戻る機内から見下ろす西貢はよく晴れてゐたが空港近くは驟雨。空港バスで香港島に還る途中から猛烈な青空。午後、自宅で書類整理。早晩に太古坊。生牡蠣供すCodfishの店先でかなり久々に麦酒二杯。Z嬢と順景餐庁といふ随分昔からある越南料理屋に飰す。今回、母から実家に届いた名刺受け取る。随分と前から活字印刷の名刺を作りたい、と思つてゐた。最近はオフセット(平版印刷)どころかパソコン印刷や将又コピー機で手軽に、の名刺まで普及するなか活版印刷でも、ちゃんと活字を組んで、の名刺。香港でも永利街にあつた活版印刷屋の閉業で使はれてきた鉛活字の保存を好事家が願ひ出るほどで実際の印刷は無理、台北も残り少なくなつた鉛印刷を日星鑄字行などは社会事業的に遺してをり前回そこを訪れたが実際の名刺等の作成はプロセスがかなり面倒。やはりかうした特異なことは日本で、日本だとネット注文もできるほどだが材質に拘らぬ活版印刷は手軽でも活字で本格的に、となると稀。そのなかで銀座新富町にある中村活字といふ印刷屋で「富柏村」の名刺誂へたもの。期待以上に満足の出来上がりなのは活字の美しさばかりか一寸鼠色がかつたインクの色であり、何よりも柔らかな紙質。こんな名刺を活字で作つてくれる印刷工房あるだけでも何て幸せなことなのかしら。

鏡花全集 巻1

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