富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

耶蘇復活節連休

fookpaktsuen2014-04-18

農暦三月十九日。晴。耶蘇の祭で今日から四連休。旅先は恐ろしい混雑のはず。この復活祭は「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日」ださうで毎年前後するが、これが四月の初旬頃だと香港映画祭にぶつかるが今年は遅い。旅先は恐ろしい混雑で旅費も嵩み出かけぬのが懸命。昼に西湾河の街市で食材購ふ。今年初めての榴槤を頬張る。一磅十元。なか/\芳しい。転寝しつゝ読書。南方周末がiPadのNewsstandで読めるやうになつた。この週刊新聞だいぶ中央の息はかゝるやうになつたとはいへ内地でこれだけやるのは立派。立ち位置はDer Spiegel的。日本にこんな社会派週刊新聞がない。週刊金曜日では左すぎ。晩にコロッケ揚げる。鈴木博之『東京の地霊』(ちくま学芸文庫)読了。
エコノミスト誌の今週末号。欧州版表紙はウクライナ齧りつく熊=ロシア。アジア版はメインテーマ「都市化する中国」に合はせてゐる。巻頭(Leaders)では“Urbanisation - Where China’s future will happen”(こちら)、その本題は“Building the dream”(こちら)から14頁の特集は総力的。このまゝいくと2030年に中国の都市部人口が10億人に達する由。中国を悪くいふのは易いが、これだけの国土と都市部人口が維持できるといふだけ中共だけでなく総体としての過去からの「中国」の何とも凄み。中国の記事が巻頭、中国欄、特集と並ぶなかアタシが一番気になるのは“Chinese tourists - Coming to a beach near you”といふ国際面の記事(こちら)。昨年9,730万人が中国から海外(香港、マカオ含む)に出かけ2020年には倍増とか。旅行先は本当にどこもかしこも中国人となる。そんな総力特集の中国に対して日本の記事は?といへば“Japan reboots - Back on track?”と日本が中韓に嫌はれた上に米国に叱られ晋三もアベノミクスの茶番も陰りが見え多少の真っ当な政治への路線変更といふ話(こちら)。これは「保守」回帰だらう、今更だが。日本といへばNY Timesに“What Germany Can Teach Japan”といふ記事あり(こちら)。
鈴木博之『東京の地霊』(ちくま学芸文庫)。著者は鳥居坂国際文化会館や東京驛などの建物保存や復元に尽力され、さうした記事でこの方を識り何冊か著書集めたが読まぬうちに今年二月にご逝去。東京で果たして「地霊」といふほどのものかどうか、は「あとがき」の藤森先生同様アタシも疑問だが東京の土地の物語として矢田挿雲『江戸から東京へ』の流れとして面白い。例へば上野の話で「大村益次郎はおそらく直感的に、江戸の武士を上野で葬ることによって、江戸はその魂をゆずりわたすであろうと見抜いたに違いない」なんて梅原先生にしか許されないやうな学者らしからぬ直感で語る。ところでやはり『江戸名所図会』を読まなければ。御殿山の記述など

この所は海に臨める丘山にして數千歩の芝生たり。殊更寛文の頃和州吉野山の櫻の苗を植ゑさせ給ひ春時爛漫として尤も壯觀たり。彌生の花盛には雲とまがひ雪と亂れて花香は遠く浦風に吹き送りて磯菜摘む海人の袂を襲ふ。樽の前に醉ひを進むる春風は枝を鳴らさず鶯の囀りも太平を奏するに似たり。

なんてステキなことったらありゃしない。鳥居坂国際文化会館が庭は小川治兵衛(植治=うえぢ、こちら)があり此処で九代目らが天覧歌舞伎の井上馨邸、その後の岩崎小弥太邸が空襲で焼失といふは識つてゐたが、その間に久邇宮邸となつた時期があり良子姫(のちの昭和の香淳皇后)が此処の生まれだとは。植治といへば有力者の邸の造園では数多だが戦前の造り主の一人に長尾欽弥をり。今のわかもと製薬創始者だが財界人として近衛文麿と懇意で終戦後、戦犯として逮捕されるにあたり覚悟決めた近衛が軽井沢から上京し自邸に入らず身を寄せたのが荻窪にあつた長尾の本邸・荻外荘で、最期、服毒で自殺するが、その毒薬もこの荻外荘で製薬会社社長たる長尾から入手といふ節もある由。この本、上述の藤森あとがき(文春文庫版)に加へちくま文庫本化にあたつての石山修武のあとがきのアウトヘーベンも面白いところ。

東京の地霊(ゲニウス・ロキ) (ちくま学芸文庫)

東京の地霊(ゲニウス・ロキ) (ちくま学芸文庫)