富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

春樹の比喩にご用心

fookpaktsuen2014-02-11

農暦正月十二日。未明の気温摂氏六度。極寒。この気温が維納と同じだとチョートク先生の顔本で知る。朝四時ころ目ざめてしまつて眠れぬし腹瀉はするし、でまんじりとせぬまゝ文藝春秋三月号読む。今日は日本は建国記念日祝日法ではこの日は「建国をしのび国を愛する心を養ふ」さう。晋三は相変らず「私たちの愛する国、日本を、より美しい、誇りある国にしていく責任を痛感し決意を新たにしています」と宣ふ。ちなみに四月廿八日の「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」今年開催せぬ由。政府は「当初から毎年の開催を想定していなかつた」とするが昨年「天皇陛下万歳」で、あれだけ陛下を困惑させたのだから。二晩続けて早寝で夜中に起きてしまひ眠れぬ上に発汗、腹瀉、頭痛などひどく今朝は寒さゆゑ余計に体調芳しからず。晝まで急ぎの仕事だけ済ませ養和病院に往く。予想通りでGastroenteritisの診断。陋宅に戻ると郵便受けに2月の電気料金の請求書。順調に昨年7月から冷房も、冬になっても暖房も使わずに省エネ生活してきたが断熱材もないコンクリート壁のマンションの室内気温は摂氏13度、さすがに寒くてこの冬初めて暖房をつける。昨日から何だか右目が痒い、気がつくと乾いた目脂がこびりついてゐる……と思つてゐたら今日の午後から目はかなり充血するわ、涙は止まらず、今まで経験したことないくらゐ乳濁色の目脂が出続け、このまゝ明日まで我慢すると思ふとぞっとして風邪でだるいのに晩二更に再び養和病院の夜間診療に。典型的な結膜炎。ステロイド剤系の点眼薬と塗り薬さっと処方されるのがさすが香港。それにしても昨年から直腸の内視鏡検査、偏頭痛での内視鏡、風邪に結膜炎と病院に通ひっぱなし。さういふ年ごとなのかしら。
▼実はこの二日ほどハルキムラカミ関連本読む。「実は」といはないといけないと思ふのは、やはりどこかハルキムラカミ読むことに躊躇ひがあるからで、しかもモノホンのハルキムラカミ本に非ず内田樹著「もういちど 村上春樹にご用心」と芳川泰久・西脇雅彦共著「村上春樹 読める比喩辞典」(ミネルヴァ書房)の2冊。前者は書名が「村上春樹にご用心」なので内田樹先生もやはりハルキムラカミが苦手なのか、苦手な上で読んでゐるのか、さすがだ、と思つて入手した一冊だが実は樹先生はハルキムラカミがお好き(笑)。徹頭徹尾ハルキムラカミ讃美で書店で立ち読みだつたら買はなかつたのだが……。唯一面白かつたのは「はじめに」で書かれてゐる、ハルキムラカミの小説といふのは『羊をめぐる冒険』から『IQ84』まで変はることなく一つのプリミティヴな物語の構造が反復されてゐることで、それは

ごく平凡な主人公の日常に不意に「邪悪なもの」が闖入してきて、愛するものを損なうが、非力で卑小な存在である主人公が全力を尽くして、その侵入を食い止め「邪悪なるもの」を押し戻し、世界に一時的な均衡を回復する。

といふ物語だ、と。確かに、さすが樹先生。アタシも数作品読んだことのあるハルキムラカミはそれ。たゞロールプレイングゲームぢゃないんだから飽きるやうな気がするのはアタシだけかしら。その何が面白いのか、がアタシにはわからない。で後者は、あのハルキムラカミの独特の比喩に関する書籍で、あの

点心の蒸篭が5メートル80センチ積み上がったようなプレッシャーからネズミ君を救い出すために ©富柏村

みたいな、比喩の世界の面白さがわかればハルキムラカミを読む楽しさもわかるのでは?と勉強のために読んだがハルキムラカミの小説でも2頁に1度くらゐなら「またヘンな表現するよね」で済む、あの

紀尾井町のホテルのレストランでのお見合いのさなか、突然、柳井さんは「赤坂見附の地下鉄ホームの、あの独特のにおいは、きっと、都心もかつてはシダが覆う平原だったからなんだ」ということがわかって、今日のお見合いは来て良かった、と思うことができた。 ©富柏村

みたいな表現が比喩事典なので「これでもか、これでもか」とハルキムラカミのほゞ全作品から抽出されテーマ毎に羅列され、それが論じられてゐるので、数ページ読んだら、もう「勘弁してください」的に食傷気味になつてしまつて途中放棄。やはりハルキムラカミさんは強烈でアタシはダメみたい……。
蘋果日報1面トップで「逾六千公安搜捕 東莞掃黄港人大逃亡」と中国の「性都」東莞で公安六千名出動しての大規模な「買春取締り」あり香港からの嫖客慌てゝ香港に逃げ帰り、と報ず。東莞も最盛期は色情産業は年間500億元に達する大規模産業で東莞のGDPが昨年5.5千億元なので七分の一に相当の由。政府の色情産業取締りは遊客ばかりか卡拉OKやナイトクラブなど失業も生むわけでネットでの「央視無情,人間有愛。眾志成城,一方有難,八方支援!東莞挺住!東莞不哭!東莞加油!今天我們都是東莞人!」は何だか反日のときとニュアンスが似てゐなくもなし。
文藝春秋三月号。巻頭随筆で過去の芥川、直木両賞の受賞者に随筆書かせてゐるが佐藤藍子さんの思い出話秀逸。受賞の報せは丁度、入院してゐた川上宗薫氏見舞つた時で病院でナースステーションの前に寝間着姿の宗薫先生が電話中。愛子さんに「受賞だぞ」と教えてくれた、といふ。当時、愛子さんは檀那の借金取り立てに遭ひ四苦八苦してゐたが、受賞で収入も増えれば借金返済も楽になるか、と思つたところ受賞にすぐお祝ひをよこしたのがやり手の借金取りの婆さんだつた、と。TBSテレビの「素晴らしき仲間」で愛子さん、狐狸庵先生、杜夫さんの鼎談……にもならないくらゐはちゃめちゃだつたが本当に面白かつた。宗薫先生といへば若かりし頃の田中康夫が当時、文壇で珍しく「なんとなくクリスタル」評価した宗薫先生を師と仰ぎ先生をお連れして首都高ブリ/\と走りながらの会話も印象的。

もういちど 村上春樹にご用心

もういちど 村上春樹にご用心

村上春樹 読める比喩事典

村上春樹 読める比喩事典