富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

ノーマルパラノイア

fookpaktsuen2013-07-28

農暦六月廿一日。久しぶりの晴れ間。午前中ハーバー沿ひ5kmほど走る。午睡。読書。早晩に湾仔。Z嬢と六國飯店の粤軒に飰す。廿五日の信報に劉健威兄が「六國飯店」といふ随筆書かれてゐて
和陸羽茶室一樣,六國飯店今年慶祝其八十大壽。兩間都是本港最古老的粵菜館。受六國飯店之邀,參加了一次慶祝晚宴,全晚都是懷舊菜式:金錢蟹盒、金錢雞、龍穿鳳翼、燕窩鷓鴣粥、煙鯧魚、八寶鴨、台山蟹缽……上了年紀的人都嘗過,但對許多年輕人來說,可能聽也沒聽過,當中,尤其特別的是鷓鴣粥──這是「冇米粥」,是用燕窩來代替米,配料是雞蓉和鷓鴣蓉;這道菜除了六國,也只有陸羽才有供應……
と創業八十周年の記念宴会に健威兄招かれ、そこで「吃完晚飯,還每人送上一個禮物盒。這禮物盒設計得很有心思,當中……」で懷舊菜譜本、『スージーウォンの世界』ペーパーバック六國限定版、オルゴール、キーホルダー、映画『スージーウォンの世界』で流れていたThe Ding Dong SongのCD、歴史絵葉書10枚セット、ローラーボール筆と超豪華なセット。これに食指動き、このホテルの総支配人J氏にメールすると、すぐに「勿論、差し上げますよ」と返事いたゞき今日、ホテルのコンセルジュデスクで受取り。本当に「ここまでやるか」のレトロな記念品セットに満足。
▼今日読んだ岩波『世界』四月号(もう四ヶ月前のを読んでゐる)で孫歌「ノーマルパラノイア現代社会」にかなり学ぶところあり。三一一惨禍のあと日本人の思考回路をノーマルパラノイアで見事に分析してみせるが、これは中国でも毒入りミルクや様々な危機での対応も同様。日本が中国と違ふ点は「公共の事柄を政府の行政システムの管理に任せることになれていて、行政システムが謝ったからといって、安全感覚に影響が出ることがなかった」点。あの惨禍のあとノーマル状態の維持は見事ですらあるが、それがパラノイアとなり「危機によって暴かれた様々な社会問題は、危機が過ぎ去ったあと、徐々に再び隠蔽された」。そして重大な問題でも、それをよく知らず、関心をもたない人も現れ、現実と自分の理解のギャップに何の矛盾も感じない。また様々な出来事に敏感さを保ち道義的責任で慷概や熱狂を示すが「同時にきわめて閉鎖的な個人主義的生活態度をとり、その両者が矛盾なく共存する」人もゐるといふ。アタシなど、これか?と少し寒くなる。孫歌はノーマルパラノイアに対して強力でしたゝかでもある強力な精神的エネルギーをもつ例として沖縄の民衆運動家を挙げる。本当なら沖縄独立すらあるが、それをすることで旧ユーゴ的な問題を引き起こすことがわかつてゐるから、この動きは抑へ、とにかく米軍を県外に追い出すことに運動を集中する。沖縄の利益を絶対的な前提とせず、人類の平和を第一目標とすること。
▼同じ『世界』に佐藤学教授(学習院大学、教育学)の安倍政権の教育改革構想検証も一読に値す。「現実を直視せず虚妄によって「危機」を創作し、虚妄のプロパガンダによってファッショ的に改革を断行している」晋三だから教育改革も一緒。<子どもの自殺=いじめ>と連結させるパターンがいつの間にかメディア通じて形成されてゐるが子ども(19歳以下)の自殺は1950年代と比べ4分の1に減少、近年の自殺率は微増してゐるが自殺者数は減少、子どもの自殺は毎年600人前後で全自殺者数の2%ほど、学齢児童に限定するともっと少なく2011年度で小学校で4人、中学校で39人、高校で159人で、いじめによる自殺は昨年こそ4人となつたが、これは大津の事件の報道で自殺が誘発されたもので過去のデータでは毎年0か1名で、子どもの自殺全体の1%だといふ。勿論、いじめの問題は解決されるべきだが実は99%の子どもの自殺は家庭不和や貧困、健康、学業不振や就職不安などによるもので、それら教育の危機のうち問題はなぜ1%の現象だけがメディアに過剰に報道され自民党の教育政策でも最重要課題の一つとなるのか。それを佐藤先生は「いじめこそが集団ヒステリーを背景として「道徳の教科化」を推進する根拠となり教師と教育委員会を責める条件になるからだ、といふ。
▼日経の「風見鶏」欄で「慎重運転を切に願う」と西田睦美(編集委員)が「参院選圧勝で安倍長期政権の可能性が開けたのは喜ばしい。戦略的な外交を展開するうえで、長期政権は絶対に欠かせぬ条件だ。気がかりなのは安倍晋三首相の強固な保守思想である。参院選が終わり、首相を支持する勢力からの保守バネも強まろう。歴史認識問題は安倍首相のアキレスけんになり続ける」と。果たして晋三にあるのは強固な保守思想か。本来の保守とは戦後培つてきた自民党らしさ、バランスのとられた安定志向であつて晋三的な戦後レジームからの脱却は、ありゃ革新だらう。

世界 2013年 04月号 [雑誌]

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