富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

映画『変態仮面』

fookpaktsuen2013-07-26

農暦六月十九日。七月末に連日こんなに雨空が続くとは稀。毎日、長傘手放せず。早晩に旺角。金曜晩の凄まじい人出のなかZ嬢と待ち合わせ深井陳記の出店で燒鵝飯、近くの甘味屋で喳喳啜り朗豪坊の映画館で『変態仮面』見る。主演・鈴木亮平はご立派、だが謎の数学教師役の安田顕が主人公を凌駕する変態ぶりの覚悟を発揮。上演前の食傷気味の上映中のケータイでの電話禁止、お静かに、といつたお約束マナーCMまで変態仮面バージョンで、これが本編よりウケたかも。場内にはパンティ被つたコアなファンの姿もあり。
The Economist紙(今日発行号)が参院選での自民大勝受け二つの記事。興味深いことに巻頭の“Japan’s election - Licence to grow”(こちら)でもアジア面の“Japan’s upper-house election - Redemption”(こちら)でもアベノミクスの金融安定と多少の効果は期待しつゝも晋三が参院選までは抑制した政治改革に走ることへの不快感と警告。前者は
There is a danger that the ultraconservative Mr Abe will be tempted to use his new majority for political, rather than economic, purposes. He wants to rewrite the constitution imposed on Japan after the country’s defeat in the second world war, so as to erase that humiliation and make Japan a more “normal” country―one able to stand up, especially, to a more assertive China. Yet Mr Abe will need all his political capital and backroom talent to achieve his economic mandate, without a scintilla to spare for constitutional adventurism. As a nationalist, Mr Abe claims to hold his country’s interests paramount: he should prove that by focusing his energy on the urgent task of revitalising its economy.
と指摘し、後者も
The prospect of such breakthroughs would vanish, however, if Mr Abe chooses to visit the controversial Yasukuni shrine in Tokyo, where high-ranking war criminals are honoured among Japan’s war dead. Mr Abe holds kookily favourable views about Japan’s war record. The days around August 15th, the anniversary of Japan’s defeat in the second world war, when visits to Yasukuni surge, are particularly sensitive. It is a dangerous time, too, around the Senkakus, where ultranationalists on both sides have attempted to posture in past years. Mr Abe will not say whether he will join dozens of other lawmakers who are sure to be at Yasukuni. Certainly, he knows that it is not a visit that Japan’s economy-obsessed voters have asked him to make.
と、まるで先生が無邪気な生徒を諭すが如し。
参院選につき佐藤卓己「理念の復権とウェブの機能」(昨夕の都新聞・論壇時評)。中北浩爾「理念の復権─ポスト・マニュフェストと二〇一三年参院選」(岩波『世界』八月号)取り上げ、自民党は野党時代に「草の根保守」の理念掲げたのと同じく民主党も「草の根」に着目し「弱い立場の人々とともに歩む」の文言は自民党の差異をどうにか表したが「こうした「理念の政治」が短期的にはマイナスに作用」し理念が足かせになり広範な野党協力に踏み切れず。佐藤先生は今回の選挙戦がアベノミクス評価といふ短期的射程に議論終始したが「今後は「理念の復権」という中長期的な歴史文脈において我々も支持政党を検討すべき」と指摘。選挙での争点ボケの責任はメディアにもある、として取り上げたのが池上彰文藝春秋8月号の政界リーダー連続インタビューで、これは「議題設定そのものを放棄した総花的企画の典型」(笑)。アタシはこれを読み慎太郎の年寄りのぼやき的な声が聞けた点は面白いと思つたが佐藤先生は晋三の「フェイスブックの利点は、限られた空間とはいえ国民の皆さんが何を求めているのかリアルタイムで知ることができる点」といふ発言を「収穫」と言ひ「インターネットの利点は情報の双方向性にあると考える一般ユーザーは多いが首相は国民感情のモニタリングを意識している」と分析。この数年、“Occupy Wall Street”や「アラブの春」でツイッター革命だのフェイスブックが世界を動かすやうに言はれたが「ソーシャルメディアは一緒に存在することで生まれる身体的なコミュニケーションの代替とはならない*1」、ソーシャルメディアは「上からのデータ管理装置であるだけでなく一般ユーザーのアクセスや書込みを数量化し「一般感情」として測定可能にする下からの価値生産装置」であり、世の中はリンク数で情報を価値づけるグーグル型の「リンク経済」からフェイスブックの「いいね!」ボタンで感情を評価する「Like経済」に進化しており、この情動制御装置は「金融」「ソーシャルメディア」「一般的感情」の三位一体であり、それは「社会変革のメディアというナイーブな幻想から離れてアベノミクスの株価変動、それと連動する内閣支持率、そして安倍晋三フェイスブックのフォロワー37.5万人という数字の意味が吟味されなければならない」と佐藤先生。「メディアが選挙運動を変えるのではない。選挙運動の実践において新しいメディアの文法は生成する」。
▼この晋三の時代に

改憲派は平和ボケなどと嘲笑するけれど、9条は抑止論にとらわれた世界への、とてもラディカルな提言となっている。スペインのグランカナリア島には、9条の碑が設置されている。戦争地域ではよく、「日本は9条の国だ」と話しかけられる。世界に対して日本は、身をもって稀有(けう)な実例を示し続けている。この街から銃が消える日はまだ遠い。でもこの精神だけは手放さない。誰もが銃を持たない社会。その実現のために、我が家は街で最初に銃を捨てる宣言をした。怖いけれど高望みを維持し続けてきた。自衛隊を軍隊にして誇りを取り戻そうと言う人がいる。意味がわからない。他の国と同じで何が誇らしいのだろう。不安と闘いながら世界に理念を示し続けたこの国に生まれたことを僕は何よりも誇りに思う。

森達也監督の誇り高き痩せ我慢(昨日の朝日、こちら)。「9条があるがゆゑに国の独立が守れず、まるでそれで日本が滅ぶ」やうに晋三らは宣ふがアタシは「9条があるがゆゑに国が滅ぶ」なら、それはそれで名誉なことと思ふ。

*1:水嶋一憲「そこに一緒に存在すること ポストメディア時代の政治的情動と一般的感情」『現代思想』七月号