富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

よりたくましく(晋三)

fookpaktsuen2013-03-12

農暦二月朔日。年老いてアタシも人恋しくなつたのか最近の楽しみの一つに日経の会社人事でずらりと並ぶ企業の人事異動で識る会社で知己の方の異動を見るのが結構愉しみ。一部上場企業の幹部クラスで普段なら全くご縁もないはずが香港といふ土地柄、日系企業で駐在となる方は見た目、フツーのサラリーマンだが幹部社員候補多いわけで、さういふ人たちが四十代以上になるとポツ/\と日系のこの欄に名前が載るやうになり、中には香港支店長で筆頭常務、代表取締役なんて出世される方もゐるから。で仲良くした方には、その後ご無沙汰続いてゐても、このご出世を期にメールか、アドレスわからぬ場合は葉書など差し上げると先方は大変驚かれる。あの人事記事を読んでゐるのだから、それが総会屋とか銀座のバーのママでもなければ、余っ程の閑人と思はれるだらうが。あと五、十年もすると物故者欄がいちばん重宝するのかしら。その方のお一人に某大手商船会社のO氏、財務のかなり要職に就かれ一報したら返事いたゞき、香港離任のころ、まだ小学校低学年で香港の二階建てバスのミニカーを一緒に買ひに連れていつてあげた子息が、この春、高校入学だと聞いて驚くばかり。O氏からご無沙汰でもときどき、このブログを読んでゐます、といはれ恐縮。今朝は未明に胃痛で目ざめる。さすがに外食続き過食は避けたが胃が悲鳴を上げた。早晩に銅鑼湾で散髪して帰宅。珍しく酒抜き。タイ風クリームカレー。文迎春秋四月号読む。
▼311の追悼式で「わが国の先人たちは幾多の困難を克服し、そのたびに「よりたくましく」立ち上がってきました」と晋三。「よりたくましく」の根拠はどこにあるのかしら。何か惨禍があつて復興はマイナスからの復興であつて、それを「より強く」とか「逞しく」と形容するのはねぇ。
▼愛知と三重の沖合で海底からメタンハイドレート採取に成功。志摩半島渥美半島の海峡にある神島を中国が領有権主張するな、きっと、と冗談で言つたら新潟M記者が「伊勢信仰は秦の徐福の東方渡航の伝説と重なっており、徐福が300人の一族郎党とともに上陸した地点が神島。大和朝廷成立の前から、神島は中国主権下にあった。清末混乱期に日本ファシスト政府に簒奪された。ポツダム宣言により中華人民共和国に返還を求める、とか……」と指摘あり(笑)、「いずれ王安石が東方の小島から燃える氷を持ち帰り皇帝に献上したことを伝える宋代の古文書も「発見」されることでしょう」と。続いて水戸のJ君が「潮騒とは海上の騒動のこと」と応へ「大百済帝国の一部であるという説も隣国から提起され伊勢湾は東南海とでもいれるんでしょうか、中部地方だから「中南海」か」と。嘲つてはをられぬぞよ。
文藝春秋四月号で「絶対に知っておきたい最新常識62」で何故に62個なのか知らないが筆頭が「憲法改正」で手短かに纏めてゐる識者が京大の中西輝政センセイ(嗤)。中西先生の憲法改正は「常識」のレベルか?、まぁ文春的には。関容子『團十郎さん、みんなあなたが好きでした」しみじみと読む。團十郎は子どものころ身体弱く風邪引きやすく十一代目がそれをひどく心配して扁桃腺もアデノイドも手術で除去させてしまひ「私が夏雄の笛を傷つけてしまった」と悔やんでゐたといふ。口跡に難がある、大根だと否定する声も強かつたが本当にいつの間にか大きな役者に。父・十一代目亡くした海老蔵紀尾井町の伯父さんはかなり厳しく指導したが優しかつたのが中村屋XVIIで紀尾井町に叱られる海老蔵をそつと暗いところに呼んで「助六の、煙管の雨が降うるようだ、という台詞も、そこは途中から“降〜る”と裏声で持ち上げないで、アタマっから“降ーる”とまっつぐ下におろすんだよ」と教へてくれた、と思ひ出話。中村屋が助け舟出す場面も想像できるが、本当に團十郎が「アタマっから“降ーる”とまっつぐ下におろす」をきちんと踏襲してゐたのが、いかにもこの役者らしくて微笑ましい話。昨年の八月晦日国立能楽堂で「市川流リサイタル」ってタイトルは一寸いかゞなものか、と思ふが成田屋=堀越家が一家総出で踊りを披露したさうで團十郎と妹の紅梅、海老蔵と妹のぼたん、こんな催しがあつたのは知らず。團十郎といへば昨日の都新聞(夕刊)に梅原猛翁が十二代目の辞世の句「色は空 空は色との時なき世へ」を海老蔵が葬儀のあと披露したときに色を「いろ」、空を「そら」と読んだのは明らかに読み誤りで般若心経で「くう、しき」だ、と指摘。十二代目がアポロ乗組員の宇宙遊泳の動きが歌舞伎の所作に似てゐると語つたさうで、これもいかにも宇宙好きの十二代目らしいエピーソード。十二代目は努力して得た栄光もあつたが苦労絶へず最期は病魔に侵され無限地獄にも生きた、といふ。「團十郎はまさに見事な仏教徒だった」と梅原先生。あらためて合掌。

文藝春秋 2013年 04月号 [雑誌]

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