富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

由森山大道到皇后大道

fookpaktsuen2012-10-13

農歴八月廿八日。狭い部屋で書籍が棚から溢れてゐるのは、もう数年前からのことだが自分でどの本がどこにあるのか、どころかどんな本があるのか、もやはり本といふのは未読でもせめて背表紙の書名くらゐは眺めてゐないと、どんな本があるのかすら忘却するから。ふと数冊の本を片づけようとして、その数冊のために数冊動かしたらドミノ倒し的に連鎖反応で整理せざるを得ぬ状況となり結局、昼をはさんで四時間半ほどの作業。「あ、ここにあつたのか」ならマダしも「あら、こんな本があつたのか」と驚いてみたり。結局、処分できるのは廿冊ほどで、つまり、それだけ未読ばかり。兎に角、何らかの分類で整理してみたが中文の書籍がちょうど書棚から食み出したところで廊下に並べ記念写真。午後、Z嬢と太古坊。ArtisTreeで香港国際撮影節の目玉で森山大道先生の写真展(こちら)開催中(十月六日〜十一月四日)で参観。恥ずかしい話だがアタシはダイドー先生の写真の良さがよくわからない。ジュクの横丁なんかざっくり撮影したダイドー先生の写真には子どものころから父のカメラ雑誌で馴染んではゐたが、あれはあれで素晴らしい、と迄は思ふが何でこの芸風がこんなに世界的に巨匠扱ひまでとなるのか、までがアタシの扇子では解らない。ピカソの絵がわからない、と実は正直に言へないようなものだがピカソはアタシなりに勝手に解釈できるのだが。この芸風を何十年も徹底して追求してゐるといふのが凄い。マーラーの1番を聴いて、そのあと何曲か別の作曲家の交響曲を聴かされて、でもそのなかにマーラーの9番があつたら誰でも「これがマーラーでしょ」とわかるみたいな。「ウチの見世はこのチューハイと煮込みだけなんだよ、厭ならお帰り」ならチューハイも煮込みも好きだから問題ないのだが大道先生の、この強烈な写真を次、次と見せられると自分がどうしていゝのか、がわからない。そこに陥らされるのがダイドー先生の写真の凄さなのかしら。ArtisTreeを出たところでfacebookに一寸載せたら、すぐに田中長徳先生から反応いたゞく。ダイドー先生を見て顔本でネタを掲げたらチョートク先生からコメント、ってのはこれは凄いことだ、あらためておもふに。チョートク先生はこの写真展のタイトル“Reflection and Regraction”の中題「反射與折射」に感心されてゐた。大道先生の香港での大規模写真展に合わせ展示場の入り口の渡り廊下で(この控え目な態度が立派な)地元のアーティストたちの写真展「由森山大道到皇后大道」ってのはイカしてゐる。「森山大道からQueen's Roadへ」は日本語と英語では意味もわからん。つまり森山大道皇后陛下くらゐ凄いのだ、扱ひが。書籍が片付いて書室にゐるのが心地好い。番に白菜とキノコの鍋で豚肉をしゃぶ/\。ふとニコニコ動画の生放送でK−1のアンディ=フグ(どうもHugがフグでは河豚みたいでヘンだが)の十三回忌で追悼特集番組放送中(スイス人でも国籍は問はぬが十三回忌って仏教徒か……)。思はず放送開始から一時間くらゐだつたが最後まで二時間近く見てしまふ。完ぺきに強いスポーツ選手より、やはり貴乃花(初代)とか強敵に比べ一寸身体には恵まれぬことや怪我を克服して、ってのがいゝ。でもK−1の必殺ワザで、あの「踵返し(かゝとかへし)」って呼び方は他になかつたのかしら。
丸谷才一氏逝去。享年八十七。ジェームス=ジョイスの『ユリシーズ』翻訳も随筆も面白かつたが「裏声で歌え君が代」と「女ざかり」は「満を持して」の大作!と騙されて読んだがアトになつて思へば朝日新聞百目鬼恭三郎に騙されたやうなもの。

「村上君の文学の特性ってのは無国籍、無人格、無個性っていうか、この世界に蔓延している若者の一つの風潮というか本質的な共通項みたいなもんととらえて、だからつまり人気があるんだろうけど。ノーベル賞はかなり政治的なところがありましてね、特に文学賞とか平和賞とか。中学の作家は読んだことありませんがね、新聞の報道によると貧しい農民を描くことでの一種の政権に対する揶揄というか、間接的な批判を書いている。今の中国のいろんな姿勢を見て世界中が苦々しく思っている、そういったものをある種の判断で判断したのではないかっていう気がします。」と十二日の石原都知事記者会見、都新聞より。この人の政治的姿勢は狂つてゐるが芥川賞の評者のときも文学論評は的を得てゐる。

大道先生の今回のこの写真展のPR用の映像は「かなり香港富士フィルム*1的な」アタシの嫌ひな「ヘンにアヴァンギャルドで意味もなく敢えて挑発的」なテイスト。「とにかく今を撮れ」と、それだけはわかる。

*1:余計なことだが展示のなかにフィムルのベタ焼きもいくつかつたがコダックの400TXばかりで今回のスポンサーの富士フィルムがないのが何とも。