富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2012-10-11

農暦八月廿六日。晩に帰宅してぼーっとしてゐると午後七時でiPhoneに一斉にあちこちの特報で「ノーベル文学賞に中国の莫言」が入る。亦たハルキムラカミは外れ。世界の注目をハルキムラカミご本人はこの喧噪をまるで他人事のように(本心はわからないが)毎日、朝早く起きて8枚くらい書いて、あとはジョギングして音楽を聴いて少しのお酒を飲んで美味しいものだけ節制したご飯を食べて……そんなストイックな生活をしてゐるのでせう……でもネットで「海外での」自分への評判はちゃんとチェックしてゐる(笑)。やつぱりドキ/\しながらコメントなんて考へてゐるのかしら、と思ひつゝ英語でのコメントはもう何年も前に出来てゐて、当然、きっと誰もが感動するやうなフレーズで、復唱できるくらいでいつもジョギングのときに諳んじてゐるとか……で、莫言である。「初めてノーベル文学賞をとつた中国籍の作家」と。成る程。日本ではアタシも映画「紅いコーリャン」の原作がこの人、といはれ「あ、さう」といふくらゐか。右上の写真はこの映画撮影のときに左から鞏俐、莫言姜文張芸謀監督。午後七時からの中央電視台のニュースは速報で伝へ他の官製メディアも実に慶祝モード。2000年にノーベル文学賞した高行健は中国人初の同賞受賞だがフランスへの亡命作家で天安門事件に対する西側の異議申し立てとされ中国の官製メディアは冷遇、2年前には劉暁波の平和賞といふ不愉快な受賞もあり、で今回は人民解放軍出身の作家でけして反体制でないどころか官製の中国作家協会副主席。ノーベル賞ダライラマの平和賞以来、中国に対して反体制的なのを今回、多少軌道修正なんていはれてもゐるが気になつたのは翌日(十二日)の官製メディアのうち党中央の人民日報は1面にベタ記事でも載せず14面、記事の扱ひは大きいが文化面。中共的な言説にとつては文学のやうな曖昧なディスクールは常に反体制的な色彩を帯びるかが微妙で、基本的には「作家なんて信用できない」があるのかしら。晩に手羽先と椎茸、榎茸など土鍋に煮て飰す。少し涼しくなつたがあちこち冷房強烈でこれにヤられて悪寒。早寝。
週刊文春は緊急大特集「日中“戦争”世界はどっちの見方か?」と馬鹿さ発揮。世界はどちらの見方もしないって、バカ/\しい。日本はもう終はつてゐるし序でに中国がなくなつてくれても……なんて思はれてゐたら? 新潟M記者が「世界は平和の味方」と。さう思ひたい。週刊文春週刊文春なら文藝春秋もさすが菊池寛だけあつて十一月号は総力特集が「日中文明の衝突」で「どうすれば勝てるのか」(笑)。勝つ、負けるの話ではないし(冷戦時代の米ソの方がまだマトモ)、「文明の衝突」ってローマとイスラムぢゃあるまひし小島争ひで何が文明か(嗤)。一読したが読むに値するやうな内容は皆無。殊に「尖閣に火をつけた香港活動家の正体」(森健)は阿牛(曽健成)に取材までしてゐるが、アタシにとつては筲箕灣で歩いてゐれば見かける、そのへんのオッチャンといふことは別にしても「正体」といふほど何も暴露されてをらず。日本代表する総合誌で、この程度ぢゃ中共を嗤ふ資格なし。立花隆が巻頭エッセイで日韓の「失われた密約」書いてゐるが、こちらの方が十分に面白く1960年の日韓の竹島密約で

竹島・独島問題は、解決せざるを以て解決したとみなす。したがって(日韓基本)条約では触れない。

といふ、なんて大人の(笑)この方便。殆ど禅問答だが

イ、両国とも自国の領土であると主張することを認め、同時にそれに反論することに異論はない。ロ、漁業については両国ともこの島を自国領として線引きし重なった部分は共同水域。ハ、韓国は現状を維持し警備増強、施設新増設はしない。ニ、この合意を今後も引き継ぐ。

と。成る程ねぇ。
▼今日の信報に劉健威兄が連載で「獅子旗」を書かれてゐる。「獅子旗」とは香港の英国植民統治時代の旗で、最近とみに反中共的なデモで掲げられるがこの獅子旗。若者が実際には知らぬ英国統治時代懐かしむ傾向あり。これに対して健威兄は一言「甘い」と。確かに香港の中国返還決まつてからの政庁の政策は開放、寛容、民主化が見られるが植民地は植民地。統治の基本は不公平と不義。英国の法治制度が香港に貢献大だつたとしても百数十年に渡る植民地統治は不合理で、開放政策に至るまで香港人の人権や権利がどれだけ剥奪されてゐたことか。健威兄自身、六十年代に通学の途中、西洋人の子に石を投げられ華人警官に訴へたら「仕方ない。こうして見てやつてゐるから、さすすればあの子らもゐなくなるだらう」と、それくらゐしか対抗できなかつた時代。今になって現実を知らぬまゝ英国植民地統治をば浪漫化するな、なぜ香港人が今、人権、自由、民主と法治を実現しようとするときに世界が唾棄した植民地の旗を掲げるのか、と。御意。

文藝春秋 2012年 11月号 [雑誌]

文藝春秋 2012年 11月号 [雑誌]