富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

把鈞魚台還給鳥和魚!

fookpaktsuen2012-08-19

農暦七月初三。蘋果日報は一面トップで「全国憤怒」と、何だか反日感煽つてゐるよなぁ……と思ひつゝ実は煽つてゐるのは国内での民衆蜂起で困るのは北京中央といふこと。東京新聞の今村太郎記者が香港から尖閣=釣魚に赴いた保釣の活動家たちが「プロ」の活動家で、反北京ながら親北京のフィクサーから資金援助を受けてゐるといつた奇妙な関係を伝へてゐる。金澤大学の倉田先生が指摘してゐるが文匯報が香港の反北京活動家で国内入境禁止の曾健成(阿牛)を「壯士」と称へてゐるのだから。そんななか劉健威兄が中日間の陳腐なナショナリズムに抗して「把鈞魚台還給鳥和魚!」と中環の和平記念塔で静坐活動。尖閣=釣魚を鳥とサカナに還せ、とは全くその通り。健威兄の趣旨に賛同し午後三時からの静坐にアタシの郷里の清酒「月の井」純米酒持参で陣中見舞ひ。炎天下の和平記念塔。此処は二度の世界大戦での英国軍、市民の香港での犠牲者追悼の施設で周囲の芝生も通常は立ち入り禁止。警察の許可をとり此処で和平活動の健威兄には「清酒!」と大変喜ばれる。アタシに出来るのはせめてこの程度のこと。夕方、FCCに独飲。岩波『世界』八月号読む。ケーブルテレビのニュース眺めると深圳、広州、上海と中国各地で反日デモ。公安も強硬姿勢で抑圧するでもなく日本車壊しひっくり返してのやりたい放題。近年の反日の特徴で参加者は祭りに参加したやうな爽快感ともなふ笑み、五星紅旗翳し毛首席の肖像画掲げてでは幕末の尊攘ぢゃないが微妙なところ。広州だつたか、デモ参加者の一人が「反動派打倒」と叫んでゐたのが興味深い。帰宅してイトヨリ焼いて飰す。伊太利はCollio(F-VG)のSchiopettoの08年飲む。飲み始めはかなり癖のある渋みがすぐにかなり甘くなるSauv Blでした。
▼『世界』八月号で豊下楢彦尖閣購入問題の陥穽」興味深い。日中間の対立のなかで結局は米軍の思惑。それと森達彦「厳罰は有効な刑罰なのか」は諾威の法曹、政府関係者への取材で、どうして無差別殺戮にも罪は寛容なのか?を尋ね「激増する凶悪犯罪」といふ噓で警察国家する日本のキチガイぶりを露はにしてゐる。
丹羽宇一郎中国大使を実質的に更迭の由。後任は外務審議官(経済)の西宮伸一君。
▼陶傑さんが書いてゐる「「保釣」觀賞筆記」(蘋果)が面白い。今回の香港の保釣「勇士」の尖閣=釣魚往きで明らかにされたことはこの島が日本の直轄で勇士らの処遇もきちんと入境関係の法令に則り逮捕、拘留、国外退去の処置が採られ誰が見ても、この島が日本の管治下にあること。「勇士」が「闖島」したことで「神聖領土」と言へるなら誰か一人の中国人が査証もなしで沖縄、北海道の空港で無理に入境しようとして強制送還されるのと同じで、しかも日本政府の厚遇で復路の飛行機はCクラスとは(おそらく正規運賃で片道航空券購入のためかしら)世界中の密入国喝采だらう。もしこれが「主権を誇示」の勝利なら1980年代に香港にやつて来た越南難民は英国領香港で主権を叫べたか。「勇士」と誇らしげに1997年以降のこのさまはまるで魯迅の「阿Q正伝」のやう。保釣勇士がまだマシに見えるのは五星紅旗、青天白日旗掲げ、活動家は香港から、で中国、台湾、香港といふ「政治実体」の存在を暗示してゐるやうにも見えるが結局のところ尖閣=釣魚で自衛隊によつて二つの旗が奪はれ海に捨てられた。それでこれが「勝利」なら日本とドイツが第二次世界大戦で負けたのに実は勝つたと叫ぶやうなもので、これはまさに「阿Q」の世界。魯迅がいかに見事か、と。

世界 2012年 08月号 [雑誌]

世界 2012年 08月号 [雑誌]