富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

国破れてサッカーあり

fookpaktsuen2012-08-04

農暦六月十七日。土曜日で久々に週末仕事遠慮。世の中が夏休みで多少のんびりに便乗。といつても陋宅にて書類整理など。昼前にジムで小一時間走る。午後も宅にて読書、午睡。正隆行のマカデミアナッツ(殻入り)とアーモンド、それに格別の干し無花果頬張り白ワイン。晩にスポーツ観戦趣味なきアタシが珍しく倫敦五輪の男子サッカーで日本対埃及戦を眺めながら自家製牛丼で夕食。凄いスピードで日本が積極的に攻め前半の二十分くらゐはいゝが後半見ているとやはりスタミナが気になるが「国破れてサッカーあり」とはよく言ったもので日本も国が破綻しさうでもサッカーが強い……日本も成熟したものだ。これでスタミナがつくと希臘や西班牙、意太利といつた超大国の仲間入り。
辺見庸といふ作家をアタシが最初に知つたのは何十年も前の朝日ジャーナルだつたかしら、たゞあの「笑はない」雰囲気、それは作家の表情も文章もさうなのだが、それが鳥渡取っ付きにくゝて実は作品を読んだこともなし。その辺見庸氏が『死と愛のパンセ』なる新刊(毎日新聞社)上梓で週刊読書人(七月十三日号)に採訪(インタビュー)掲載あり。かなり長くなるがかなり重要な言及あり再録。

ニッポン人ということの、かくも長き惰性や慣性って(略)楽観的かどうかでもなくニッポン人って国を棄てようとしない。国から棄民されても国を転覆しようとするのでなく綿々と国にしがみつく。およそ亡命ということをしない。侵略の思想があっても亡命の思想はもともとニッポンにはない(略)。現在もメガクウェイクがくるのは必至というのにニッポン脱出の気運があるようには見えない。ニッポン人は発想が伝統的にヴァーティカル(垂直的)だから国家というものを外化できない(略)、ニッポンという幻想の同一性をいつまでも棄却しないから国家を超克できない(略)。逆に言えば他国からの亡命者、流浪者もニッポンは歓迎しない。デラシネ=故郷喪失者を怪しんだりする。破滅に瀕したこの期に及んでひとの出自を問うたりする。

辺見庸さうなのだ。京大の小出裕章先生も除染に数百億円かけるなら代替地に移住したほうが得策といふやうなことを「敢へて」言及してゐたが、さつさと故郷を、日本を離れてしまつたアタシは勝手に国家を外化してゐるつもりでゐるが<日本>といふ共同幻想こそ生理的に嫌ふ。プラハや香港への客居は「日本人としてはいけないこと」なのだ、きつと。辺見は藤田省三を引用する*1。日本のファシズムは著しい「矮小性」をもつてゐるといふ藤田の指摘を辺見は更に「卑怯者」だと言ひ、全てのファシストが国内的には天皇の前には敬虔なる臣下で、反動化の過程でも藤田の言ふ

いかに日本社会の歴史的経過が明確なキレ目をもたないか(略)、いかに歴史的連続を遮断するだけの主体的行動性を欠いていたか……

は辺見はこれを戦後民主主義、戦後マスコミ、戦後左翼もまったく同罪で、日本の政治権力はじつは純粋な天皇主義者は少なかったし(三島もそれを憂ひてゐたのだらう)、実際には今の天皇のほうが政界やメディアよりよほど解明的で今上天皇は本音では天皇制や「君が代」を嫌つてゐるやうに思へ、天皇は(皇太子も)相当の見識と批判的問題意識をもっているだらう、とこのへんの指摘は宮台真司も一緒か。で辺見は

この国はまさに「自由と抑圧、生産性と破壊、成長と退化の恐るべき調和」を示している。ついでに加えれば正気と狂気の協調的混合社会でもある。

と言ふ。我々は間違ひなく、いま来てもおかしくない次のメガクウェイクを待つてゐるわけで、それを踏まえた思想や文藝もなく、さういふ「破壊のイメージの拒否」があるのだ、と。新しい貧困者の群れは何らかのファシズムに呑まれヒトとしての価値、内面の有り様じたい誰も認めなくなりヒトは家電の端末化し……これは時代の「閉塞」なんて簡単にいふがじつは「狂気」ではないか、我々は狂ひつゝあるのだ、と辺見庸は言ふ。さうなのだらう。一抜けた、してしまつたアタシが外から何をいふのも猾いのだが。
▼信報が「日媒爆釣島「島主」欠債40億拒絕露面 急於高價脫售還債」と週刊文春の記事引用して報道(こちら)。尖閣諸島の地権者に数十億円の負債あり今回の都だか政府への売却で負債軽減云々と、これはすでに週刊金曜日で和仁さんが書いてゐた記事だが週刊文春がこれを襲つたのが興味深いところ。右派マスコミも一枚岩ではないらしい。

これについて浄瑠璃本K君が「既に大阪府民が大阪ワールドトレードセンタービルディング購入問題で96億円の賠償請求を訴えておられます。くにたちの判例が固定化して欲しくないという気持ちと、別の感情が激しく動揺しています。」と指摘あり。確かに市民が役所、首長を訴へるには両面あり難しいところ。
三木睦子刀自(享年九十五)、女優の津島恵子刀自(享年八十六)逝去。

*1:藤田省三天皇制国家の支配論理』