富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

「大阪でメシが食えるようにする」

fookpaktsuen2012-05-12

農暦四月廿二日。土曜日ながら休み返上で朝から官邸でご執務。昼にコンビニで購つた香茹滑鶏飯なるもの飰すがパッケージの「盛りつけ例」と中身の具の態は天と地の差あれど味はけして悪しからず。午後遅く一つ出先で高座に上がり短い話を一つ。東九龍に一つ用事あり急ぎ済ませて彩虹で待ち合わせたZ嬢と新蒲崗。殺伐とした工場、倉庫街のやうでゐてなか/\面白い商店少なからず散策には悪くない(土曜午後の所為でもあるが)。潮州系で馳名の成記で牛丸と墨魚丸を飰す。本当に手作りの荒削りな美味さ。東頭邨の団地を抜ける。団地好きには垂涎のモダニズム感じる様式美。無機質な集合住宅が並ぶ「だけ」に見えるがビルの地面の公共性、殊に街市や商店の配置などが秀逸。九龍城公園。歴史展示室で昔の、といつても廿年近く前まで此処にあつた九龍城砦の面影眺める。六十年代は何処にでもある都市開発の後継が七十年代に違法建造物が高層化して城砦化。どこか政治的背景あつたのでは?と今になつて思ふ。九十年代初の取壊しの頃には四万人が居住。アタシも此処の歯医者に一、二度行つたのが最後だつたかしら。九龍城の街市あたりで食材購ふ。いつも贔屓の見世でZ嬢はかなり馴染みなのでご近所さんのやう。景盛記の潮洲食品は高血圧&血糖にはありがたい、街市の榮記の果物、上海食材の新三陽……あたりで。新三陽でアタシの好物の海折を購はうと思つて「海折頭ある?」と尋ねると見世のオヤジが「からげ!」と日本語で。そりゃ一寸違ふ、「くらげ」だよ、と教へると店内、爆笑。晩六時過ぎたら夕餉で凄い人出で、あ、明日は母の日か、と思ひ出す。郷里の母には日比谷花壇から小さな薔薇の鉢植へ贈つただけ。金蘭花泰国料理は外に待ち客多し、で同心泰國菜館へ。タイ料理は高血糖の身で何をどう飰すか、は今後の課題。今日の注文は拙かつた、で帰宅後の血糖値は14.5mmol/l=261mg/dlで何を食べたか、が極端に数値に出るから。高血圧&血糖のタイ人は何を食べてゐるのかしら。それを思ふと日本料理は食後でも7.4とか驚くほど。日本人の異常な長寿もなるほど、と納得。食後に金滿堂甜品で榴槤飄香(ドリアンと豆腐花のまぁなんて素敵なコンビネーション)頬張る。
▼岩波の『世界』五月号で中嶋哲彦氏(名大大学院教授、教育行政学)の「収奪と排除の教育改革」が興味深い。共同通信の『内外教育』(三月廿三日号)に掲載された小野田正利教授(阪大)の論説、これはアタシも読んでゐたが、小野田氏が橋下の教育改革での目標設定、例へば「国際社会でも競争力をもって、ちゃんと就職できる」とか「大阪でメシが食えるようにする」といつたコメントを「空疎で陳腐なもの」と片付けたことに対して中嶋先生は「こうした言葉(大阪でメシが食える)こそ諸困難に直面する府民のメンタリティにフィットし、橋下「改革」への支持を引き出している」と指摘し「「陳腐」と言ったところで得るものは何もない」と指摘。また「政治家個人とその個人が担う政治的役割とは区別しなければならない」として「橋下氏個人が政治を動かしているのではなく、この一人の人物を通して政治的・経済的個別利害が形を与えられ、一部の社会的・経済的権力が首長の地位にある人物に媒介されて公権力に変換される」と見る。

「空っぽ」と言うなら、そこにはどんな利害関係でも充填されうる余地と、それに故に生まれる危うさがある。

と。御意。橋下は巨大なブラックホールか……こりゃ怖い。戦後日本の生んだ鬼っ子か。この中嶋先生の橋下論は実に見事に言ひ当てゝゐるが、けして橋下容認ではなく橋下教育改革の詳細を見れば高校の私学無償化など「教育の機会均等」と言ひつゝ実は公立と私学の授業料格差解消=競走条件の均等化であつて、けして教育の機会均等ではないこと、進学校と末端校の格差なども含め、それに義務教育での留年措置の実現なども、選擇と集中、収奪と排除といふ、「一枝を切らば 一子を切るべし」で熊谷陣屋の直実ぢゃないが改革といふ美名の下に常に排除される何か、があること。それが大阪の行政改革だと悪しき公務員、悪しき教員といふスケープゴートが作られるが問題は教育であると、そのスケープゴードが子供となること、大阪は貧乏な子も私立高校に通へる、塾のクーポン券も出る、留年しないよう頑張る……と短絡的には「いゝことづくめ」のやうでゐて、実は裏返すと極端な話は「学力が振るわない児童生徒は大阪市には住み続けられない」といふこと。さうならぬやうに頑張るのが教育なのか、そんな社会が理想的なのか……結局のところ橋下改革の怖さ。
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