富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

マゼール指揮のフィルハーモニア管弦楽団

fookpaktsuen2012-03-31

農暦三月初十。香港映画祭がもうずつと続いてゐるが午前中その僅か二本目!で新藤兼人監督の『一枚のハガキ』見る。新藤監督で一流の芝居上手の役者がずらり。夫を戦争で失くした若い後家には年齢的にちょっと難があるが始終、大竹しのぶの演技の卓越ぶり。上手いのだが上手すぎて正直、一寸食傷気味の感あり。舞台なら自然に見られる演技なのだらうが映画で至近距離からのカメラで撮ると尚更。これを寺島しのぶで、と思つたのは映画のアトにZ嬢と話してゐて、それが若松孝二監督の『キャタピラー』と時代設定から銃後の妻といふ役柄でイメージが被つたからだ、と気づく。進藤監督が後世へ遺そうとする戦争の不幸、それに対する怒り……「戦争は二度と懲り懲り」なのは誰もが思ふところだが「お国のため」で戦争に加担させられ多くを失ひ、耐へて戦後=自由と民主主義の時代を迎へ……たゞ残念なことにレジスタンスがないから、またいつか同じ悲劇が繰り返されるのではないか、と感じる。戦後はもうすぐ70年をば迎へやうとしてゐるが、戦争もなく平和で、は確かに戦後の日本人が糸を紡いで、の結果。それでも映画に出てくる、この人たち=つまり我々ぢゃまた怖い時代がいつか、と思ふ。心地よき土曜の昼。Z嬢とFCCで軽く昼食。陶傑氏の尊顔に拝す。スターフェリーで尖沙咀。文化中心でロリン=マゼールフィルハーモニア管弦楽団の演奏会あり。大マゼール(御年八十二)は2008年だか紐育フィルで来港。中国のあと平壌で事も有ろうに「新世界」演つた、あれの時。今回は香港出身のチェリストTrey Leeと与してのハイドンのチェロ協奏曲1番、で後半はマーラーの1番。マーラー1は第1〜3楽章は馴染みある、独立した作品としてもイケさうな名曲揃ひだが問題は第4楽章をばどう処理するか。かなり無理のある前楽章の再現部、盛り上がるほどのとっ散らかつりが下手なオケだと収集がつかなく混乱の極地で破滅へと向かふ。これをマゼールがフィルハーモニアでどうまとめるか、に期待したが期待裏切らず、でアタシは現存する指揮者とオケの最高のマーラー1を拝聴した、と思ふ。安定した金管木管は同じ一つの楽器がフレーズ毎に見事に様々な音色を奏でて見せ、マゼールは指揮者が本番では「楽団の軸に臨んでゐること」がいかに大切か、を見せつける。アタシは今日は打楽器の上の方の席から始終、指揮者を拝んでゐたが曲の終盤で大きく口を開け歌ふ大マゼール。もう恐らくマゼールを見るのは今回が最後かしら。アンコールでワーグナーのニュルジン前奏曲のオマケつき。このマーラーワーグナーハイドンが何処かに飛んでしまつた。がハイドンのチェロ1だつて本当に美しかつたのだが(たゞTrey Leeが殊に第1楽章でかなり走つてゐたのはいたゞけず)。今日の演奏会の主賓は董建華。現職行政長官の貧官曾がイースター休暇に託け新鴻基兄弟と橋王・許の贈収賄騒ぎのなか急きょ海外逃亡中だが董建華来臨とは。董建華に期待されたのは、まさにマーラーのこのとっ散らかつた交響詩をば見事に指揮する、楽団をばまとめあげた大マゼール並の仕事だつたはず。名伯楽となるべき地位にありながら温厚な人柄ながら失策続きで香港返還後の栄誉ある初代行政長官の職とば任期途中で辞職のこの人がマゼールのこのマーラー1をば聴いて何を感じたか。ちなみに今回のマゼール&フィルハーモニアは中国巡業があり香港も突然決まつたが今日の晩は香港フィルがすでに演奏会予定あり、でマゼール&フィルハーモニアがマチネのやうな午後演奏会となつたもの。横綱の相撲のアトに幕下、といふ感じかしら。Z嬢と別れ早晩に大圍。銀行系金融K女史がお友だちの投資金融系K女史お連れになり待ち合せ。なぜか沙田官立小学校にお連れしてのんびりと佇む、まるで宮崎駿のアニメに出てきそうな学校を見学。小高い丘に建つ学校から坂を下りながら、なんだか「ブラタモリ」ですね、これ、って、と。昔はこのあたりまで海(吐露湾)でしたから、なんて昔話。周囲に高いビルがありますが、これがないころは海の向こうに馬鞍山が一望できて。Speak Easy酒場にお連れして早酒。鶏尾酒。張記で葡萄酒仕入れるつもりが旧本店は早々と清明節連休。三男坊の店が閉まつてゐるのだから父親の旗艦店もだよね、と往つたら休業。家族で遠出かしら。楓林小館。K嬢お二人、銅鑼湾S女史、建築家H嬢、貿易振興H氏、MBAM教授と会食。金融K嬢の習ふ実用広東語が本当に外食に焦点当てた見事な実用性で仕事の出来る方は外国語の勉強も違ふ、と感服。注文もメニュー吟味してK嬢によるもの。アタシと一緒のときに料理の注文決めてくれる方がゐるなんて……ありがたい。なか/\入手難しい日本酒がズラリ、と並ぶ。九平次純米大吟醸、鷺娘、伯楽星は蔵元で大震災をば凌いだ瓶入り、そして英勲の平成23年度全国新酒鑑評会金賞受賞酒。MTRで帰宅の途につくがお酒好きな金融K嬢お二方をばFCCにお連れして二更に飲む。Bloody Mary飲めば健康的、ってもんぢゃないだらうに、と自分に嗤ふ。深更にドバイワールドカップ中継見る。